第96話 豪華な会食
ジ・ガルゴン王は、ダイバー達を約束していた食事会へと招待した。
金や銀で装飾された迎賓館に、彼らのための席が用意された。
「もうすぐ各国からの使者が我の国に集まるだろう。だがその前に、まずは我々だけで少しでも交流を深めようではないか! ガガガ!」
「ヨ、待ってました!さすが王様! ところでご馳走はまだかね~?」
「ウム。そうだな妖精殿。 では早速持ってこさせようか。 皆も遠慮せずに楽しんでくれっ」
「えへへ、やったぁ!」
コックが運んでくる料理は、どれもダイバー達が伝承の中のみで知る見たことがない幻の品ばかりだった。
まるまると太った豚の丸焼き。とろけるほどに甘い生クリームのケーキ。またケイブロングヴェルツからは遠い海の幸、エビフライもあった。
「っ……………………!!!」
ピクシーは出された料理を、無我夢中で次々と口に放り込み続けた。
「やべぇッ 手が止まらねえぜ」
「アハハッ こんなデカい肉くった事ないよぉ!」
「(ガツガツガツガツ!)……まあまあだな」
長い間味のしないカプセル食が続いていたという事もあり、ダイバー達はガルゴン王の用意した食事会を大いに楽しんでいた。
すると夢中で飯をかっ込んでいるダイバー達のところに、人間が二人やって来た。〈ゼルエル〉のシリカ・トネックと使長のガリバー・ゼムスだった。
「あーっと、ちょっといいかな?」
「ム、なんだ」
「わりぃな、今は肉を食うのに忙しいんだ。面倒事なら後にしてくれ」
ネベルとディップは豚足をハミハミするの忙しかった。なので食事の邪魔者をさっさとあしらおうしたが、それ聞いたガリバーはこう言った。
「それなら問題ない。簡単にあいさつだけ済ましておこうと思っただけだから。まあ本当は、シリカがしておけって言ったからなんだけどさ。ハハ」
この場の誰よりもヨレヨレの服を着ていて情けない笑顔で無精髭をポリポリとかいている。それがガリバー・ゼムスにとってのスタンダードだった。
何故このような男が〈ゼルエル〉のリーダーなのか不思議である。ネベルはそんな彼を、掴みどころのない人物だと思った。
シリカはガリバーが無駄口を言うと、コホンと咳払いした。それを聞くとガリバーは焦って会話を再開した。
「あーーとっと! 分かってるよ分かってる……。それでまずは確かめたいんだけど、君たちが東大陸から来たっていうダイバーで合ってるんだよね」
するとディップは持っていた豚足を食べ終えた後にこう答えた。
「ああ、そうだぜ!」
「そうか、それは良かった。私はガリバー・ゼムス。〈ゼルエル〉の元使長をやってた」
「おう、アンタがそうか。俺は〈ダイバーシティ〉のディップ・バーンズだ。同じ人間どうし仲良くやろうな」
そう言うとディップは、豚足で油ギトギトになった手を差し出しガリバーに握手を求めた。
ガリバーはその手を見て思わず苦笑いを浮かべる。
「う、うん。よろしく」
~~ぬちゃぁ~~
握手を終えると、ガリバーは肉の油を自分の服の裾でさっと拭った。
「えーっと、ところでさ。君が〈ダイバーシティ〉の使長なのかな?」
「いや。使長じゃないぜ。だが実質的にナンバーワンではあるかな!」
「ふーん、そう……」
「な、なんだよ」
「いいや、何でもないさ。なら君が世界会議でも代表者として出席するんだろう。またその時に会おうか」
そう言うと、ガリバーはシリカと共にダイバー達の元を去っていった。
その話を近くで聞いていたキャンディは、ふと思った事をディップに尋ねた。
「そういえばです。ガルゴン王にも会議の公平性を期すため、参加者を選定しておくようにっていわれてました! やっぱり、熟練ダイバーのディップさん達3人が行くんです?」
「うーん。いや、俺は頭を使うのはどうも苦手なんだ。キャンディ、お前が俺の代わりに出ろよ」
「ええっ! アタシですかぁ?!」
「ああ。お前なら頭も良いし、会議の内容も理解できるだろう」
「え~……、まあいいですけど。 てへへ、アタシってそんなに賢く見えますです?」
少しだが褒められたキャンディは、満更でもなさそうにハニカミを見せていた。
「よし。じゃあ、世界会議はマック、ネベル、キャンディで参加するんだ」
「はいな! 分かりましたです」
だがそれを聞いたネベルは、自分も出席を辞退しようと思っていた。理由は、ディップと全く同じである。
ネベルはその事をダイバー達に伝えた。
「なあ、俺も誰か代わってくれないか」
「じゃあ僕やりましょうか」
「デルン。ああ任せる」
「了解しました」
しかしその時、フリークがこう言った。
「すみません。その役目、私に代わってくれませんか?」
「ええ?フリークさんが? ううん、それは流石にどうなんでしょう……」
フリークは仲間ではあるが、〈ダイバーシティ〉の住人ではない。
人間やコロニーの代表として、各国が集まる会議に出席する役目としては少し的外れな気がした。
しかしフリークはこう答えた。
「私の存在が会議で場違いであることは十分承知しています。ですがお願いです。この世界会議は、私の夢の繋がりの様な気がするのです」
それを聞くと、望がこう尋ねた。
「それってつまり、どういう事ですか」
「望さん。私がかつて、人界と魔界の二つの世界を繋げるために色々動いていたことはもう知っていますよね」
「は、はい」
「結果、わたしは失敗し、大きな過ちを冒してしまいました。 しかし全てをめちゃくちゃにしたくて、あんなことをしでかしたわけではありません。異なる者同士が手を取り合えば、より良い世界を創り上げる事が出来ると思ったからこそなのです」
フリークには現在のこの国を見てきて、感じていた事があった。
人間とドワーフが手を取り合い高め合う。そんなケイブロングヴェルツの姿は、自分の描いた理想の未来に最も近しいのではないかと思ったのだ。
「世界会議の結果次第では、打倒コードブレイン社のために世界中の人々が手を取りあう事でしょう。 この夢が現実となる瞬間を、どうか見てみたいのです」
すると、ネベルはこう言った。
「フ、いいんじゃないか。悪くないとおもうぜ」
ネベルだけでなく、ダイバー達の中にもフリークの会議参加に反対するものは居なかった。
「まあ、俺が行かないなら誰でもいいしなー。オイこらデルン。お前はそれでいいのか?」
「はい。フリークさんなら良いと思います」
フリークは自分が仲間から多少なりともの信頼を得ているのだと感じ、とても嬉しく思った。
そうして世界会議の出席者がマック、フリーク、キャンディに完全に決まった。
だがその後、彼らの結論に異を唱える者が現れた。
ドワーフ国の王ジ・ガルゴンだ。
「ネベル。貴様は必ず会議に出ろ」
ダイバー達の話を聞いていたガルゴン王は、いきなりネベルにそう言ったのだ。
「は? どうしてだ」
「ウム。なぜなら貴様が、貴様らの中で一番強いからだ!」
「……何言ってるんだお前?」
「いいからとにかくだ。そこのエルフも一緒でよいから、ネベルは必ず来るようにっ。よいな!」
まるで意味不明である。確かに戦いの強さがあるのは認めるが、それが会議の場で何の役に立つというのだ。
そうネベルは思っていたが、後にその答えを彼は知る事になる。