第62話 追跡する死
「なんていうか、辛い事を思い出させてすまなかったな」
「いや、いいんだ……」
自分の過去を語り終えたマックの瞳は、とても悲し気で寂しそうだった。さっき彼の話を聞いた分余計に、見ているだけでこっちも胸が苦しくなって来るほどに。
「もしかして、マックィーンさんが望さんの旅について来た本当の理由とは、彼女を生き返らせたいと思ったからです?」
キャンディから尋ねられると、マックは静かに頷いた。
「何故、それを黙っていたんだ」
「ハハハ、もう8年も前の事だよ。あんまり未練がましくても、クールじゃないだろう?」
「マック……」
「──そんなことないですよ!」
そう言ったのは望だった。
「相変わらずダイバーの美的観点は理解できません。恥ずかしい事なんて、どこにも無いじゃないですか」
「でも望。隠れて君を利用しようとしてた事には変わりがないんだ」
「そんなの気にしませんよ。このレリックの力で叶えられる望なら私も協力します。マックさん、一緒にがんばりましょう!」
すると望はマックに手を差し伸べた。
「…………ありがとう。そう言ってくれて、とても嬉しいよ」
マックはそう言ってほくそ笑むと、差し出された望の手を掴んだ。
そしてその時、彼らの前に再びマックが見たという霧の中の女性が姿を現した。白いドレスを着た白髪の女性だった。
だが彼女の肉体はところどころ輪郭がぼやけており、その足は地面から浮き上がっているようだった。
「アンジー?」
マックは白髪の女性に話しかけるが、彼女からの応答はない。
その女性の姿を見たフリークは、口元を押さえ、考えこむような仕草をしながらこう言った。
「どうやら、彼女は霊体のようですね。実は微精霊と魂には何らかの関係性があると分かっているのです。とても不思議な事ですが、微精霊が極度に存在しないこの環境だからこそ発生した現象なのかもしれませんね」
「つまり、彼女は幽霊ってことかい?」
触れられないと分かっていても、マックは彼女に手を伸ばさずにはいられなかった。
しかしその途端、アンジーの霊はマックから離れて行った。
「アン……どうして」
アンジーはマックに背を向け、再び霧の中へと去っていこうとする。
―やっぱり、オレが救えなかったから?―
「くっ」
マックは自責の念に囚われ、アンジーから目をそらしてしまう。
だが彼女の様子を見ていたロンドが、ある事に気が付いた。
「いや、待ってください。アンジーさんはどこかに案内しようとしてるんじゃないでしょうか?」
「ワッツ? なんだって」
マックが顔を上げると、アンジーは既に霧の向こうのかなり遠くまで去ってしまっていたが、彼女はチラチラと振り返ってこちらの方をじっと見ていた。それはまるで自分の事を待っているかのように。
ネベルはこう言った。
「ロンドの言う通りだ。きっとアンジーはお前に何かを伝えたいんだよ」
「うん、そうらしいね。オレも、彼女に伝えたい事はたくさんあるんだ」
するとマックは、霧の向こうにいるアンジーの元へと駆けだした。
だがその時、彼の行く手をふさぐように、突如エルダーリッチが姿を現した。
「えーっ また出たの!?」
「危ない、マックさぁん!」
「っ、しまった!」
マックは目前のアンジーに気を取られ完全に油断していた。そんな彼の喉元目掛けてエルダーリッチは剣を勢いよく振り下ろした。
ガキィィ―ン……ッ
ぶつかり合う金属音。咄嗟に駆けつけたネベルによって、エルダーリッチの剣は弾かれた。間髪いれずディップがエナジーライフルによる追撃を行い、エルダーリッチはマックの側から離れた。
「マック! 俺たちには構わず追いかけるんだ」
「だ、だが」
「フ、気にするな。後で必ず合流する」
「……センキュー!恩に着るよ!」
そう言うと、マックは急いで彼女の後を追いかけて行った。
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