第6話 サンドスケイル
ディップ達三人は、機械の僅かな明かりを頼りに、暗い地下道を進んでいた。
ー~―ピコーンー…………
レーダーを使い、先の道を少しずつ確認しながら進んでいると、やがて地面の中に大きな建造物を見つけた。それこそ探していた旧文明の遺跡だった。
やがて三人は遺跡に入るための扉らしきものを見つけた。
金属の硬そうな扉だったが、デルンがエナジーライフルで鍵穴を壊すと、簡単に開ける事ができた。
「ここに、祖父の残したレリックがあるんですね」
「たぶんな。気を引き締めろ?たまに罠があることもあるんだぜ」
「あ、はいっ」
扉を開けると、遺跡の中はキラキラと輝いていた。
壁も床も銀色の金属でできていて、何から何まできっちりとした四角形で出来ていた。
「なんだか、殺風景な場所ですねぇ」
デルンはライフルを構え、辺りを警戒しながらそう言った。
「遺跡なんてのはだいたいこんなもんだぜ。……罠は無いみたいだな。よし、先に進むぞ」
遺跡の入り口からずっと長い廊下が続いている。
途中にも多くの扉を見かけたが、それらはすべて素通りする。
他にもレリックが隠されている可能性はあったが、彼らは目標物の確保を優先したのだ。
金属の廊下を真っすぐ進みつづけ、三人は一番奥の部屋までたどり着いた。
おそらく、この先に目的のレリックは眠っている。
「開けるぞ? 3…2…Go!」
タイミングをそろえディップとデルンは部屋の中へと突入した。
「モンスターは……大丈夫だ。居ない。 望ちゃん、来ていいぜ」
室内の安全を確保するとディップは望をよびよせる。
三人は、遺跡の最深部へと踏み入った。
その部屋の外周には、複雑かつ精緻な機械が壁中にびっしりと備え付けてあった。あまりに多く巨大なため威圧感さえ感じる。
これらの機械群も、かつては何らかの重要な役割を担っていたのだろう。だがその役割と機能を知る者は、とっくの昔に魔合で死んでしまった。
そうなってしまっては、もはや価値のない物だ。
だが、たった一つ。部屋にある謎の機械群とは明らかに異なると分かるものが、部屋の中心に据えられている透明なガラスケースの中に収められていたのだ。
ケースの中には小さな立方体が飾られており、望は一目みて、それが探していたレリックだと分かった。
望はケースに近づいた。
「望ちゃん。それがレリックか?」
「はい……でもどうやって取り出せばいいか」
注意深く観察していると、ケースの横にある小さな突起物の存在に気が付いた。
試しにレバーのように下方向にずらしてみると、上部の蓋がとれ中のレリックが取り出せるようになった。
「やりました!」
「おう良かったぜ! そしたらさっさとずらかるぞ。またビッグモスキートが襲ってくるかもしれないからな!」
……だが次の瞬間、ディップは自分の発言を後悔することになった。
遺跡全体がぐらりと揺れたかと思うと、部屋の一角が破裂し、そこからモンスターの顔が飛び出してきたからだ。
しかもディップの予測は、より最悪な形で的中したのだ。
「あれはッ サンドスケイルだ!」
それはビッグモスキートとは違い、地中で暮らすモンスターであった。
サンショウウオのような平べったい両性類的な見た目で、身体中にヤスリのようなザラザラした鱗を纏っている。
そのため地中でも岩を砕きながら素早く動けるのだ。
そして厄介なことに、他のモンスターをも好んで食べる獰猛な肉食モンスターだった。
「くそっ、なんて運が悪いんだ!この近くにサンドスケイルの巣があったのかっ きっと、レーダーの音波で呼び寄せたんだ」
ディップとデルンは、サンドスケイルに向かってエナジーライフルを全弾うち尽くすつもりで攻撃した。
しかしサンドスケイルの硬い鱗に阻まれ、ダメージを与える事はできない。
「ヌぁアーー!!!」
目の前に、美味しそうな餌を三つも見つけたサンドスケイル。
嬉しそうに雄叫びをあげながら、どんどん穴から這い出てくる。
危機を察したディップは、ついに奥の手を使うことにした。
「デルン。こうなったらアレを使うぞ! みんな、合図したら目閉じろ」
「兄さん!スタングレネードを使うつもりなんですか?! でもアレは貴重なレリックじゃないですか! 使ってしまうなんて…………」
「くっ分かってるさ。でもそれしかないだろっ さあ、投げるぞ!」
旧文明の遺跡から出た武器、兵器はただの生活用品以上に貴重だ。
しかも手榴弾のような消耗品などは大量生産ができず数が限られているため、ここぞという時にしか使うことが出来なかった。
──パシュ… カッ!
