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DareDevil Diver 世界は再起動する  作者: カガリ〇
世界をはじめるための戦争(前編)
99/120

第99話 魔法科学

 世界会議の参加者たちは、ネベルとニーズヘッグを除いて石の円形テーブルから距離を取って離れた。

 全員が壁際まで下がると、テーブルに上がった二人の闘いの行く末を見守った。


 キャンディはこう言った。


「ちょっとズルくないです? 向こうは最初から戦うつもりでしたから防具をちゃんと付けてるのに、ネベルさんはいつものメカニカルアーマーすら装備していないんですよ」


 正確には戦闘ガジェットやカートリッジなどを携帯しておらず、金属製の籠手なども外していた比較的ラフな軽装備である。

 また彼は、ぴっちりとした黒いシャツの上からエクリプスのホルダーを装着していた。


「それはネベルも分かってると思うさ。バット、おそらく二人の剣がまともにブツかれば生半可な防具なんて意味をなさない。そうは思わないかい?」


「うーん…」


 ネベルがとても強いことをダイバー達はすでに知っていた。

 だがしかし、ニーズヘッグに関しても、先ほどのガルゴン王との少々の小競り合いから、少なくともガルゴン王と同等レベルの力を有している事は明らかであった。



 ──両者はテーブルの両端に立ち、それぞれの持つ強力な剣を抜いた。

 エクリプス。そして、蜥人族(リザードマン)の至宝ドラゴンファングだ。


 するとニーズヘッグは突然、身体に力をこめ始め、威を発した。


「うぉぉおおおおおっ!!!」


 雄たけびと共に赤い闘気のようなオーラが立ち昇り、彼の全身を覆った。

 筋肉は盛り上がり、鱗は艶やかに光輝いていた。


「…これが種族に伝わる力、竜戦士化だ。眠っていた竜の血を活性化させ、すべての能力を倍以上に増幅させることが出来る」


 竜の血の活性化という由来に関しては、自分たちをドラゴンの子孫だと信じる蜥人族(リザードマン)の勝手な思い込みである側面が強い。

 しかし、元々持つ種族の力を強力な竜戦士化まで昇華させた事自体は、ニーズヘッグの研鑽の賜物に違いなかった。


「種族の誇りをかけて戦う以上、この力を使い、全力でたたき伏せる!!! だが…人間のお前とでは力の差がありすぎて、このままでは余りに不平等だ。だから、そこのエルフにでも補助魔法をかけてもらうといい」


 それを聞くと、フリークは急いでネベルの元まで駆け寄った。

 彼の言う通り、強化状態のニーズヘッグ相手ではネベルの勝ち目は酷く薄い。

 単純にニーズヘッグの力は、それこそ伝説級(レジェンドクラス)のドラゴンにも匹敵するのだ。


「ネベル。一回そこから降りてきてください。魔法のバフをかけます」


 フリークはさきほど大きな氷魔法を使ったばかりで残りの体内魔素が限られていたが、かけられるだけの魔法効果を使用しようと考えていた。


 しかし、ネベルはそれに対しかぶりを振った。


「フ、いらないね」


「ですが…!」


「まあ、見てろよ」


 そう言うと、ネベルは詠唱を開始したのだ。


「天雷よ、来たれ! 限界超越(オーバーリミット)!」


 ―ウィィイイイイィィン――…


 大型刀剣に内蔵されたギアが最大出力で回転し始めた。

 最初の小さなモーターの駆動音は、回転数が上がるにつれ、まさにそれは雷鳴の轟きへと変化した。



「………エル・バルバトス!!!」


 エクリプスからは雷の魔力が(ほとばし)っており、ネベルも剣を持つ右手から伝わる(イカズチ)の恩恵を得ていた。身体を伝う微弱な電気のせいで、彼の毛髪も若干逆立っていた。


