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第49話 秘密の多い彼女

 一方その頃、この森と白麗族が置かれている危機的状況を聞いたダイバーたちの中には、彼らの力になりたいという思いが生まれはじめていた。


「心を操って無理やりに戦わせるなんて、ひどすぎるよッ」


「はいな。いくら高い技術があっても、正しく使われなければ意味がありませんです」


 望たちは西の国の理不尽な侵略行為に対し、怒りをあらわにした。


「族長サン。一つ聞かせてくれないか。 君たちは西大陸のクローンが獣人族の領土を荒らす理由に、何か心あたりはないのかい?」


「はい、恐らく私たちの土地が狙いでしょう」


「ワッツ、君たちの土地だって?」


 すると猫人族(ケットシー)の族長は、ネベルたちにこう言った。


「憎きクローンの軍隊は、古い土地に住む同胞たちを追い出そうとしているのです。そしてどうやら、誰も居なくなった森や平野を切り開き、怪しげな塔を建てているそうなのです」


「塔……墓の塔(セメタリータワー)か」



 ──そのとき、血相を変えた兵士が一人、宴会場の中に駆け込んできた。


「た、大変です。ついに犬人族(ウェアドッグ)が攻めてきました」


「なんだって!? 数は、いったい何人だ」


「ひ、一人です!」



 兵士の報告を聞いてネベル達が宴会場の外に確認に出ると、そこには合わせて四つの人影があった。

 たしかにそこには犬人族(ウェアドッグ)もいた。

 だがよくよく見ると、その集団の中には離ればなれになってしまったはずの仲間の姿も含まれているようだった。


 とき同じくして、犬人族(ウェアドッグ)の住む土地からやってきたディップ達も、宴会場から出てきたネベル達の姿に気づいていた。


「あぁっ おーい、みんなー!」


 真っ先にロンドが駆けだし、続いて各々互いの集団に合流しようと近づく。

 だがそれよりも先に、何故かミカエラが一番のりでネベルの元に駆けつけたのだ。


「は、犬人族(ウェアドッグ)の女? ……なッ、なにするんだ!」


「ふふ、久しぶりですね。会いたかったですよー」


 するとミカエラは、いきなりネベルに対し熱い抱擁をしてみせた。


「な゛っ ミカエラちゃんどうしてッ! ま、まさか。ネベルの昔の女だったのかぁ~?」


 それを見たディップは、ショックで激しい頭痛を感じた。

 ネベルも含めて、その場にいた誰もがミカエラの突然のハグに困惑していたのだ。

 彼女は言った。


「プクク、私のこと忘れちゃったんですか?あんなに愛しあったじゃないですか」


「あ? 何言ってんだお前……」


 犬人族(ウェアドッグ)の恋人など、ネベルには全く身に覚えがない。

 だが、それを聞いたダイバー達は、それぞれおかしな詮索を始めた。


「ええ!!! ネベル君……そ、そうだったんだ」


「なるほど。下の剣も最強という事ですか」



 ネベルはパーティー内での社会的な身の危険を感じ、すぐさま自分に密着していたミカエラを手で押しのけた。


「はぁ、はぁ……っ」


「ふふふっ」


「な、なにが可笑しいんだ」


「いやね、私は嬉しいんですよ。2年前の貴方は一人で生きることにこだわり、強さの為に自分を必要以上に追い詰めているようでした。ですが今の貴方はこんなにもたくさんの仲間に囲まれているんですね。ふふふ」


「二年前だって? ム、よく見たらその恰好……」


 すると、ミカエラを見ていたピクシーが何かに気づいてこう言った。


「あ、この感じ! もしかして、美味しいお茶をくれたエルフ?」


「ほう、やはり妖精には微精霊で分かってしまいますか」



 するとミカエラは、自分にかかっていた変身の呪文を解除した。


 頭に生えた耳は、獣のモノからエルフの尖った耳に変化し、身体中から毛深さが消え去った。

 女だったミカエラの身体も、元の若い男の肉体に戻る。

 といっても性別の変化に関しては、エルフは元々どちらにも成れる能力がある為、魔法ではなかったのだが。



 やがて変身が解けると、そこにはネベルのよく知る彼の姿があった。

 ミカエラの正体は、偏屈なエルフだったのだ。


「エルフ?!?しかも男だって? そんな、ミカエラちゃんはどこに行ったんだ? ミカエラちゃーん」


 目の前で美しい犬人族(ウェアドッグ)の女性が男の姿に変わるのを見て、ディップは激しく取り乱した。


「なあ……、彼女は本当は女なんだろ? 今は男に見えるが、本当は、女なんだろ!」


 ディップはすがるようにネベルに問いただした。

 ネベルは彼に真実を伝える事を心苦しく思っていた。


「…………残念だが」


「オイ、嘘だろ! 俺の恋心は、どうなっちまうんだよ!!!」


「えっ! 兄さんそうだったんですか??」


 そんな彼らの問答を見ていたフリークは、ニヤリと笑みを浮かべながらディップにこう告げた。


「プクク。私、男ですよ」


「……嘘だ」


「ほうら、見てください」


 するとフリークは黒い白衣を脱ぎ、自らのよく鍛えられた胸筋をさらけ出した。


「うふん、どうでしたか?私の雄っぱいは♡」


 それを見たディップはもう既にいないミカエラとの記憶と、目の前の下品なエルフが脳裏で重なり、ショックのあまり思いっきり胃の中のエンジェリンゴを吐いた。

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