表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/32

Act.5「恭順か死か」.1



 会議室の奥。両脇に白衣を着た主任たちを見据えるのは、龍人種(シンロニアン)のフリッシュ所長。元経済学者で、このコロニーを管理運営する資本家でもある。

 彼の両側に向いた眼が、集まった主任たちを一瞥する。


「結論、戦って死ぬか、黙って死ぬか。そのどちらかのようですな」


 フリッシュ所長の言葉に、アーブを含む研究員たちはため息をつく。

 会議室に集まった研究員たちは、若い青年のような人物もいれば、森で鍋をかき回している姿が似合いそうな老婆もいる。それぞれが格研究分野のトップであり、中には学会から追放された異端児までも含まれていた。


「共和国の執行部隊を退けた以上、実験艦メルクリウス……そのAIユニットの優位性は揺るぎないものであるのは、間違いないでしょう」

「はっ! メルクリウスに搭載しているエンジンユニットはまだ試作段階の物だった! あれは人間が乗る想定で出力を半分にまで抑えているが、本気になれば他のライトスピードエンジンを超える! 次来たときはタキオンエンジンの真の力を拝ませてやる!」


 所長の言葉に応えたのは、新型エンジン開発部門の主任だ。

 鋭くとがった側頭部の耳のような羽と、金色の長髪。アルヴァスと呼ばれる種族の人物である。


「ファイン博士、ご自身の研究に自信を持つのはよろしいですが、アーブ博士のAIとて完璧に独立稼働するわけではありませんよ。一緒に乗ったアーブ博士を、細切れミンチにするつもりですか?」

「次はアーブじゃなくて、専門の、ガタイの強いパイロットを乗せればいい。もしくは誰も乗せないか。あれほどの動きをしたAIユニットだ。単体でも十分運用可能だと俺は思うね」


 アーブのAI――つまりテイへの評価は、おおむね好評だった。古代遺跡からのレストア品とはすでに定例報告会で周知の事実。それでも、これほどの性能を引き出せるものとは思っていなかった。

 このデータをコピーして量産できれば、複数の星系に同時に調査が可能になる。

 量子通信を用いれば各AIを同調させ、さらなる成長を見込める。


「けれど、共和国だけじゃなく、帝国や王国、貴族連合まで相手にするのかい? うちの班が聞いた話じゃ、すでに王国と貴族連合の艦隊も、こっちに向けて動いているのよ」

「ベニオ博士、それは確かですか?」


 紫煙を吐き出す老婆の博士だ。アーブと同じような獣耳(じゅうじ)を持つ種族で、彼女のものは、どちらかというと狼に近い。


「ええ。量子ネットワーク構築班が、奴らの通信を引っかけてね。ちょっと聞いた話だと、王国と貴族連合は手を組んで帝国の艦隊を引き離そうとしているようだよ」

「となると……帝国が最終手段としてこのコロニーを吹き飛ばさないとも限りませんね」


 自国が新技術を独占できないとなったら、たとえ進歩の針を百年止めようとも利益を優先する。国家とはそういうものなのだと、彼はよく知っている。

 沈鬱な雰囲気の中で、気まずそうに手が上る。

 この中の最年少――アーブの手だった。



少しでも気に入っていただけたら幸いです。




評価、感想、ブックマーク、どんなものでも大歓迎ですので、お気軽にどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