「ほう。面白いっ!」


 ニーズヘッグは自分が強者と戦えることを喜んだ。


 一方で、自分の教えたこともない魔法やエクリプスの見たこともない変化を見ると、フリークは驚き戸惑っていた。


「これは、一体どういう事なのでしょう?」


 するとキャンディがこう答えた。


「技術工房部の皆さんが改造しましたのです!」



 ──技術工房部で、ハリスたちとuhO融合炉を調べた時のこと。

 ネベルはついでに「エクリプスの機能強化も出来ないか」と頼んでいたのだ。

 だがそれを聞くと、技術者たちは揃って呆れたような顔をした。


「うしゃしゃしゃ! 本気でそんな事をいってるのか? お前さんはさっきまでの話を聞いてなかったのか?」


「ああ、もちろん聞いてたよ」


「おいおい」


 すると、ドワーフの鍛冶師ゴ・オルゴンがこう言った。


「このクリスタルの作った剣は、ほぼ完ぺきと言ってもいい設計なのだ。わしらが手を加えられる部分など有りはしない」


 僅かな自信の喪失もあり、その時のオルゴンは少し悲し気に見えた。


「でも…、まだ完成はしてないだろ」


「たしかに。この剣に秘められた性能的には、まだ半分の力も発揮していないだろうな。だが、全てを引き出す事は絶対に無理だワイ」


「どうしてっ?」


 今度はハリス・シャムがネベルの問いに答えた。


「俺の分かる範囲だが……まず根本的に足りない物が一つある。 兵器の構成素材が、内部の発生エネルギーに対して脆すぎるのさ。強い力を押さえるためにはもっと強力な構成素材が必要だってな」


「強力な素材か。それは例えばどういう物なんだ?」


「よし説明してやろう。今のところuhO核融合システムは3秒の覚醒が限界でその後は急速にヒートダウンしてしまう。それ以降はエクリプス内部に発生したプラズマエネルギーを抑え込むことが出来ずに、暴発してしまう可能性がとても高い」


 通説として核融合のプラズマエネルギー封じ込めには、電気コイルと反重力による方法がよく使われていた。

 そしてエクリプスには、姿勢制御補助にも使用する反重力システムと電気コイルの両方が搭載されていたのだ。


「重力と電磁力のどちらかをブラッシュアップ出来れば、エクリプス全体の強化も可能だが……。いずれにせよ最低でも伝説級(レジェンドクラス)の素材が必要なのさ! つーことで、諦めなはれ?」


 ハリス・シャムはどうせネベルに伝説級(レジェンドクラス)の素材など用意できるはずが無いと思っていた。

 しかし、それを聞くとネベルはこう言った。


「……もしかして、こいつが使えないか?」


 そうしてネベルがポーチから取り出したのは、バルガゼウスから託された槍爪だったのだ。


 主が死んだ今でも、槍爪は黄金の光を宿していた。


「おおおっっ!こいつはッ! すごい雷エネルギーだッ」


「生き狂いのバルガゼウスっていう、ドラゴンからもらった槍爪だ」


「まじか。 そいつはタクサンダー…!」



 ──かつてバルガゼウスは、肉体に雷を纏い神経伝達速度を上げることで、運動能力をも底上げしていた。


 だがドラゴンほどの強靭な装甲を持っていない人間には、そのような芸当は不可能である。

 身体が電撃に耐えられないのだ。


 なのでネベルは、調整した弱い電撃で持ち前の反応速度のみをさらに強化した。


「いくぜ」


 ――‐キィィ――---… ン… バチバチッ!


 二刀が激突し、激しい火花が散る。

 そしてその直後、ドラゴンファングだけが垂直方向に弾かれ、そのまま会議場の天井に勢いよく突き刺さった。


「馬鹿なっ」


 ニーズヘッグは、渾身の一撃がこうもあっさり破られた事が信じられなかった。

 しかもパワーに関しては、ネベルよりも確実に上回っていたのだから。


「……何をした」


 するとネベルは雷魔法(エル・バルバトス)の強化状態を解除し、エクリプスを鞘にしまいながらこう答えた。


「お前はスゴイよ。もしエクリプスを強化していなかったら負けていたのは俺だった。それが勝機でもあった。お前の力が余りに強すぎるから、剣を振る力のベクトルも簡単に見切る事が出来たんだ。俺は力が反発しないように、そいつをズラしてやっただけさ」


