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第54話 疑念

 広場の中心では、まだ転移魔法で生じた小さな炎がくすぶっていた。

 ネベルは、炎の渦の中に落ちていた少女の脚を拾いあげる。

 見るも無残になり果てたその両脚は、ネベルがつかんだ瞬間に灰になって崩れ落ちた。


「っ……!」


 それを見た望の瞳からはポロポロと涙がこぼれ落ちた。


 キャンディは彼女に近寄ると、背中をそっとさすっていた。



 ネベルも手の中のマキナだった灰の熱さと共に、斑目マダムや西にあるというコロニーに対しての怒りを感じていた。


「守れなかった」


「ネベル君」


「奴らのやり方は許せない…… だから、次はぜったいに倒す!」


 そう言うとネベルは強くこぶしを握りしめた。

 ダイバー達も同調するように頷く。



 しかし戦いの最中、フリークのある言葉が気になっていたデルンだけは素直に頷く事が出来なかった。


「あの、フリークさん……」


「はいはい。私はフリークですよ」


 デルンは、神妙な面持ちでこう尋ねた。


「さっき聞いてしまったんですが、奴らがコードブレイン社というのは本当ですか」


「ええ、間違いありません。ロボット兵器の軍勢をみたでしょう?この時代にあれだけの科学力を有する組織は他に考えられませんし」


 それを聞くと、ディップはこう言った。


「ちょっと待てよ。何かの間違いじゃないのか? コードブレイン社っていうのは、望ちゃんのホログラムに映っていた、爺さんと同じ会社じゃないか」


「兄さん、それが問題なんです」


「……どういう事だ」


「望ちゃんの祖父─月見里コトブキと熾天使会議(セラフィ二ウム)の斑目マダムは、旧文明で同じコードブレイン社の所属だった。そして両者とも神の雫を欲している。つまり、両者の行きつく結果は同じなのではないでしょうか」


「そんなバカな!」


 とも、ディップは言う事が出来なかった。


 ダイバー達は神の雫の正体が何なのかを知らない。

 神の雫がどのようにして滅んだ文明や、死んだ人間を蘇らせるのかを今まで知らなかったのだ。


 それを知るのは、先ほど仮想空間(カテドラルスペース)復活の野望を語った班目マダムと、おそらくは神の雫を探していたコトブキだけなのだ。


「ホワッツ!? つまり望のお爺さんがしていた話はデタラメで、アイツはオレ達を利用して仮想空間(カテドラルスペース)を復活させようとしてたって事かい?」


「その可能性はあります。もしかして最初から斑目マダムと共謀してたのかも…………」


 <ダイバーシティ>でコトブキが語った旧文明の復活も、今にして思えば仮想空間(カテドラルスペース)の復活のみを意味していたのかもしれない。それは最悪のケースだ。


 ──深い海の底、誰も手にした事のない宝の真珠だと思っていた物はただの泡沫であった。

 危険な深海潜水のリスクを負ったばかりに、ダイバーたちの落胆は大きい。


 だが気を落とす彼らに対し、突然、望は叫ぶようにこう言った。


「そんなことないっ!」


 激しい感情の籠った心の叫びを聞いて、皆が望の方を向いた。


「おじいちゃんはとっても優しい人だった。あんな酷い奴らの仲間のはずがないよ!」


「望さん……」


「おじいちゃんは絶対、こんな酷い事はしない!」


 彼女は怒っていた。己の我欲の為ならどんな非道も辞さない西の天使の国に。

 そして大好きな祖父の事を信じきれない自分自身に。



 しばらくの間、ダイバー達は涙を流す望をただ見守る事しか出来なかったが、ふとディップは望に歩み寄ると、そっと彼女の肩に手を置いた。


「そうだな。まあ、道具だって使い方だ。銃だって悪党が使えば暴力しか生まないが、心優しい人間が使えば大事な物を守る事ができるんだ」


「ディップさん……」


「だいじょうぶさ。きっと悪いようにはならない」


 すると、それを聞いたロンドとキャンディもこう言った。


「そ、そうだね。望さんのおじいちゃんなんだもの。いい人に決まってる!あいつらとは違うよぉ!」


「アタシは望さんを信じますです!」


 彼らの言葉を聞き、望は少し明るさを取り戻した。くすりとほほ笑みながら二人に「ありがとう」と伝える。


「デルン。確かにお前のいう事も一理あるが、それは可能性でしかないぞ」


「そうですね。望ちゃん、不安にさせてごめんね」


「いえ、いいんです。デルンさんの言う事も間違いではありませんし…………」


「オイ、考えこむ必要はないんだぞ。望ちゃんの祖父と非道なアイツらとは根本的に違うんだから」


「はい、ありがとうございますっ」


 その時見せた望の笑顔が余りに可愛ちいだったので、ディップは思わず彼女から目を背けた。



「あーっと……ところで、これからどうする? オイこらネベル。飛行船はあれからどうなったんだ?」


 ディップがそう尋ねると、ネベルは黙って両手を上にあげた。これはどうにもならない事を意味する。


「マジかよ」


 そして代わりに、キャンディが悲しそうにこう答えた。


「ティクヴァに内蔵された自己修復プログラムは働いているようでしたです。しかし修理にも時間がかかります。何よりマッハ50で飛行したせいか、燃料が空っぽになってしまいましたです」


