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第51話 ヒュプノシスマシーン

 敵の洗脳ロボットは猫人族(ケットシー)の兵士たちに向かってゆっくりと進んでいく。

 それに対し白麗族の部隊も、弓矢による一斉射撃を開始した。


「構えろ! ……今だ、放て!」


 ニャルラト隊長の号令により、兵士たちが弓矢をつがえる。


 獣人の優れた身体能力を持って放たれる矢は、人間が撃つ矢よりも強力な物理火力を有する。

 それらがすべて、洗脳ロボットの正面装甲に向かって放たれた。


 しかし、矢は一本も命中しなかった。

 矢は洗脳ロボットの行った誘導射撃により、すべて撃ち落されたのだ。そして高性能レーダーによる誘導射撃は、次の標的を猫人族(ケットシー)の兵士たちに切り替えた。


「た、退却だぁ!」


 敵の正確無比な攻撃に為す術もなく、兵士たちはその場から一旦立ち去るしか無かった。



 ──その様子を見ていたネベルも、洗脳ロボットの誘導射撃はかなり厄介だと感じていた。


「…………クソ。あれだけ弾幕を張られたら、そう簡単に近づけやしない」


「それに、あの迎撃精度だ。弾速の遅い俺たちのエナジーライフルじゃ簡単に撃ち落とされるから、遠距離攻撃はきっと無意味だな」


 ダイバー達はロボットとどう戦えばいいか分からず、頭を悩ませていた。

 すると、フリークが彼らにこう言った。


「皆さん、私に考えがあります。まずはあの邪魔なレーダーを破壊しましょう」


「けど……、どうやって破壊する気ですか? 誘導射撃のせいで射撃も接近も出来ない事を忘れたわけじゃないですよね」


「たしかに点での攻撃では、敵の正確なレーダー探知によって撃ち落されてしまうでしょう。しかし魔法による広範囲攻撃なら、簡単に防ぐ事は出来ないはずです」


「な、なるほど。 さすがですミカエラさんあ、フリークさん!」


「オイこらデルン」


 心の傷が再び開いたディップはデルンを軽く小突く。



 ふとフリークは、ネベルの元に近づいた。


「ネベルさん。私の手を」


「ああ」


「多少、辛いかもしれませんが我慢してください。今から私の中にある体内魔素を渡します」


 すると繋いだ手を通して、何らかの力がネベルの中に流れ込んでくるのを感じた。

 エルフは体内で魔法を使うための微精霊を生みだすことのできる限られた種族だ。

 彼はそのエネルギーを、ネベルに分け与えようとしていたのだ。


「……くっ」


 ネベルは魔素の譲渡に伴う痛みで、苦悶の表情を浮かべた。

 だが同時に、身体のうちから湧いて来る力も感じていた。


「これでしばらくの間、普段エナジー(ボトル)で使うより強力な魔法が撃てるようになりましたよ」


「ああ…… そうだな」


 ネベルはまだ体内の許容量を超えた微精霊に身体が慣れておらず戸惑っていた。

 手指や関節を折り曲げたりして、自分の中の魔素の感覚を確かめてみる。


 次にフリークは、ディップ達の方を向いてこう言った。


「あのロボットは私とネベルさんにまかせてください。あとの方は、兵士たちの応援の方を」


「うーん。 よし、じゃあ任せていいんだな」


「はい。もちろん」


 フリークは頷く。

 ダイバー達はまだミュートリアンでもある彼の事を十分信用出来ていなかったが、魔法の実力があることだけは既に知っていた。


「ではネベルさん、行きましょうか。私たちで犬人族(ウェアドッグ)を解放しましょう」



 準備が整うと、ネベルは洗脳ロボット目掛けて突撃を開始した。

 少し遅れて、後ろからフリークがついて来る。


 猛スピードで駆け抜けてくるネベルに気が付いた洗脳ロボットは、彼に向かってレーザー攻撃を開始した。


 ――ビビビッ ビビ~~~~~


 砲台から発射された熱光線は、地面を真っ赤に焦がしながらネベルに迫っていった。

