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DareDevil Diver 世界は再起動する  作者: カガリ〇
血塗られた秘密
83/120

第83話 天魔が光で満ちるとき

 白い夜の日まで、あと7日に迫っていた。


 魔界ではちょっとした騒ぎが起きていた。二人のエルフの尽力により、二つの世界の繋がりが強まった事で、魔界でも青い月が観測されていたのだ。

 突如現れたその不気味に輝く青い星を見て、人々は不吉や災いの類いを口々に予感していた。


 フリークはざわめく群衆どもを見て、今すぐにも彼らの前に飛び出し「あの月の出現は自分たちの功績だ」と言ってしまいたかった。あの青い月は不吉の象徴などではない。これから始まる新たな時代の到来を知らせる幸運の星なのだ。と


 ―まだだ、まだその時じゃあない―


 この大業を成し遂げるためには決して油断する事など出来ない。勝利の美酒は、最後までとっておこうではないか。



 遂に、あの運命の日がやってきた。


 フリークは天空の柱の頂上階に立つ。そして緊張で汗ばむ手で精霊結晶のペンダントを強く握ると、魔素を流しながらこう言った。


「アース! 準備はできているかい?! いよいよだぞ」


 しかし、アースからの返事は無い。


「っ…!アース。どうしたんだアース!」


 するとその直後、ペンダントを通して何かを叩く音の思念がフリークの頭の中に伝わってきた。


 …トン、トントン~


「これはっ 緊急時の合図! 何らかの原因で君は声が出せないでいるのか。……よし分かった。なら私が一方的に指示を出す。それに従ってくれ」


 フリークがそう言うと、再びペンダントから思念が伝わってきた。


 …トントン~


「合図が2回。分かった。って事だな。 ではさっそく始めよう」



 フリークは天空の柱を中心とした12の祭壇の魔法陣に魔力を込めた。事前にそれぞれの祭壇には、1000年かけて集めた膨大な量の精霊エネルギーがストックされている。

 12の魔法陣が起動すると、そこからレーザー光線のような超高密度のエネルギーが空に向かって放出された。すべてのレーザーは天空の柱の頂上に設置された魔道具を経由して一つになり、青い月に向かって照射されていた。


 仕組みは単純。異世界へのゲートを、超出力の魔力によって無理やり拡大させ、人界と魔界をすべて飲み込んでしまおうという魂胆であった。

 しかしタイミングは実に繊細。超出力の魔力を、青い月、太陽、月が一つに重なったちょうど一瞬のうちに爆発的に開放させる必要がある。


 計算上ではそれで上手くいくはずなのだ。だが、もし失敗したら二つの世界がどうなってしまうか分からない。



 やがて魔界の空はだんだんと太陽と月の影に飲まれ、辺りは真の暗闇に包まれつつあった。

 フリークのいる天空の柱では、激しい魔力の流れによって乱気流が発生し、雷などの大嵐を引き起こしていた。


「異世界間の魔法通信の遅れは、0.4027秒だ。その誤差を考えてゲートを開くんだ」


 …トントン~


「同時に発動させなきゃ意味はないんだ。じゃあ、カウントダウンを始めるぞ」


 3、2……1!


「今だ!」


 青い月、太陽、月。

 星々の影が一つに重なったその瞬間。フリークは合図を出し、異世界ゲートの魔法を発動した。

 そして通信の誤差を消すように、人界側でも合図の0.4027秒早く魔法が発動された。


 二つの世界のゲートは超出力の精霊エネルギーを受けて、ギラギラと燦爛たる輝きを放っていた。そしてその光はどんどん膨張していくようだった。


「はぁっはあっ このまま一気に広げよう。アース、また合図を出すよ。タイミングを合わせて残りの魔力を全部ぶち込むんだ」


 …トントン~


「ク、クハハ! もうすぐだ。あと少しで私の願いは叶う!そしたら私が神だ」


 3、2………1!


