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第56話 分かれ道の選択

 2年前とは打って変わって食料に関してのラインナップは少し寂しくなっていたが、それ以外は〈サキエル〉にはあらゆる豊富な物資が揃っており、ダイバー達は旅の万全な準備を整える事が出来た。


 注文した物資はすべて、住人たちが用意したのちコロニーの入り口まで運んでくれるそうだ。ネベル達はコロニーから去るときに召喚獣に荷物を載せるだけでいい。


 彼らのおかげで当初の憂いは消え去った。これで望の故郷ジャパンへの旅を続ける事ができる。


「いろいろありがとうございました。使長さん!」


「ネベル様たちのお役に立てて私たちも光栄です」


 すると、マックは使長にこう尋ねた。


「ヘイ、使長。オレ達は西大陸に向かう旅の途中なんだ。ここから西大陸に陸路で入れるルートを知っていたら教えてくれないかい?」


「に、西大陸ですか?!」


「そうだが、どうかしたのかい」


「いえ……、ですが西大陸に行くにはイグメイア砂漠を越えるしかないですよ」


 北大陸と西大陸の間には広大な砂漠地帯が存在した。そこはかつて太平洋と呼ばれた場所の一部で、光の時代の人間が海を埋め立てて作った大規模核実験場と魔界の暗黒砂丘が魔合で融合した危険な場所になっていた。


 そして、望が自分の祖父を亡くした場所もそのイグメイア砂漠であった。

 自分を庇って月見里コトブキが砂漠の魔物に食べられてしまった瞬間の光景が、彼女の脳内でフラッシュバックする。

 たまらず望はその場でへなへなと座り込んでしまった。


「オイ、大丈夫か」


「すみません……ちょっと、嫌な事を思いだしてしまって」


「顔色が悪いぞ。少し休んでおけよ」


「いいえ、私のことは大丈夫ですから」


 しかしディップは意地を張る望をやや強引にイスに座らせて休ませた。


 彼女は仲間に迷惑をかけまいと無理をしているようだったが、あんな状態の望を砂漠に連れて行くわけにはいかない。それに祖父を亡くした彼女の気持ちを考えれば、尚更そんな事はできない。


 だが、西大陸に行く手段が他にないのも事実だ。


「ネベル。砂漠越えってのはそんなにヤバいのか?」


「さぁな。さすがの俺も砂漠の向こう側には行った事がないんだ」


 するとフリークはこう言った。


「私は魔合後のイグメイア砂漠については分かりませんが、魔界に元々あった暗黒砂丘ならよく知っていますよ。あの場所では常に砂嵐が吹き荒れ、暗黒砂丘の中心部では近くにいるはずの仲間の顔さえも見ることはできません。昼夜の寒暖差は60℃にもなり特有の砂漠病にかかりやすくなります。そして身体の弱った者から、砂中に潜む昆虫系モンスターに食べられて死ぬ。そういう場所です」


「ひぇぇッ そ、そんな地獄みたいな所を通らなくちゃいけないの」


「プクク、怖がらせすぎちゃいましたかね」


「あれ? なーんだ、もしかしてフリークさんのいつもの嘘話だったのかな。アハハ」


「いえ、残念ながら本当なんですよー」


「アハハ…………、ハハ」


 それを聞いたロンドは、あまりに驚愕したためバカみたいに口を開けたまま一切動かなくなってしまった。


 しかもフリークの話は魔合以前の事であり、現在のイグメイア砂漠はさらに過酷な環境に生まれ変わっていた。

 その事を知るのは、実際に砂漠を越えて〈ダイバーシティ〉までやってきた望だけである。


「……砂漠に入る前は200人の大人が居たんだ。それがいつの間にか私を含めて5人しかいなくなってた」


「…………他に、無いんですか。西大陸に渡る方法は」


 すると、それを聞いた使長は深刻な面持ちで彼らにこう言った。


「実は、もう一つあるんです」


「ム、それは本当か」


「はい、ですが。おススメできません。砂漠越えよりもよっぽど危険かもしれませんよ。なぜなら、そこを生きて通り抜けた者はだれ一人として居ないのですから」


 南にある危険な蛇人族(ヴァルーサ)などのミュートリアンが生息するギガス山岳を、さらに迂回した先にある渓谷地帯。

 使長が言うには、崖の上は常に暴風が吹き荒れ幾千のハーピィの目がある為まともに進む事は出来ないが、谷底を歩けば西大陸まで渡る事ができるというのだ。


「なんだ。楽勝そうじゃねーか」


「そ、そうでしょうか。谷底は凄く暗いそうですし、頭上のハーピィがいつ襲ってくるかも分からないんですよ」


 しかしフリークはこう言った。


「いいえ、それなら問題ありませんね。私たちは北のルートを行く事にしましょう」


「うん、おれもそれがいいと思う!」


 ロンドも大きく頷いた。



 ダイバー達が〈サキエル〉を出て渓谷地帯へ旅立った後、コロニーの使長はとある人物と連絡を取っていた。

 明かりの無い使長室で、電話の音が鳴り響く。


「……ブレインズ様。ご命令は無事完遂いたしました。上手く誘導出来ましたよ」


 電波の向こうの人物に向かって、使長は怪し気な笑みを浮かべた。


「ええ、ええ。このコロニーがここまで発展できたのも、すべてあなた様の御支援のおかげです。私にできる事なら今後ともご協力させていただきますとも」


「そう何度も確認なさらなくても大丈夫でございます。たしかにハーピィの渓谷は不可視の獣なら容易く通り抜けられると思います。しかしその先にある死者の国は別です。あの場所は本当に生還者がいないのですから。きっと屍になった奴らからなら、神の雫をやすやすと回収できますよ」

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