第80話 人類滅亡
フリークは常闇の森を出た後も、少しの間アベルたち勇者パーティと一緒に旅をした。
戦闘の達人である彼らと行動を共にする事は、フリークにとってもメリットしかなかったからだ。
今まで一人では倒せなかったモンスターも、アベル達となら倒す事ができた。
また、彼と旅している時にたまたま魔法契約を交わす事が出来たのがサウザンドウイングだったのだ。
グリフォンのような気高く誇り高い生き物を召喚獣に出来たことは、奇跡に近くとても幸運だった。
その時、フリークは、傍にいたどんな種族をも受け入れる勇者アベルの存在も、契約の成功に僅かに役に立ったのではないかと感じた。
勇者たちの旅の最終目的地は、東の果てにあるという魔王の城である。
かつては魔王こそが神の最大の寵愛の対象だった。
しかし、自分に与えられた力を勘違いした魔王は、自ら神に反逆するようになったという。そして神に歯向かいし魔王を倒す先兵として選ばれたのが、次に神の寵愛を受けし存在である人間族から選ばれた勇者たちだったのだ。
そのようにアベルたちは、自分達の運命について教えてくれた。
ある月のよく見える夜。四人で野営をしていた時、フリークはアベルにこう言った。
「あなた達は70年ほどのほんの少しの時しか生きられない種族なのです。だからこんな自殺みたいな真似は止めて、もっと命を大事にして生きたらどうですか?」
「ちょっと! あんたにはデリカシーてものは無いわけーっ? 少しはアベルの気持ちも考えなさいよ!」
場合によってフリークの発言は、アベルのこれまでの生き方を否定したものとも捉えられよう。だがしかし、これは少しだけ彼らと親しくなったフリークがみせた唯一の優しさでもあったのだ。
するとアベルはこう答えた。
「たしかに君の言う通りだ。今まで何人もの勇者が魔王に挑み敗れてきた。君からすればボクたちがしているのは大変無謀な事に見えるだろうね」
「まあ、否定はしませんよ」
「あっはっは!君らしくていいね。……でもねフリーク。この聖大剣イクシオンの所有者として選ばれたからには、ボクにやれる所までやってみたいんだよ。その結果、世界が少しでも幸せになれば最高だしね。君だって、限りある命の中で何かをなし遂げたいと思っている点は共通しているだろ?」
「ええ……、そうですね。 分かりました。もう止めませんよ」
「あははっ ごめんね、フリーク」
両者は一言でいうなら同じより良い世界の実現を目指して旅をしている事には違いない。だがその先に見据えているものは根本的に違っていた。
フリークは大業を成し優れた存在であると証明する事が目的である。しかしアベルには、その先は存在しなかった。彼は純粋に、魔王を倒し世界をよくする事のみを考えていた。
―だからこんなにも輝いているのか?―
星月夜の下で、隣に並ぶアベルを横目で見ながらフリークはそう思った。
するとアベルはふとこう言った。
「それにだ。もし魔王をボクたちが倒したら英雄になれる。そしたら何でも好きな事し放題だ」
彼の意外なセリフを聞いて、フリークは思わず吹き出した。
「プククッ それはそれは、随分楽しそうな話ですね」
「ああ。だからその為にも、ボクは死ぬ気なんてないぜ」
「ん……アベルなら、乱交セっ~~!し放題」
「ちょっとミナったら?! もう何言ってるのよぉーっ」
アダルトな話題が出てきて堪らずコーラスは顔を赤らめる。それを見てフリーク達は笑いの渦に包まれた。
「なあフリーク。もしよかったら、最後まで一緒に来ないかい」
「ありがとう。ですがそれは遠慮しておきます。私にもやらなけらばならない事があるので。友との約束をないがしろにするわけにはいきません」
「そうだね。すまん、悪かった。今のは忘れてくれ」
「いいえ」
「ボク達は別の道を行く。それでも願いの行きつく先は同じだと思う。これからも共にがんばろう」
そしてフリークは魔王城のある東大陸の直前で彼らと別れた。
その一年後、魔界から突如として人間族は消滅した。
勘違いしないでほしい。勇者アベルは魔王に勝利していた。聖大剣イクシオンは魔王の喉笛を貫いたのだ。
しかし死を悟った魔王は、全人間族を道連れにする呪いをかけて勇者と相打ちした。その結果、魔王も死んだが人間族も残らず滅んだのだ。
魔王の力は想像を遥かに上回っていた。神の予想も覆すほどに。
神は怒り悲しんだ。そして魔王の力が無くなった事から、元々魔王の支配下にいた魔物たちに次つぎと裁きを与えていったのだ。
その後、フリークがトレーダーショップを訪れた時には、ゴブリン店主は理性の欠片もないただのモンスターへと変貌していた。
いきなり滅んだ数えきれない人間族たち。そして神の罰により理性のないモンスターへと変貌していく隣人たち。ミュートリアンたちは今の世界に対し、どうにもならない不可解な恐怖を感じ、みな怯えていた。
中には、世界の終わりを囁く者たちも現れはじめていた。
人類滅亡を知りフリークも同様に、いや、当人たちを知っていた分だけ余計に心を痛めていた。
だが世界を取り巻く混沌とした現状を知ると、それは歓喜へと変わった。
「この世界に人間族はいない。つまり人界からやってくる人間たちが、魔界の新しい人間族になるんだ。ハハ、私はこの魔界に新しい種族を創造するわけだ。もしやすると、私は神になれるのかもしれないぞ」
フリークは再び世界を繋げる研究にとりかかった。
そして人界歴にて西暦2322年。青い月がほんの少し姿を現した事で、人界にいるアースとの連絡が取れるようになったのだ。
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