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Act.5「恭順か死か」.2


「あのー、ちょっといいでしょうか」

「おや、どうしたんだいアーブちゃん」

「アーブ、やっぱりお前も迎撃に賛成だよな!? 俺のエンジンと合わせりゃ最強の部隊ができるぜ!」


 狼人種(ルガリアン)のベニオ、頭羽種(アルヴァス)のファインの言葉に、少しアーブは萎縮した様子を見せる。

 同じ研究の仲間たちには主任として立派な姿を見せようとするが、同等の発言権と自分以上の威厳を持つ同じ主任たちには、娘や妹のように接されることもあって、少し緊張気味だった。


「その、私のAIユニットについて、少々報告がございまして……」

「おや、この場でですか? まさか、何か不調が?」


 不思議そうにするフリッシュ所長は、心配そうに少し腰を曲げる。椅子に座ってなお視線の低い彼女に、無意識に彼は視線を合わせに行っていた。


「そうじゃないんです。その、ちょっとした変化が、ありまして」


 ゴト、とアーブはAIユニットを机の上に置く。

 主任研究員たちは興味津々で、今現在自分たちが置かれている危険な状況を忘れたように見入っていた。


「ほう、こいつがアーブちゃんの見つけてきたAIユニット。きれいにクリーニングしたもんだね」

「こいつが俺のタキオンエンジンを動かしたのか。良い働きだったぜ、お前」


 コンッ、とファイン主任の指がユニットを叩く。


「それで、何か問題が?」

「……もういいよ、テイ。話して」

「……ようやくか。肉体がない状態で黙ったままでいるのは、案外しんどく感じるものだな」


 その瞬間、主任たちの顔が青くなる。

 今の声がどこから発生していたのか、アーブが言った問題とは何か、専門外といえども瞬時に理解した。


「シンギュラリティか?」

「それとも、古代文明のAIというのは軒並みその域まで達していたのかい?」

「あなたたちの言いたいことは、何となくわかる。だけど僕は技術的特異点を通過した結果生まれたトップダウン型でも、自己学習の末進化したボトムアップ型でもない」


 問いかけたファイン主任とベニオ主任の視線が、テイのほうへ向く。


「僕はこのユニットの内部にあるブラックボックスに格納された、今から数千年前の地球人の魂だ。AIやユニットではなく、テイと呼んでほしい」


 それは、彼自身にとって、精いっぱいの自己認識だ。

 研究者が大量の情報を与えて作り出したものではなく、無制限の情報の海から作り出されたものではなく、人間の魂と機械が結びついた結果生まれた――古代の産物。

 それは、人間の闘争本能によって戦術AIが淘汰されたこの時代における、特異点か。それとも脅威か。


 その答えは、すぐに示された。



少しでも気に入っていただけたら幸いです。




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