Act.4「魂の在り処」.1
「なぁ、るほどね」
若干納得しがたい様子のアーブは、ギィ、と背もたれに体重をかけた。
「だから、僕としてはAIユニットになっている理由がわからない。いつデータをコピーされた? それとも、僕は自分を矢作照偉だと思っているだけのテイユニットというただのAIなのか?」
「どっちなんだろうね」
アーブにもそれはわからなかった。彼女は古代遺跡からテイユニットを回収しただけの科学者だ。このAIユニットがどんな造られ方をしたのかはもちろん興味がある。
だがそれを判別することは、現状方法がない。
「そうなると、あなたの最後の友人は、どうなったのかしらね」
「これが転生ではないのだとしたら、同じAIユニットになっているかもしれないけれど……」
「テンセイ?」
「ああ、いや、気にしないでくれ。九割九分、ありえない想像をしただけだ」
そもそも、彼女のことは何も知らない。本当に、あの日に会って、ほんの数十分にも満たない時間を一緒に過ごしただけなのだ。
「生きているはずはない、もんな」
エベレストが八千メートルの凸から一万メートルの凹にまで変形するほどの衝撃。クレーター直径は二百キロを超え、アメリカ東海岸に襲来した津波は三百メートル以上。
発生した塵と土埃は太陽光を遮断し、衝突時の影響で発生した被害に加え、残った四割の人類の、さらに七割が餓死した。
むろんのこと、ユーラシア全域および日本、アフリカなど離れた土地も降り注いだ欠片で壊滅。残っていた南北アメリカ、オーストラリアも津波や太陽光の遮断によって絶滅へと至った。
「ごくわずかに残っていた人類も、その生存確率は厳しく、現在の銀河系に存在する地球人類は、この惨劇から生き残ったごく少数の人類の子孫である、らしいな」
「私は、地球人の知り合いはいないし、話題に上がったこともないよ。身体的優位性も特にないし、知能も標準的。それでも戦闘兵器パイロットの適性が高く、戦う以外に取り柄のない種族って言われてる」
「ただ、今の僕を見て同じ地球人だとは思えないだろうけれど」
手足どころか皮膚さえない。生物らしい部分は一つとないのだ。
生身のある地球人に出会ったとしても、まともな会話は難しい。
「何より、僕が生きていた時代は、もう何千年も前なんだよね」
「このコロニーから地球までが三十万光年離れているから、今観測すれば三十万年前の光景が見えるはずだよ」
「その時代は、まだ人類がまともに文明を持っていなかった時代にまで遡ってしまうよ」
地球から三千光年ほどの距離にまで移動すれば、あの日の状況を観測できるだろう。宇宙は過去に戻ることはできないが過去を観測することはできる。光を超えて移動できる宇宙開拓時代であればこそできる、古代の観測だ。
尤も、観測可能な可視光は、これほど長い距離を経て全て不可視光となってしまっているため、正確な地球の姿を捉えるのは難しいだろうが。
「なら、僕を造ったと言う文明のこともわからないのか? その発見された星から何万光年か離れた場所に移動して、観測することで、わかるんじゃ?」
「うーん、そうしたいのも山々なんだけど、できないのよね」
「できない?」
そもそも、この地球人の記憶を持ったAIは――
「君、地球から見つかったわけじゃないのよね」
――いったいどこから生まれたのだろう。
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