第59話 J・マックィーン
2432年
コロニー間の資源を巡る抗争に導入された少年兵J・マックィーンは、戦いの最中に爆弾で吹き飛ばされ大けがを負った。
そのまま彼は爆風の勢いで近くの川に落下。意識不明のまま三日三晩、生死を彷徨い続けた。
そして、奇跡的に再び目が覚めた時、既に手足の感覚は無くなっていた。
―ハハ、これは死んだな―
思わず自虐的な笑みがこぼれる。
これから確定的な死が待っているにもかかわらず、彼に恐れは無かった。
むしろ、このクソみたいな世界にようやく別れを告げられる事で、安堵さえ感じていた。
世界は一握りの支配者の為だけにある。そしてそれ以外の人間はただ利用されるだけだ。
彼のいた世界では大人も子供も関係なく独裁者の奴隷だった。旧文明の倫理ではこれらは罪であったそうだが、この終わった世界に独裁者を裁くものは皆無だ。
彼はうんざりしていた。その上いまでは、水流に抵抗できるだけの力も既に残されていない。
マックは目をつぶると、自然のままに終わりの刻を待った。
しかし、死の救済を待っていた彼にふいに訪れたのは、強烈な花の香りだった。
死に際が近づき、いよいよイカレてしまったのだろか。
いやひょっとすれば、三途の川の岸辺に咲く彼岸の花なのかもしない。
しかしそうではないようだった。花の香りと共に風に乗って、玉のように透明な少女の声が聞こえて来たからだ。
「あなた……怪我をしているの?」
死者の国から呼び戻されたマックは、気だるげに瞼を開ける。彼の茶色の瞳に映ったのは、辺り一面のかすみ草の花畑の中でじっとこちらを見つめていた白髪の少女の姿だった。
大きな青い瞳。深く澄んだその青を、ずっと覗き込んでいたいと思いながら、マックの意識は消失していった。
それがアンジーとの出会いだった。
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