 しかしネベルにとって、この程度の攻撃は簡単に躱す事が出来るのだ。


「ククッ ぬるい攻撃だぜ」


 そうして洗脳ロボットがネベルに気を取られているうちに、フリークが接近し呪文を唱える。


「嵐よ、爆ぜろ! エクスプロードエアル!」


 彼の体内魔素によって、乱気流を起こす1メートルほどの風の球体が生み出された。

 その風の玉が破裂すれば、竜巻のような大きな風を巻き起こし何でも吹き飛ばす事が出来る。

 だが洗脳ロボットの重さは20トンもあった為、その時はロボットのボディを左右にぐらつかせる程度の効果しか無かった。


 しかしネベルにとってはそれで充分だった。


 レーザー攻撃が止まった瞬間にネベルは距離を詰め、エクリプスで思いっきり殴りかかる。

 すると、すでにバランスが崩れかけていた洗脳ロボットはそのまま派手に横転した。


「素晴らしいです。さて、準備はいいですか」


「フッ、いつでもいいぜ」


 二人は息を合わせ、片方の手をロボットの方へと突き出すと、同時に呪文を唱えた。


「「ヒートヘイズ!」」


 二つの魔法が重なり、より広範囲高威力となった炎の塊が洗脳ロボットに襲いかかる。


 ロボットも熱レーダーの反応を頼りに誘導射撃で迎撃を試みたが、強力な炎により丸ごと焼却された。

 前面装甲は炎の熱に耐えられず融解し、誘導射撃の肝である高性能レーダーはもはや完全に破壊され使いものにならなくなってしまった。


 そして、連撃の後に、さらなる追撃が待っていた。


「二人ともナイス! あとはオレに任せてくれ」


 マックはスナイパーライフルTC-30に、特別強力な榴弾を装填した。

 これはキャンディが作成したオリジナルモデルだった。


「オーケー…… ショット!」


 すでに迎撃能力の失われた洗脳ロボット目掛けて狙いを定め、マックはTC‐30のトリガーを引く。


 榴弾は剥がれた前面装甲の僅かな隙間をかいくぐり、ロボットの内部に直接ぶち当たった。

 基盤に近い所で榴弾の破壊力を浴びた洗脳ロボットは、致命的なダメージを受けることになった。


 ロボットからは黒い煙がもくもくと立ち上り、だんだんと動作も鈍くなっていく。

 そして、数秒後にはすべての機能を完全に停止し、犬人族(ウェアドッグ)達も洗脳から解放されたのだった。


「…………あれ、俺どうしたんだろ」


「ここは? なんで猫人族(ケットシー)の村にいる? そういえばクローンがやって来て……」


 次々と正気を取り戻していく犬人族(ウェアドッグ)

 戦の数の有利はあっという間に反転し、指揮官を失ったクローン兵士は森の外まで敗走していった。



 こうして神秘の森に、再び平和が訪れたのだ。


「皆の者、我々の勝利だ! 白絹の森に再び自由と平穏がもたらされたのだ!」


 猫人族(ケットシー)の族長が勝どきを上げると、その場にいた獣人族たちは互いに喜びを分かち合った。


 望はこう言った。


「やったね。これでもう獣人族が無理やり操られる事もないんだね」


「それは分かりません。ですがひとまず危機は去ったと言えるでしょう」


「え、フリークさん。それってどういう事ですか? また彼らがロボットで操られて、したくもない戦いをするかもしれないって事?」


「残念ながら、西の国家〈ガブリエル〉は、この森以外にも同じかそれ以上の規模でクローン兵士と洗脳ロボットを派遣しているのです。私たちがここでたった一体壊したところで、何も変わりはしません」


「そんな事って……」


「たしか、貴方たちはジャパンを目指しているのだとか。だとしたら気をつけた方がいい。あそこも〈ガブリエル〉の一部ですから」


 するとその時、怒りに満ちた恐ろしい犬人族(ウェアドッグ)の声が聞こえて来た。


「こっちにクローンの生き残りがいたぞ! 俺らを操って好き勝手しやがったクソ共の生き残りだ!」

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