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DareDevil Diver 世界は再起動する  作者: カガリ〇
血塗られた秘密
81/120

第81話 人界の英雄

 もうすぐだ。あとたった100年だけで、私は二つの世界の英雄になれるのだ。


 フリークはもうすぐ訪れる約束された白い夜のために、この2000年間、ありとあらゆる準備をしてきた。

 人界と魔界を繋げる魔法は既に完成している。あとは向こうの世界にいるアースと共に、二つの世界を繋げる術式を発動させるだけだ。


 術式、祭壇、秘薬、魔力……。私の出来るかぎりすべての条件は完璧に備えた。肝心な世界融合魔法についても、勇者の死後に急速に完成を見ることができた。


 あと残された懸念点は、人界に渡ったアースの事のみである……。



 フリークは再び天空の柱の頂上階にやってきた。季節は冬で、信じられないような寒風が肌を凍てつかせてくる。

 環境適応魔法を使っていても、吹き付ける吹雪の痛さは消えることがない。フリークはそれらに耐えながら、羽織っていた毛皮のダウンの中から精霊結晶でできたペンダントを取り出した。


 この魔道具には離れた相手と思念により会話ができる力が備わっている。通常なら隔たれた世界を越えての通信は不可能だったが、二つの書による境界チャンネルの形成と、900年の時を経て再び青い月が近づいて来た事によりそれが可能となった。


 フリークは精霊結晶のペンダントに体内魔素を流し込んだ。するとペンダントに刻まれた魔法陣が発動し、一時的に異世界との通信が可能となった。


 ~~ザザザッ―~


「…………フリーク? 本当にフリークなの!?」


「そうだ。アース、元気にしてたかい?」


「ふふふ、もう一度あなたの声が聴けるなんて思ってもみなかった。とっても嬉しいわ」


「ああ、私もだよ」


 頭の中に思念で伝わってくるアースの声は、明るく弾んだ軽やかな物だった。そしてまだ聞いていないにもかかわらず、人界でのこれまでの暮らしをとても楽しそうに報告してくれた。