「はぁっ?! つまりアレか? もう飛行船は使えないって事か」


「はいな…… アタシももっと乗りたかったです」


 ここから秘密の部屋のあるジャパンまでは、まだかなりの距離がある。

 飛行船に乗ってきたといっても、墜落したせいで地理的にはほとんど真上にしか移動できていなかったのだ。


「どうするんだ……。ここからマジで一年歩くのかぁ?」


「フッ俺は別にいいぜ。慣れてる」


「お前なんかに聞いてねーっての!」



 すると、ダイバー達の話を聞いていたフリークはこう言った。


「あの私、三体くらいまでなら騎乗生物を召喚できますよ。ここにいる全員が乗れる奴」


「本当か?! え、でも……」


「はい。その代わり、私も貴方たちの旅に同行させて頂けないでしょうか」


 フリークの提案は魅力的な物だったが、ダイバーの幾人かはミュートリアンであり異なる思想を持つ彼の事を警戒していた。


 ネベルはフリークの意外な提案に驚き、顔をしかめながらこう尋ねた。


「嫌だよ! なんでついて来るんだ!」


「いいじゃないですか~。プクク、可愛い我が子の成長が気になるんですよ~」


「うっせえっ! ……そもそも、お前は何か目的があって森から出てきたんじゃなかったのか」


 するとフリークはこう答えた。


「ああ、私の用事は急ぎじゃないんです。それよりも今は貴方たちの冒険に好奇心が傾いてしまって……。大変な事情があるとは分かっているんですが、なんだかおもしろそうじゃないですか! おあつらえの敵役もいて、まるで私たち勇者パーティみたいですねっ」


「おいおい、ピクシーと言ってること同じだぞ……」


「あらら。嫌ですねー」


「むきー! ちょっとソレどういう事ぉ!」


 ぷんすかと怒ったピクシーはフリークの頭上まで飛んでいくと、彼の頭を気が済むまでポコポコと叩いていた。


「うーん。彼は戦闘面では頼りになるし、ついて来てもいいんじゃないでしょうか」


「……そうだな。だが、今度オレ達に向かって攻撃魔法を使った時はすぐに去ってもらうぞ」


「分かりました。それでいいですよ」


 フリークはその爽やかな美顔でニコリと笑った。


「それでは皆さん、これからよろしくお願いしますね」


「フリークさぁん!よろしくーっ!」


「よろしくなフリーク!」


 なんだかんだあったが、ダイバー達はフリークの事を快く受け入れた。

 ただしこの場合、元からフリークを厄介に思っているネベルは除外する。



「よし、問題は解決だな」


「ノー。実はまだあるんだ」


「……オイこら。俺の聞き間違いかぁ?」


 するとマックはかぶりを振ってみせる。


「残念だけど、聞き間違いじゃあないよ。実は物資がほとんど燃えてしまったんだ。弾薬とか食料とか。ああ、ディップのエナジーライフルももうないよ」


「う そ だ ろ ★」


 しかし非情にもマックは同じモーションを繰り返す。


「……トゥルー。詳しく探せば多少は見つかるかもしれないけどね。けど燃焼した場所が悪かった。備蓄庫はほぼ全滅さ」


「お、俺の銃……! とほほ、これが泣き面に蜂って奴か」


 同じくデルンの銃も墜落時に壊れてしまっていた。船に残っていたネベルとマックは自分の武器を持ち出せていたが、まともに戦えるのがフリークも含めて8人中3人ではかなり心もとない。


 問題はそれだけではない。彼らは、長い旅の間の食料やエナジーも失ってしまったのだ。


 すると望はこう言った。


「でも、食料問題ならすぐ解決すると思います。だってほら、白麗族の人達に少し分けてもらえばいいじゃないですか。宴会場にはあんなに沢山あったんだし。どうですか?」


「うーん、それは止めた方がいいんじゃないかい」


「え、マックさんどうして?」


「さっきネベルが獣人族をボコボコにしてしまっただろ。犬人族(ウェアドッグ)猫人族(ケットシー)がヨリを戻そうとしている今。余計な争いを生まないためにも、もうあの村には戻らない方がいいんじゃないかな」


「あ……そうでしたね」


 望がチラリとネベルの方を見ると、彼はぷいと顔を背けてしまった。


「はぁー……。マジでどうすんだよぉ~」


 ディップはその場でしゃがみこんで頭を抱えた。

 物資のない彼らはこの森から一歩も動けなくなってしまったのだ。

 他のダイバー達も現状を打開する策を切り出せずに困り果てていた。


 だがその直後、ネベルが放った言葉が、この事態を打開するきっかけとなった。


「俺に考えがある。ここが白絹の森なら、それほど遠くない場所にコロニーがあったはずだ。そこに立ち寄って物資の補給をしよう」


「なるほど。そのコロニーとは?」


「安寧の地〈サキエル〉だ」

お話を読んでいただきありがとうございます。


読者の皆様の存在が、執筆の励みになっております。


これからもよろしくお願いします。

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