 バルガゼウスの槍爪にも匹敵する威力の一撃に対し、ネベルはわずかに剣を動かすだけの所作で完璧なカウンターを決めたのだ。


 ニーズヘッグはしばらく沈黙したまま天井にささったドラゴンファングを眺めていた。

 だがやがて彼の顔はほころび、決闘の勝者へと歩み寄った。


「……見事だ。お前こそ最強の戦士だ!」


「フッ お前も、まあまあだったぜ?」


 二人は固い握手を交わし、互いを認め合ったのだった。




 その後、蜥人族(リザードマン)も同盟参加を決意。

 会議の出席者たちは会議が終わると、それぞれ秘匿された魔法通信で自国の代表と話しあい、戦争のための軍隊出動を要請した。


 西大陸のアルカイック商業組合やガクリュウの樹海からは、すぐにでもケイブロングヴェルツに援軍が駆けつけるだろう。

 白絹の森からも、すでにダイバー達がルートを開拓しているので、ハーピィ渓谷を憂いなく通る事が出来る。

 それに砂漠までは屈強なドワーフ達が騎獣をつれて迎えに出ると言っているので安心だった。



 各国の兵士たちは、ケイブロングヴェルツにやってくると合同で訓練を行った。

 また斥候によれば、敵軍も既に出撃し、この国に近づいているらしい。


 だんだんと物々しくなる街の雰囲気。

 世界の運命を決める終末戦争の開幕が目前に迫っている事を、だれもが肌で感じていた。




 ──ある日の訓練場にて。

 か細い女性剣士がたった一人で、10人以上の獣人族の兵士相手に模擬戦闘を行っていた。


「ハッ セイッ」


「うわぁ!」


 レーザーブレードが青色の眩い十字の剣閃を描く。


「……ふぅ。だらしがありませんね。シリカ程度にこのザマですか」


 そう言ってシリカ・トネックは兜を脱ぐと、自分に負けて地面に突っ伏した男たちに冷たい視線を送った。

 彼女は優秀な秘書でありながら、レーザーブレードの達人的な使い手でもあった。


 レーザーブレードは刀身からビームを放つ強力な武器だったが、威力が腕力に左右されないという理由から、旧文明のアンチダイバー達の間で女性用の護身武器としてよく使われていたのだ。


 だがその分取り扱いが極めて難しい。

 シリカは幼少期からの訓練で技を磨き、望は学習装置を使い動きをインストールする事で扱えるようになっていた。



 近くでその模擬戦闘を見ていたロンドは、シリカの戦いぶりにすっかり圧倒されていた。


「うわぁ、スゴイ戦いだったなぁ」


 そして、アスカが目の前の女性に憧れていると言っていた事を思い出した。


 ─とほほ、あんな強くなるまでデート出来ないのかよぉ─


「あなたもやってみますか?」


「えっ?」


 シリカは自分の事をずっと見ていた少年の元気が急に無くなると、気になって声をかけたのだ。


「このレーザーブレードに興味があるのでしょう。少しならシリカがお教えしましょう」


「いやっ、でも。おれなんかに出来っこないよ……」


 すると、話を聞いていたネベルがこう言った。


「……やってみろよ」


「! ネベルさん」


「出来るか出来ないかはやってみるまで分からない。それに、俺はお前なら出来ると信じてる」


「う、うんっ ありがとう!!」


 ネベルの後押しもあり、ロンドはシリカからレーザーブレードを受け取った。



 そこで彼は思わぬ才能を発揮する事になる。



 今日、初めて手にした電熱剣にもかかわらず、ロンドはまるで自分の身体の一部のように自在にそれを操った。そしてなんと、数人のドワーフ戦士を相手に完勝してみせたのだ。


「お見事です。初めてとはとても思えない。素晴らしい才能です」


「えっへへ。そうかな?」


「あなたは空間把握能力がずば抜けて高いようですね。だから剣の間合いを完全に把握しつつ斬撃を繰り出せるのでしょう」


「ふ、ふーん……」


「ロンドさん。次はシリカと戦ってみましょう」


「は、はい!」


 そして二人はレーザーブレードでの仕合稽古を始めた。



 技術工房部の手伝いで訓練場を通りかかったアスカも、たまたまロンドの戦いぶりを見ていた。


「へぇー、やるじゃん……」


 コッソリとそう呟くと、彼女はくるりと背を向け颯爽と去っていった。



 フリークは、自分の隣で一緒にロンドの訓練を見守っていたネベルにこう尋ねた。


「一体どうして、彼にレーザーブレードが扱えると分かったのですか?」


「……フン、なんとなくだよ」


 それを聞くとフリークは、まるでネベルのその答えを予想していたかのように鼻で笑う。


「プクク、何となくですか。 あなたの()()()()()は特別ですからねぇー」


 二人の視線の先では、今もロンドとシリカが熾烈な仕合を繰り広げている。

 剣と剣がぶつかり合う度に、激しい光とマグマのような炎が飛び散った。


 ネベルはぽつりとこう言った。


「なあ、ロンド()もタレントなのか」


「………さあ? 不確かなものですからハッキリ言えません。何しろ人間族が生きていた1000年前ですら、能力の有無を明確に分ける境界線(ライン)は存在しなかったのですから」


 ロンドが才能を開花させた事自体は、純粋に仲間として喜ばしい事だ。


 しかし、そこに赤の他人による気まぐれな干渉が存在し、手の上で踊らされていたとしたら?

 自分の信じていたものの正体が、借り物の大地に立つ張りぼての城だったとしたら?


 また、それらを突然、奪われたら?


 ─はたして俺は許せるだろうか─


「だったらさ。確かなものって一体なんだろうな」


 するとフリークは少し考えてからこう答えた。


「私たちが今ここにいるという事ではないでしょうか。なにせそれだけは簡単に実感できますから」


「……フ、そうかもな」


 この時、肌をなでるこの優しい風だけが、唯一無二のリアルだった。

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