スタングレネードは見事に命中。
衝撃で破裂し、数秒間、激しい光をまき散らした。
ほとんどを地下で過ごすサンドスケイルは当然のように光に弱い。
悲鳴をあげて苦しみ、数秒動くことが出来ずにいた。
「い、今だ! 逃げるぞ」
ディップ達はサンドスケイルがひるんでいるうちに部屋を飛び出すと、元来た道を通って金属の遺跡を脱出した。
「もっと急いでください、兄さん」
「チッ……結局大赤字だぜ」
さっきのように、いつ壁を突き破ってサンドスケイルが襲ってくるか分からない。
三人は肝を冷やしながら進まねばならなかった……。
やっとの思いで地上に出た時には、すでに日は暮れかけていた。
そして地上では、怒ったサンドスケイルが三人の事を待ち伏せていたのだ!
「こ、コイツーー!!!」
ディップはエナジーライフルを構え、目の前のサンドスケイルに向かってデタラメに撃ちまくる。
だが銃弾はいとも簡単に防がれた。
サンドスケイルが前足で薙ぎ払うと、ディップはあっけなく弾き飛ばされてしまった。
「ぐあっ!」
弾かれた時の勢いで、ディップは近くにあった巨大なエナジー結晶のクレーターに激突した。
衝撃で結晶の一部が崩れ落ちる轟音が辺りに鳴り響いた。
「兄さん!」
デルンは兄の安否を確かめる為に、すぐさまディップの元へ駆け出していった。
「ま、待って。まってよ!!!」
望もすぐに跡を追って逃げ出そうとした。だがもう遅かった。
ゴツゴツした鱗を持つ巨大な化け物が、彼女の行く手を塞いだのだ。
「ア、アッ…… おいてかないでよっ……!!」
必死の叫びも、塵風にまみれた。
目の前の大きな瞳の中に自分の姿を見て、底知れぬ恐怖を感じた望はもう一歩も動けなくなってしまう。
そしてサンドスケイルはペロリと舌なめずりをすると、その大きな口をガバリと開いた。
「ッ……!!!」
最後の時を覚悟し、望はそっと両の目を閉じる。
しかし……
「開けろッ」
死を覚悟した時に聞こえて来たのは、望の知らない人間の声だった。
ハッとして、彼女は恐る恐る目を開ける。
そこに立っていたのは、まだ自分と同じくらいの歳の青年だった。
背中には身の丈と同じくらいもある奇怪な形の剣を装備しているようだ。
その青年は望とサンドスケイルの間に割り込むと、稲妻のような鋭い拳打をサンドスケイルに食らわせていたのだ。
あまりに突然の出来事に、人間の倍以上の図体を持つサンドスケイルも、思わず驚き後退していた。
「どけ。離れてろ」
「う、うん」
隙をみて、望はそこから逃げ出した。
一人のこった青年は目の前の大型モンスターと向き合う。彼はサンドスケイル相手にも堂々としていた。
じっと睨み合う両者の間で、青年の太陽のような茶の毛髪だけが揺らめいていた。
望は青年を、自分の事を救いに来たヒーローのようにも感じた。
だが去り際、彼の顔が視界に入った瞬間、彼女は驚いた。
モンスターとの死闘の前だというのに、青年はにやりと笑っていたからだ。
「さあ、宴の時間だ」
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