 この様子だと、異界の地でも特に問題は無く任務をやり遂げてくれたようだ。



 最初にアースは、オスマン帝国(当時のエジプト)に向かった。そして深山に籠り魔力を溜め始めた。だがすぐに、まずはこの異世界での地盤を築くべきだと彼女は気付いた。


 16世紀。その頃のイタリアでは錬金術や魔術などが優美な芸術として扱われる傾向があり、それらの品が盛んに取引されていた。

 彼女もそれに目を付けた。とある物好きな貴族にヴォイニッチ手稿を譲り渡し、対価としてヴェネツィア共和国内に土地とそれなりの地位をもらったのだ。

 ヴォイニッチ手稿はたとえアースの手から離れていても、人界に存在さえすれば問題は無い。それに多少の炎なら魔法陣が炎上を防いでくれる。


 その後アースはヴェネツィア共和国とオスマン帝国を行き来しながら、土地の有力諸侯と関係を築いたり魔力を練り上げたりしていたという。


 だが第一次世界大戦間際の治安悪化を契機に、アースは中国へと渡ったのだ。



 そこまで話を聞くと、フリークはこう言った。


「そうか。やっぱりそっちの世界にはこちらよりもたくさんの国が存在するんだね。それで、今も中国にいるのかい?」


「いいえ、今はもう中国もエジプトも無いのよ」


「なに?それはどういうことだ」


「今から352年前の事なんだけど、人類が滅びかけた大戦争が起きてしまったのよ」


 それは第三次世界大戦と呼ばれる出来事だった。資源の奪いあいがきっかけで起こったその戦争は、世界中を核の炎で埋め尽くした。暗黒の時代の始まりだ。

 空を飛び交う悪魔のほうき星。大国どうしの意地の張り合いが、地上にあった美しいものや青い命の若芽を黒い灰に変えた。


「人間たちの科学力は、とうに私たちの魔法力を凌駕しているわ。人間は単体ではとても弱い生き物だけど、集団の力はとても脅威よ」


「そうか……。やはり魔界の人間族と彼らは少し違うようだね」


「そうね、同じなところも多いけど」


「いいぞ。ヴォイニッチ手稿で予言されていた通り、彼らは資源に困っているんだ。それならきっと、この計画を成功させたらば、人間たちも私たちに感謝する事だろう」


 フリークは自分の計画が予測通りに上手く進んでいる事を知り、内から溢れる笑いを止める事が出来なかった。


「人界に資源が不足している限り、彼らは同族同士の殺しあいを止める事は出来ない。そんな絶望的な状況を救うのが、人界と魔界を繋げて全ての問題を解決する私たちというわけだ。クク、完璧なシナリオだな」


「……いえ、それがそうでもないのよ。人間たちの中から文字通りの救世主が現れたの」


 その名もアレックス・ブレインズ。60年続いた大戦争を終わらせ、世界を救った人類史上最大の英雄だ。


 アレックス・ブレインズは人道的手段を持って、世界中にあった核の炎を残さず消していった。そして彼の持つカリスマ性によって、あっという間に世界を一つにまとめ上げたのだ。


 元々彼が働いていた医療機器会社コードブレイン社も、彼の名声と世界中にいる負傷者という莫大な需要と共に急成長し、絶大な権力と財力を持つようになった。


「今は逆に、世界中が三度目の高度成長期に入った光の時代と呼ばれているわ。科学も文化も信じられない速度で日々進歩している。人間たちは争いのない世界の答えを見つけたの。私も今はコードブレイン社にいるのよ。この世界では瞬間移動も身体代償なしで誰でも使えるのよ」


「……とても信じられない。それじゃあ、私たち…」


 人類はフリークの想像した以上の進歩を遂げていた。アレックス・ブレインズの登場により、彼は人界の救世主にはなりえないのではないかと危惧した。

 それに御しきれない過度な力では、魔界の住人と対等な関係を築くことが出来ないかもしれない。


 だがアースはこう言った。


「でも安心していいわ。どんなに科学が進んでも、この世界に資源が枯渇している事には変わりないもの。それに私はコードブレイン社の幹部役員なのよ。魔界との交渉もスムーズに行えるよう手はずできるわ」


「そうだったのか。なら問題はない、か……」


 フリークは一先ず安堵した。


「ふふふ、それにね。どんなに人界が便利で素晴らしい世界であっても、この世界融合魔法発動の計画を止めるつもりはないわよ。だってあなたがいる世界が一番なんですものっ ああ……、もう一度あなたに抱かれる日が待ち遠しいわ」


「そんな事は当たり前だ。この計画には2000年も費やしたんだ。必ず成功させるさ。それに、人界の人間が魔界に来れば、私は新たな創造主になれるかもしれないんだ」


「…………ねえ、フリーク」


「ああ」


「私の事って、どう思ってるの?」


「は? 君はいきなり何を言ってるんだ。そもそも私たちの長い付き合いじゃないか。いちいち言わなきゃ分からないのか?」


「ええ、そうよ」


「はぁ?」


 議論の本筋と外れた意味の分からない事を言い出したアースを訝し気に思いながらも、フリークは自分のために異世界にまで行ってくれた大事なパートナーへの想いを素直に話した。


「……君と私は、アルヴヘイムにいた時からずっと迫害されてきたよね。そんなとき、私は君という存在がいたから今日まで耐え忍ぶ事が出来たと思うし、この融合魔法の完成をみる事も出来たんだ。だから本当に感謝してるよ」


「フリーク…!」


「アース、君は掛け替えのない友だ。必ずこの計画を成功させて、二人の名前を歴史に刻もうじゃないか!」


「ええ、そうねッ。 一緒に最後まで頑張りましょう!」


「ああ!」


「じゃあ、次は50年後に……」



 ~ザザザッ―~~



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