第66話 クローン生産工場
隠し場所として最適な条件は何だろう。
人目につかないベッドの下ような暗所か?
強固な警備システムを兼ね備えた金庫か?
この世界においてはどちらも違う。決して人間が立ち入る事の出来ない砂漠のど真ん中だ。
コロニー〈ラファエル〉は、イグメイア砂漠の真ん中にあるクローン兵士生産工場だった。その場所では、日夜非人道的な実験が繰り返し行われていた。
〈ラファエル〉の中心部では、常に一体の人間が張りつけにされている。
彼の名前はHANZOU。このクローン工場のシステムの要であり、クローン人間である。
そして、上層階から窓ガラス越しに彼を眺めているロボットがいた。三大天使長の一人、ロワンゼットだ。
仮想空間で生きていた旧人類は、現実世界の肉体の筋力が大幅に低下していた。
その為ロワンゼットも己の肉体を使う事はなく、プールの中から自分の意識を工場内の汎用型人機にアクセスしていたのだった。
ピコーン~
彼の元に、戦地のロボットの指揮官からホログラムメッセージが届いた。ロワンゼットは通信を繋ぐ。
「どうしたのだ?」
「ロワンゼット様、申し訳ございません。ドワーフの国を攻め落とすのに失敗しました」
「くぬぬ。またか……」
これまでクローン軍隊達は、ミュートリアンの領土を次々に破壊し、彼らの宿願である仮想空間を復活させる為の新しい墓の塔の建設を着実に行ってきた。
しかし何度進行しても、〈ガブリエル〉の隣に位置し、魔界でも強大な力のあったドワーフの大国だけは墜とす事が出来ずにいたのだ。
「ロワンゼット様。次こそは必ずドワーフ共の国を占領してみせます。再び侵攻の許可を」
「まあ、そう焦る事はない」
「ですが」
「儂に考えがあるのだ。お前は次の指示があるまで待機だ」
「ハハッ ―~ブツ」
「…………ふん、まあよい」
通信を切ると、ロワンゼットは再び工場長としての仕事に取り組みだした。窓ガラスの前の制御装置の前に座ると、汎用型人機の高精度アームで、複数のパネルを素早く操作していた。
―敵クランの守りは強固である。しかし、どんなに優れた陣にも必ず綻びはあるものよ。手を変えコマを変え、攻め続ければ儂に落とせぬ城などは無いわ―
「さぁて、今日も始めるかの」
そう言うと、ロワンゼットは工場の操作盤のスイッチを入れた。するとロボットアームが展開され、隔離室にいるHANZOUに薬液が注射された。
張りつけにされたHANZOUは激しく泣きながら苦しみもがく。
そして、彼の身体からは汗のように次々と分裂体が発生したのだ。
HANZOUの分裂能力こそが、クローン兵士の秘密だった。生まれおちた分身は、隔離部屋の下部の排出弁から下のクローン貯蔵室に落ちていく。
それを見ていたロワンゼットは、満足そうな笑みを浮かべた。
「歩兵ならいくらでも増やせる。儂の勝利は揺るがないのだ!クフフフ!」
ロワンゼットから作られたクローンHANZOUは、遺伝子手術により痛みを感じる事が出来ない。
それでは、どうして泣いているのかというと、彼にも心があったからであった。
それもクローンなので、生まれた時から成人男性並みの理性と知性があったのだった。尚、現在もそれがあるかは不明だ。
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