第87話 暴れたりない
戦いは一瞬のうちに決着がついた。
ネベルはいつもどおり、高い戦闘能力を活かし次々とクローン兵士を倒していった。
だがなにより、クローン兵士達が部屋にある原子移動装置に気を使って、思うようにレーザー銃を撃てなかった事が勝敗の要因だった。
クローンの指揮官は劣勢を覆すことが出来ないと判断すると、わずかに残った仲間を連れて速やかに退却していった。
「あっけなかったですね」
「フン、そうだな」
そう言って、ネベルはエクリプスを背中のホルダーに格納した。
ロンドは物珍しそうに、部屋にある様々な機械を眺める。
「へーっ こいつが原子移動装置って奴かぁ。 よしッ、さっそく壊しちゃおうよ。キャンディさん。指示をください」
「はいな! 分かりましたです」
するとキャンディは辺りにある装置を一通り物色した。彼女が部屋にある機械のすべての配置と役割を理解すると、ダイバーたちにこう告げた。
「この床に敷き詰められている光る板は、壊してもすぐに交換できるので意味がありませんです。なので破壊するべきは、原子移動装置にエネルギーを送っている動力システムの方です!」
キャンディは、隣の部屋に計16基の発電機が設置されているのを発見した。いずれも今は稼動していない様子で、破壊するには絶好のチャンスにみえた。
「さすがッ 凄いです!キャンディさぁん!!」
「まあ~、これぐらいは楽勝ですけど」
得意気になりつつも、キャンディは褒められて少しだけはにかんでいた。
デルンはネベルにこう尋ねた。
「あのネベルさん。たしか爆弾もってましたよね?」
「あるぜ」
ネベルはポーチからカートリッジの混合爆薬を取り出し、デルンに渡した。
「ありがとうございます! ねえキャンディ、これを時限式爆弾とかにできるかな」
「それはいい考えですね。少し待っててください」
時限式ならば自分たちが基地の破壊に巻き込まれずにすむ。キャンディはさっそく爆弾の改造にとりかっかた。
その間、ネベルは部屋中をくまなく観察していた。確信はないが、彼は何かを見落としているような気がしてならなかったのだ。
原子移動装置にエネルギーを送る発電機は、ドーナツのような円筒形をしていた。その特徴的な構造の機械をじっくり注視していると、やがてネベルはある重大な事実を発見した。
「…………やっぱり、爆破は止めた方がいいかもしれない」
「え、どうしてです? たった今、時限装置が完成したところですよ」
「ム…、ちょっと見てろ」
―ドキューンッ カン!
「え?」
ネベルはエクリプスを銃撃形態にすると、いきなり目の前の発電機に向かって一発ぶっ放した。
「……こらこらこらこらこらこらこらこらコラァァァァァァ!!! ネベルぅ!!!」
「あ?」
「あ? じゃなーいっ!いきなり何やってんの!? ここには超絶プリティなわたし様がいるんだよ?そんな事して、もし爆発したらどうするんだよ~!!!」
そう言ってぷんすかと怒りながら、ピクシーはネベルの頭上を飛びまわった。
「ちょっと落ち着けよ。よく見るんだ」
エクリプスの銃撃を喰らった発電機が今にも爆発するかもしれない。と思ったダイバー達は、ピクシーと同じく右往左往の大慌てだった。
しかし、ネベルの言ったとおりに冷静になってSP弾の着弾位置を確認すると、そこに弾丸の痕らしい物が全くないことに気づいた。
「無傷?!なんて頑丈なんだろう。動力システムにもダメージは無いみたいですね」
「弾はちゃんと当たったはずだよね。エクリプスの攻撃が効かなかったって事ですか?」
「ああ。混合爆薬でも破壊できないだろうな」
さらにネベルは、付け足すようにダイバー達にこう説明した。
「ドーナツ型のコイルに加えて、異常なまでの耐久性。間違いなくこれは、サイバーエイジの核融合炉だろうな」
「核融合炉?」
「ああ。プラズマ状態になった原子核を融合させて、強力な核エネルギーを取り出すシステムだ。この発電機はフェイタルブランドを使えば破壊は出来るけど、その瞬間、16基の原子炉による連鎖爆発でリ・ケイルム山ごと消し飛ぶだろうな」
「ひぇ~……こわいよぉ」
「ネベルさん。この爆弾、お返ししますですっ!」
「ああ……」
ネベルは、即席にしてはよく出来た時限装置が付属したカートリッジ爆薬をキャンディから受け取ると、そのままポーチへとしまった。
「うーん、でもどうしますか。発電機に手が出せないとなると、他にはあの光る板くらいしか破壊する所はないですよ」
「でも仕方ない。それくらいしか出来ないんだ」
ネベル達は出来る限りの破壊工作を済ませると、その部屋を出てディップ達との合流に向かった。
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