Act.4「魂の在り処」.3
テイが自分の存在に納得した時、アーブの通信端末に連絡が入る。
「はい、こちらアーブです。どうしました?」
「アーブ博士、帝国の軍船が来ていまして……」
「まさか、また襲撃?」
共和国の襲撃の直後に帝国の接近。これもテイを狙ってのことか。
「いえ。今のところは。ただ、コロニーの安全確保のための駐留を申告してきまして」
「要するに、どこもかしこもうちの子たちが欲しいってわけね」
苛立ち紛れに机を叩くアーブ。通信は最後に主任会議が一時間後に開かれる旨を告げて切られた。頭を抱えた彼女に、テイは視線を向けた。
「ここは、深宇宙探査船の研究開発所だろう。僕みたいなAIユニット以外の研究もしているのか?」
「うん。新型のコールドスリープ装置、長距離ワープエンジン、新型船体の実証実験、そして君みたいなAIユニットと、いろいろあるのよ」
その基本は船体、推進システムの開発にある。彼女の専門はソフト側であり、ハード側には専門の研究者や設計者たちがいる。
共和国、帝国、王国、貴族連合、銀河の四大勢力それぞれから集まった研究者たちが共同で研究するこのコロニーは、何処からも独立した中立地域でもある。
自分たちの国家に拘らず、より新しいものを生み出すことに全力を注げる者たちだ。
「ここに来た人の中には、自分の国では認められなかった研究者とか、亡命同然でやってきた人とかもいるの。私はもともと共和国民なんだけど、今はもう、籍はないはずよ」
「このコロニー自体が、中立国状態だからな」
中立の技術屋集団。深宇宙開拓にはちょうどいい者たちかもしれないが、戦争状態の国家からしてみれば、どっち付かずの不安な相手だ。
「共和国が先んじて接収しようとしてきたわけだ」
「帝国はそれに遅れてきた分、王国と貴族連合の動きを気にして、防衛部隊の駐留を打診してきたわ。何のための中立だと思ってるのかしら」
「彼らからしてみれば、投資した先の企業から十分な利益を得たいと思うのは当然だろう」
特に、それが国家の技術レベルを超えるものであるのなら、このコロニーで開発された技術は決して無視できない。
「じゃあ、帝国に協力するのか?」
「うーん、そうなると、多分共和国出身の人は、ここに居づらくなるわね。貴族連合なんか、特に帝国から離脱した貴族たちも多いから……あー、確か一人貴族の子爵いなかったっけ?」
「まさしく人種のるつぼだな」
テイには発声器官はあるが、笑う器官はない。ただアーブはそれを読み取ったらしい。
「笑いごとじゃないのよ。全く、勢力争いが面倒くさいからこうして中立の研究機関やってるってのに……」
「また、僕が戦おうか?」
その問いかけに、しばらくアーブは応えなかった。
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