「それで彼女を利用したんですか?」


「お前だれだ???」




 ―次の瞬間、まるで世界がぐちゃぐちゃに歪むような揺れがフリークを襲った。

 そうして彼は気を失った。



 気が付けば嵐はとっくに去り、星々は元の姿を取り戻していた。


「どうなった!? 世界は」


 混乱したままフリークは慌てて塔から外の景色を見下ろした。


 するとそこには、先ほどまでは無かった見たこともない漆黒の塔が、この天空の柱の周りにいくつも乱立しているではないか。

 あれはまさしく、異世界の建造物だ。


「……ハハ。 成功だ……。 やったぞ、やった!!!」


 フリークは狭い塔の上で、飛び跳ねながら喜んだ。まさに天にも昇る幸福感がフリークを襲っていた。



 だが、その至福のひと時は一瞬で幕を閉じた。

 彼も予想だにしていなかった極めて深刻な事態が発生したのだ。



「……なんだアレは?!」


 大地の向こうから押し寄せる黒い波。その正体は、途轍もなく巨大なモンスターの群れだった。


 異形の怪物たちは目を血走らせながら迫ってきた。そして異世界の黒い塔を次々と破壊し出したのだ。


「何をする!やめろ!」


 ―アースの話では、あの塔の中には大半の人間たちが暮らしているはず―


「やめろ! やめてくれ!」


 彼は必死で叫んだ。しかしその声は誰にも届かない。


 その間にも、ブヨブヨした肌と鋭い牙を持つ大型モンスターたちによって、次々と人界の塔は倒されていった。


「ああ、こんなはずじゃなかった。こんなはずじゃなかったんだ!!!」



 もう既に一人じゃどうにもならなくなっていた。再び精霊結晶のペンダントを使って彼女に連絡を試みる。


「おい何なんだアレは!あの醜い化け物たちは! 一体どこから湧いて出た!?」



 …………~


 返答は返って来なかった。そう。今日ずっとアースだと思っていた相手は、フリークの知らない別人だったのだ。


「クソ!」


 フリークはペンダントを地面に投げ捨てる。そして異世界間では使えない普通の通信魔法を使って、アースに直接連絡を試みた。


「アース! 君は一体今どこにいるんだッ! 聞こえているなら返事をしてくれ!」


 だがアースの返答はない。


 そしてフリークの視界に、人界から来た黒鉄の塔が映り込む。


「まさか……君も、あの中にいるのか?」



 ズガガガ…… ガガガーン……



 今この時も、人界の塔はものすごい勢いで倒されていった。


 大型モンスターたちの目的は人間の捕食だった。

 一つの塔の中には最大1億人が極めて無防備な状態で詰め込まれている。

 モンスターたちにとっては、さながら腸につまった豚肉も同義だろう。


 地上で暮らしていたアンチダイバー達は、なんとか同族を救うため塔の崩壊を止めようとしたが、逆にモンスターたちに狙われてしまい余計に数を減らした。


 その結果、200億まであった人類は2億にまで数を減らした。

 それ即ち、文明の崩壊である。



 こうして約2000年を費やした彼の計画は、最悪の結果に終わった。


「私が、殺した? 200億もの人間を?」


 とうてい受け入れることの出来ない現実。

 二つの世界を救う英雄になるはずが、最悪の破壊者となってしまったのだ。


「間違いだよな。そんなこと、あるはずないよな」


 ふらりふらりと、すがるような思いで魔界で一番高い塔から、下界の様子を覗き見る。


 この高さまで届いてくる破壊音と狂乱の悲鳴。

 炎と煙がどこまでもつづき、この世界は一夜にして地獄に変わってしまったようだ。


「……なんてことだ…」


 罪の重さに押しつぶされながら、絞るようにそう呟いた。


 そしてふと、モンスターたちの奇妙な動きに気が付いた。

 食事を終え、腹が膨れた大型モンスターたちが、青い月に向かって帰還していたのだ。


 それを見た時、フリークはその意味がすぐには理解できなかったが、やがてモンスターたちが魔界ではなく冥界の生き物だったのだと気が付いた。そして世界融合魔法の発動に失敗し、人界と魔界だけでなく冥界までも繋げてしまった事実に。


 フリークはこの惨劇が己が招いた事だと理解した。


 この先の数千年の人生、こんな罪を背負っていける自信はない。


「よし、死のう」


 即座にそう決意すると、彼は塔の天井に紐をつるし首をくくった。



 だがその直後、フリークは神の啓示を受けたのだ。


 神はお怒りだった。神の計画では失敗などありえなかったのだ。

 そしてフリークが楽になることを、永遠に許さないと決めた。


 特に、人間族をその手で造り最も寵愛を注いでいた創造神ハーグクレムの怒りは凄まじく、200億人を殺したフリークに、最も残酷な死が訪れるまでは死ねない呪いと最もではないが残酷な運命が訪れ続ける呪いをかけたのだった。


 それを知ったフリークは、さらに死を懇願したのだった。




 やがて、二つの世界は緩やかに一つになった。

 だが、魔界の民と僅かに残った人界の民は、決して相容れる事が無かった。

 互いに違う種族である彼らは、互いを恐れ敵対し、傷つけあったのだ。


 そうだ。言おうか? あの忌まわしい月を出現させ、世界を混沌に溢れさせた張本人はこの私なんだ!と。


「……ふ、馬鹿らしい」



 すべてを諦めたフリークは、かつての憩いの地。惑わしの森のログハウスへと帰った。

 そこで彼は、翼竜モンスターに襲われていたネベルと初めて出会う。



「……だいじょうぶでしたか?」


「う、うん」


 ―なんて弱い生き物なんだ。これが人間なのか―


 あの凄惨な事件の後でも、生き残った人間は存在する。そして彼らは泥臭くはあるが、それぞれ一生懸命に生きているのだ。


 自分が殺した人間を助ける事が僅かでも罪滅ぼしになる。

 許されざる罪だとは十分理解していた。だがフリークは、そう在りたいと願っていた。


「来なさい。君に生きる術を教えてあげよう」


「っ! ……うん」


 こうしてエルフと人間の奇妙な生活は始まったのだ。

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