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Act.4「魂の在り処」.2


 テイユニットの中に、人間の脳が詰まっているようなことはなかった。

 つまり、本当に電子的にコピーした矢作照偉と言う青年の記憶が詰まっているということだ。


「何のために地球人をコピーしたのかしら。本当に、戦闘機適正だけを求めて、テイユニットにテイの魂をコピーしたの?」


 アーブは先ほどの戦闘記録を見直しながら呟く。既存の戦術AIに比べれば並外れた戦果ではあるとしても、それが地球人由来かと言われれば首を傾げたくなる。

 そもそも、彼を見つけたのは――。


「君がいたのは、このコロニーの近くにある惑星でね。周囲の星間物質のせいで、二百光年から先の位置じゃあ観測できないの。だから、私たちが観測を始めた時点で、すでにあなたを造った古代人はいなくなってたの」


 宇宙の規模からすれば、そう言った古代文明の痕跡を見つけるのは、困難であるが不可能ではない。とはいえ、観測に必要なものが光学観測である以上、限界もある。


「だから、こちらから見える範囲では、あなたを造った文明の観測は不可能なの」

「そうか……そうなのか」

「ま、そもそも観測値に限界がある以上ヒトサイズの動きなんてわかるはずもないんだけどね」


 だが、それはそれで疑問が残る。

 テイユニットを創り出した文明は何なのか。なぜそこに地球人が関わっているのか。

 名前の由来であるT.E.I.も、地球由来の言語でできていた。それが矢作照偉と被ったのは、偶然なのか、意図的なのか。


「テイの記憶は、さっき話していた隕石落下が最後の瞬間なのよね」

「ああ。手はないけれど、最期まで握っていた感触は、覚えている」


 テイユニットの目の代わりの光が、わずかに明滅する。

 地球から三十万光年も離れた場所にある惑星の、地球に関連のない文明のAIユニットになっていた。その理解不能の事実を認めざるを得なかった。


「前にあなたを検査した時に、AIユニットにしては用途不明なブラックボックスを見つけたの。それがあなたの意識データを保有しているんじゃないかしら?」

「ブラックボックス……それが、僕の魂を保管しているの」

「何か、思い当たる節があるの?」

「うん。少しだけね……」


 アーブの問いかけに、テイはおもむろに話始める。

 地球人に、特に日本人なら簡単に伝わる生まれ変わりの概念も、宇宙人にとっては聞き馴染みのない概念だったのだと、テイは理解することになった。

 九割九分ありえないと思った可能性を、彼は口にする。


 *


「じゃあ、あなたの魂が、このブラックボックスの中に入ってるってことね」

「その通りだ。多分、このAIシステム自体が、どういう原理か獲得した魂を再現するための装置になっていると思う」

「魂の証明なんて現代でも不可能なのに……古代文明やっぱ半端ないわ」


 魂――生物に転生していれば、その存在を吟味する必要はなかった。だが、機械の内側に転生――もしくは転移――してしまった以上、肉体的な変化ではなく、魂の側に変化があったとみるべきだ。

 食事や睡眠の必要性がない、魂だけの存在。

 ある意味、不老不死の体現者とでも言うべきものになった。


「……ねぇ、今からあなたのブラックボックスばらしていい?」

「ダメに決まっているだろう」


 やはり、こんな場所で研究に従事できる彼女は、少しばかり狂気的(マッド)だった。



少しでも気に入っていただけたら幸いです。




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