Act.3「誘いは空から」.3
数秒の思案の後、彼は絞り出すように言葉を返した。
「次に来た隕石は、僕の設計した宇宙船でぶっ飛ばしてやるぞ、って話だよ」
中二病が抜けきらない高校生男子が抱いた大志。その内容に、女子生徒はポカンとしていた。当然だろう、目の前に降ってくる隕石を、次は撃ち落とすなどと豪語するバカを――。
「マジで? 宇宙船って日本人が設計できるもんなの?」
「……そっち?」
「だって宇宙飛行って言ったらアメリカじゃん? アポロじゃん」
「君の基準や標準というものが全くわからない」
――姫織は、一瞬たりとて、嗤わない。
楽し気にはするが、蔑まない。否定しない。ただ興味がわいたように、照偉を見てくる。
「宇宙船とか、衛星とか、そういうのに興味があって東京まで出てきたんだ。墨田さんは大学進学とか興味なさそうだけど」
「うん、進学はするつもりだけど、あたしはほら、楽しけりゃそれでいいし」
「キラキラした毎日を送って居そうだな」
花のない学生生活。それでも目標へ向かっていく日々ではあった。繰り返し、脱線のない画一的な道だけれど、それも将来のため。
だがそれもすべて終わる。空から降ってくる石ころによって押し潰される。
「結局、何の意味もなかった。勉強も、上京も、何もかも……」
フェンスを握る手に力が入る。もしあと三十年時間があったら。きっと自分の作った船は衛星軌道を飛び、迫りくる脅威を排除しただろう。だが、突然現れた暴力はそれを許さない。
「だから、テイっちはここで空を見てたんだね」
「え?」
「諦めたくないんだ。どうにもならないってみんなが逃げ回るなかで、キミはここに来て、恨みがましく睨みつけて」
「……どうにもならないけどな」
「そんなことなーいよ、かっこいーじゃん」
いたずらっぽく微笑む彼女の視線が恥ずかしくて、照偉は視線を逸らす。まさか褒められるとは思っていなかった。
世界の終わる瀬戸際だというのに、どういうわけか。奇妙に穏やかな気持ちになる。
「もう少し高校生らしいことをしておくべきだったかな」
「ん? どした?」
「君の友達なら、ここでもう少し気の利いたセリフでも言えただろうと思って」
「はは、聞きたくないからいらないよ。場合によっちゃイケメンでもキモイし」
あっけらかんと笑う姫織。
陽キャにもそういう場合があるのか、と思う照偉であった。
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