第86話 暴れてやるぜ
暗黒洞窟の地下基地。この場所の最も重要な役割は、近々予定されているロワンゼット主導のケイブロングヴェルツ侵攻の布石を敷く事である。
基地の採掘フロアでは、主に力自慢の犬人族や蜥人族などが働かされていた。
さらに奥では、モノづくりが得意なドワーフや、手先が器用な猫人族などが原子移動装置の建設作業を行っていた。
もちろん、すべては彼ら意志ではない。
この基地のどこかにある催眠装置により自由を奪われ、クローン兵士たちの命令を無理やり聞かせられていたのだ。
大型の原子移動装置は、洞窟内で最も広い空間に作られている。
物体の構造をスキャンする反光板が、部屋の床一面に敷き詰められていた。マシンには太いケーブルが繋げられ、16基の大型原子炉を搭載した発電機から莫大なエネルギーを供給されるのだ。
ここは地下基地で最も重要な施設だ。なので獣人たちを監視しているクローン兵の数も鉱山フロアの倍以上がいた。
すると一人のクローン兵士が慌ただしい様子で、ここを取り仕切るC-1クローン兵に駆け寄っていく。
下っ端のクローン兵士はC-1の前に行くと、キッチリとして敬礼をしてから、現在起きている問題についての報告をした。
「申し上げます。先ほど侵入者を連行していったF-5がまだ戻って来ていません」
「何。原因は」
「不明です」
「至急、確認するのだ」
「ハッ」
―チュドーン~~
「な、何が起きた!」
派手な爆発音と共に、原子移動装置のある部屋の外壁の一部が崩れ落ちる。
そうして部屋の外からやって来たのは、奇怪な剣や微精霊の銃で武装をした怪しい四人の男女。それと一匹の可愛らしい妖精だった。
「敵襲だ! 迎え撃て!」
「ククッ レッツ、ぱーりーぃ」
エクリプスを構えたネベルは、にこにこしながらクローン兵の集団に突っ込んでいった。
一方、ディップ達は洗脳状態にある獣人族たちを解放するため、自分たちが捕まっていた牢とは別の収容場所にやってきていた。
「ルック。ここにも沢山捕まっているようだね」
「ああ。あいつら、酷いことするぜ」
複数ある檻には、傷ついた捕虜たちが種族ごとに分別され、定員ギリギリまで詰め込まれていた。どうやら洗脳電波が何度も解けたり、怪我をして作業の能率が悪くなった個体が選ばれているようだ。
フリークは言った。
「あの奥にあるのが洗脳電波を放っている機械のようですね。白絹の森で私が見たものと形が似ています」
彼らが今いる収容区画に例の機械は二つあった。この基地にはドワーフやエルフなど六つの種族が捕まっているので、おそらく洗脳マシンも六つ以上あると考えられる。
また、ここには狐人族が多いので、マシンも狐人族を洗脳する専用の物だと予想できた。
「見張りがいるよ。どうやって助けるの?」
望がそう聞くと、マックはしたり顔でこう答えた。
「オーケー!ここはオレに任せてくれないかい。とっておきのプランがあるんだ」
「とっておき?」
すると、マックはフリークと共に秘密の相談を始めた。望とディップに二人の会話は聞こえなかったが、そのときのフリークの困り顔から作戦があまり期待できないものであることは容易に分かった。
「そこのお前! 何してる!」
牢を見張っていたクローン兵士は、彼の前に堂々と現れたマックとフリークに対し、レーザーライフルを向けながらそう警告した。
するとマックは、キッチリとした敬礼をしながらクローン兵士に対しこう答えた。
「ハッ! 逃げた奴隷を捕まえてまいりました」
事前に彼は手近なクローン兵の服を奪って変装していた。つまりこれが作戦だった。
「このエルフは私が責任をもって牢屋にぶち込んでおきますので、どうぞ鍵を渡してください」
「ふざけるな。お前も脱走者だろうが! 集まれ! 侵入者が逃げ出しているぞ」
変装は一瞬で気づかれた。
「ホワッツ?! なんでバレたんだい???」
「……マック。クローン兵はみんな同じ顔なんですから、服装だけ同じにしたって無駄だと思いますよ」
「オーノー! フリークっ、そういうことは早く言ってくれないかい」
背後に隠れていたディップが、仲間を呼ぼうとしていたクローン兵をエナジーライフルで撃つ。
「ふぅー。やっぱりこうなるか。 望ちゃん、戦いが終わるまで安全なところに隠れていろよ」
「は、はい!」
こうして頭を使った救出作戦に失敗したディップ達Bチームは、(B)暴力ごり押し作戦へと移行したのであった。
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