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Act.5「恭順か死か」.3


「すっげぇ! 魂!? ブラックボックスに格納!? どうなってんだ、アーブ、ばらしていいか?」

「量子通信の最極端? やっぱり精神領域通信こそが技術的最終到達点なのかい?」


 忌避されるどころか、ファイン主任は気持ちの昂ぶりが抑えられずテイを持ちあげて子どものようにはしゃいでいる。ベニオ主任は思うところがあったのか、何かブツブツと呟き始めている。

 報告したアーブが一番困り顔で、迫りくる脅威そっちのけで議論が白熱する。


「はい皆さん。議論もいいですが、当面の問題を考えましょう。それでアーブ主任、この報告をした意図は?」


 まとめ役であるフリッシュ所長が手を叩いて場を収めると、発言権がアーブに帰ってくる。机に置かれたテイを抱きかかえながら、アーブは頷いた。


「彼の精神性は、決して戦術AIそのものと言えるほど、戦闘に特化したものではありません。もちろん、彼の人格プログラムを停止し、戦術AIとしての機能のみを特化させれば、先の戦闘と同等の戦果を出すことはできると思います」


 戦闘後に発覚した戦術AI内の、人格プログラム。テイユニットの保有権はアーブにあり、命令を下すのもアーブだ。

 だから、彼女がもっと自己中心的で、欲求に忠実なら気にする必要はなかったのに。


「でも、彼の人格を、消し去るのは嫌です。私は彼を、戦うために発掘したわけでも、目覚めさせたわけでもない。他のAIたちも、そのために育てたわけじゃないんです」

「……そうですね。私たちの目的は一つ。――もっと遠くへ、ですからね」


 フリッシュ所長の言葉に、全員が大小さまざまに頷く。

 ベニオ主任の通信技術も、タイムラグ無しで宇宙の各地を繋げるためのもので、AIユニットへ即座に命令を発せられるようにと開発を進めてきた。

 ファイン主任のタキオンエンジンも、より遠くへ、より速く、より低コストで辿り着けるようにと開発されてきた。従来品を上回るスピードと出力を持ちながら低燃費。推進剤いらずの新型推進機関とも連動した動力炉だ。


「アーブはこう言っているが……」

「テイ?」

「僕は構わない。どういった経緯で僕がAIユニットになったのかとか、どうして古代文明は魂をAIユニットに組み込んだのかとか、疑問点はいくつかある。だが、僕に求められていることをこなそうと思う気持ちだけは確かだ」


 それはAIユニットに組み込まれた結果、与えられた倫理観のように思う。

 もともともテイ――矢作照偉は、宇宙に憧れた学生に過ぎない。それが宇宙船を造るどころか、宇宙船そのものになってしまったのだ。

 それなのに、この落ち着き様。そして、戦闘に出向こうとするのに恐れのない心理状況。

 彼は自分を客観的に見つめて、結論を出した。


「僕は今、あくまでAIユニットだ。この魂に人権を認めてくれるのは嬉しいけれど、奴らが来た要因の一つは、僕にある」

「いや、俺のタキオンエンジンが狙いだね」

「ファイン主任、ちょっと静かに」


 謎の対抗意識を見せたファイン主任を、フリッシュ所長が黙らせる。


「なら、するべきことはわかっている。アーブを、このコロニーにいるヒトたちを守る。戦う方法はあるのなら、僕は戦う」


 ユニットに移る目を博士たちに向けて、さらに言葉を続ける。


「覚悟なら、もうできてる」



少しでも気に入っていただけたら幸いです。




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