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第52話 狂気

「痛い!痛いのダ!!!」


「この糞ッ よくも俺たちを操ってくれたなッ 思いしれ!」


「やめてッ やめてなのダ……」



「プーパを傷つけないで」


「うるさい! この人形野郎!」


「うわぁっ」


「……俺には猫人族(ケットシー)の友達が居たんだ。それなのに、この手で……! このッ」


「ワタシ達じゃないっ…………!」


「黙れ!この穢れた血が!」



「ヤレっ!ヤレっ!」


「ヤレっ!ヤレっ!」


 荒廃した犬人族(ウェアドッグ)の里の広場。

 そこでは数人の男たちがクローン姉妹をあらゆる手段で徹底的に痛めつけていた。

 周りには数十人が円を作り、熱狂的な遠吠えを上げながら、同胞の敵討ちが行われる様子を観戦していた。


「ヤレっ!ヤレっ!」


「ヤレっ!ヤレっ!」


 催眠電波で心を操られ、自分たちの大事な物を無残に傷つけさせられた事への激しい怒り。無くしたものに対する悲しみ。

 それらがすべて、マキナとフーパに狂気となって襲い掛かった。



 猫人族(ケットシー)の里で尋常でない犬人族(ウェアドッグ)の声を聞いたネベル達も、彼らの後をつけて来て、この狂気に満ちた光景にたどり着いた。


 目の前の暴力に彼らは息をのむ。


「と、止めないと」


「はい。彼らが怒る理由も分かりますが、こんなの絶対間違ってますです」


 広場には、姉妹を獣人の力で思いっきり殴る打撲音。

 それをかき消すようなギャラリーの怒号が絶えず響いていた。


 

 幼い少女たちが暴行を受ける光景が見るに堪えず、ディップは狂乱の中にいる犬人族(ウェアドッグ)たちの元に近づいて行った。

 だが彼の前にフリークは立ちふさがった。


「オイこら、どきやがれ!」


「彼らの行動には正当性があります。それに相手はクローンですよ」


「それがどうした! あの子たちは子供なんだぞ!」


 ディップは無理やりにでも押し通ろうとした。

 

 だが気づくと、彼の足元は凍り付いていた。


「それでも貴方たちを行かせるわけには行きません。今の気の高ぶった状態の犬人族(ウェアドッグ)達はとても危険なのです」


「…さてどうだかな。お前がクローンを嫌ってるだけじゃねーのか。知らねーけど、そんな感じするぜ」


「…………」



 するとその時、押し問答をしていたフリークとディップの横をすり抜け、一瞬の隙に望が犬人族(ウェアドッグ)達の所へ走り抜けていったのだ。


「あッ 止めなさい!」


 フリークは彼女に気づくと、同じように氷の魔法で動きを封じようとした。

 しかしフリークは変身の魔法を使い続けてきたばかりか、今日だけで既に何度も呪文を使っていた。

 もう体内に魔法を使うための微精霊を生み出す力が残っていなかったのだ。


「くッ……。本当に、危険なんです。貴方も殺されてしまいますよっ?!」



 天に手をかかげ、いつしか犬人族(ウェアドッグ)は、マキナとプーパが殴られる様を見て狂的な笑みを浮かべるようになっていた。


 そんな人の波をかぎ分け、望は集団の中心にたどり着いた。

 そこではついに、犬人族(ウェアドッグ)の一人が鉈を取りだし、プーパの腕を斬り落とそうとしていた。


「お姉ちゃん!!!」


「やめてっ お願いです!やめて下さい!」



「死ねぇッ!」



 だが鉈が振り下ろされる寸前、望は身を挺して守るようにプーパの上に覆い被さった。


「何? 人間がなんで」


「もう止めてください! あなた達は間違っています」


「なんだとッ! 小娘が何を言う」


「クローンの侵略行為については猫人族(ケットシー)の族長さんから聞きました。あなた達が受けた仕打ちは許される事ではないと思うし、仲間を失ってとても辛いという気持ちも分かります。けれどっ、その苦しみの全ての責任がこの二人だけにあるはずは無いし、それを押し付けるのもおかしいよ! だから……怒りに任せて間違えてはダメよ!」


 望は精一杯彼らを説得した。

 クローンである自分たちを庇ってくれる望に対し、姉妹は不思議と温かい気持ちを感じながら茫然と眺めていた。


 しかし既に狂気に飲まれた獣達には、理性的な説得など通じなかった。

 フリークにはこの結果が分かっていたのだ。


「さっきから黙って聞いていれば!よそ者のくせに、我らの気持ちが分かるだとぉ!!!」


「適当な事を言いやがって。お前もさてはクローンの仲間だな」



「殺せ!」


「殺せ!殺せ!」


「殺せ!殺せ!」



「ちが……」


 そして鉈を持つ犬人族(ウェアドッグ)の狂気が、今度は望に向かって襲いかかる。



「そこまでだ」


 ―ピュ、キューン~―


 大口径弾の気持ちのいい良い射撃音と共に、その鉈は宙を舞った。


 望が顔を上げると、彼女の隣には銃形態のエクリプスを構えたネベルの姿があった。



「……不思議だな」


「は?」


猫人族(ケットシー)の兵士達は、それなりに手強そうに感じたんだ。だけど……。フッ、同じ獣人族でも、お前らみたいなチンピラ相手には全く負ける気が湧かないな」


「なんだと?!」


「かかってこい雑魚ども。相手してやるぜ」

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