Act.5「恭順か死か」.1
会議室の奥。両脇に白衣を着た主任たちを見据えるのは、龍人種のフリッシュ所長。元経済学者で、このコロニーを管理運営する資本家でもある。
彼の両側に向いた眼が、集まった主任たちを一瞥する。
「結論、戦って死ぬか、黙って死ぬか。そのどちらかのようですな」
フリッシュ所長の言葉に、アーブを含む研究員たちはため息をつく。
会議室に集まった研究員たちは、若い青年のような人物もいれば、森で鍋をかき回している姿が似合いそうな老婆もいる。それぞれが格研究分野のトップであり、中には学会から追放された異端児までも含まれていた。
「共和国の執行部隊を退けた以上、実験艦メルクリウス……そのAIユニットの優位性は揺るぎないものであるのは、間違いないでしょう」
「はっ! メルクリウスに搭載しているエンジンユニットはまだ試作段階の物だった! あれは人間が乗る想定で出力を半分にまで抑えているが、本気になれば他のライトスピードエンジンを超える! 次来たときはタキオンエンジンの真の力を拝ませてやる!」
所長の言葉に応えたのは、新型エンジン開発部門の主任だ。
鋭くとがった側頭部の耳のような羽と、金色の長髪。アルヴァスと呼ばれる種族の人物である。
「ファイン博士、ご自身の研究に自信を持つのはよろしいですが、アーブ博士のAIとて完璧に独立稼働するわけではありませんよ。一緒に乗ったアーブ博士を、細切れミンチにするつもりですか?」
「次はアーブじゃなくて、専門の、ガタイの強いパイロットを乗せればいい。もしくは誰も乗せないか。あれほどの動きをしたAIユニットだ。単体でも十分運用可能だと俺は思うね」
アーブのAI――つまりテイへの評価は、おおむね好評だった。古代遺跡からのレストア品とはすでに定例報告会で周知の事実。それでも、これほどの性能を引き出せるものとは思っていなかった。
このデータをコピーして量産できれば、複数の星系に同時に調査が可能になる。
量子通信を用いれば各AIを同調させ、さらなる成長を見込める。
「けれど、共和国だけじゃなく、帝国や王国、貴族連合まで相手にするのかい? うちの班が聞いた話じゃ、すでに王国と貴族連合の艦隊も、こっちに向けて動いているのよ」
「ベニオ博士、それは確かですか?」
紫煙を吐き出す老婆の博士だ。アーブと同じような獣耳を持つ種族で、彼女のものは、どちらかというと狼に近い。
「ええ。量子ネットワーク構築班が、奴らの通信を引っかけてね。ちょっと聞いた話だと、王国と貴族連合は手を組んで帝国の艦隊を引き離そうとしているようだよ」
「となると……帝国が最終手段としてこのコロニーを吹き飛ばさないとも限りませんね」
自国が新技術を独占できないとなったら、たとえ進歩の針を百年止めようとも利益を優先する。国家とはそういうものなのだと、彼はよく知っている。
沈鬱な雰囲気の中で、気まずそうに手が上る。
この中の最年少――アーブの手だった。
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