第47話 機械人形の姉妹
ディップ達の前に現れた二人のクローン、マキナとプーパは、墓の塔の崩壊後に姉妹として作られたモノだった。
チャイナ服風のスーツを着た二人のクローンはとても可愛らしい外見をしており、ダイバー達はすっかり油断していたが、二人から「神の雫」という単語を聞くと彼女らが敵だという事がはっきりと分かった。
「なんだって? 神の雫は望ちゃんが持ってるアーティファクトだ。お前ら、なんでそいつを知っている。なぜ狙うんだ」
ディップがそう尋ねると、マキナとプーパの姉妹はくるくると周りながら交互にこう答えた。
「どうして?どうして?? それは、神の雫こそ無限の可能性を秘めたパンドラの箱だから」
「それは、神の雫があれば人間のためだけの楽園を、もう一度この世界に顕現させる事ができるから! ……って、ママが言ってたのダ!!!」
姉妹はそれぞれセリフを言い終わると、再びびしっとポーズを決めた。
―楽園をこの世界に顕現させる?一体どういう事だ?―
ディップは姉妹の言葉の意味をさっぱり理解できなかったが、それでも二人に神の雫を渡してはいけない事は分かっていた。
なぜなら、あれは望の祖父の大切な形見であり、神の雫を約束の場所に届けることこそが、この旅の最重要事項なのだ。
「兄さん、彼女たちは僕たちの旅を邪魔する敵のようですよ」
「ああ、そのようだ。オイこら、お前らに望ちゃんの大切なものは奪わせないぜ」
そう言ったディップ達の立ち姿があまりに堂々としていたため、姉妹は思わずたじろぐ。
その時、ふと科学的な容姿を持つ二人の敵を前にして、ディップはあることを思い出した。
「そういえばだ。俺たちが乗ってたティクヴァにいきなりミサイルを撃ち込んできたクソ野郎がいたんだ。もしかして、ヤッたのはお前らか?」
ディップはそう言って彼女たちを睨みつけた。
しかしマキナとプ―パは、そんな脅しなどまるで意に介していないようにケラケラと笑いながらこう答えた。
「ミサイル~? ああ、違うよぉ。アタシたちじゃあないよ! ティクヴァって大昔のロケットでしょ?もし惑星運動に匹敵する速度で飛行する物体にミサイルを命中させられる人間がいるとしたら、それはアポストロスの奴しかいないのダ!!!」
「…………ワタシ、あいつキラーい」
「アタシも! へへーん、キラーいなのダ!!!」
プーパが姉のマキナに同調を示すと、二人は仲良く向かい合い何度も小さく飛び跳ねながらハイタッチをしていた。
二人の話ぶりから、アポストロスというのは姉妹の仲間らしいと察することが出来た。
もしやすると、他にもたくさんのクローンが神の雫を狙って来ているのかもしれない。
ならば一刻も早く仲間と合流する必要がある。ディップはそう感じていた。
「抵抗するなら容赦はしないデーす」
「そうそうっ 渡さないのなら、力づくで奪いとるしかないのダ!!!」
そう言うと、二人の姉妹は明らかな戦闘態勢の構えをとった。
一見、武器は持っていないようだが、相手は未知のクローン人間だ。
どんな攻撃を仕掛けてくるかは想像もできない。
「そっちがその気なら、やってやるぜ!」
「ぼ、僕も戦います!」
今にも戦いが始まろうとしていた。
両者の間に、ひりついた緊張感が漂う……。
「いくぞ!」
「へへーん。アタシ達のコンビ攻撃に耐えられるかな?」
「はんッ そんなの屁でもねーぜ」
そしてバーンズ兄弟とクローン姉妹は、互いに無手の状態にも拘わらず、勢いよく突撃をしかけあったのだ。
「うおぉおぉぉ!」
「あああぁぁぁぁ!」
「とぉりゃあああぁァァ!」
「こんちくしょおぉぉぉっ」
だがその時、ロンドはとても重要な事に気づく。
「あああっ ちょっと待ってよ!」
あわてて兄弟二人を引き留める。
「は? ど、どうしたんだロンド。邪魔をするんじゃない」
「ディップさん。でもおれ達、今、神の雫もってないよぉ? あいつら何で襲ってくるんだよ」
「……なに? そういえばそうだな」
神の雫はずっと望の手元にあるのだ。
この戦いに勝っても負けても、互いに得る物も失う物もない。
争うこと自体が時間の無駄だ。
「そうだよな。そもそも、ここに無いじゃないか。…………なんだコイツら。なんで俺たちの方に襲って来たんだ?」
そういってディップがマキナとフーパの方を向くと、姉妹もちょうどその決定的なミスに気が付いたところで、互いに顔を見合わせ焦り散らかしている所だった。
「どうしよう……! ワタシたち、場所を間違えてた?」
「どうしよう……! きっと、その通りなのダ!!!」
「うーん、どうしようフーパ」
「うーん、どうしようマキナ」
「「…………こうなったら、アレしかないね!!!」」
そしてクローン姉妹は再びポージングを取り「必殺!」と大きな声で叫んだ。
すると、二人の足元からは、白くて濃いスモークが発生した。
「うわわっ 何がおこったの?」
デルンが驚きながらそう言うと、どこからともなくフーパの高笑いが聞こえて来る。
「フハハハハハ!!! フーハハハッ!!! アタシ達はちょっぴり標的を間違っちゃったみたい。だからここで引かせてもらうのダ!!! フーハハハッ フーハハハハハ、う゛げほげほ」
「ふざけんな。そう簡単にお前らを逃がすと思ってるのか」
「ふふんッ ワタシたちのような優れたクローンには、遺伝子改造技術により、とっておきの特殊能力が備わっているのです!それを使えば、あなた達から逃げる事など容易いのデーすっ」
「何っ、特殊能力だと!」
「そう! ずばり変身能力!!! へへーん、すごいでしょ」
「そ、それが本当なら、もし鳥にでも変身されたら簡単に逃げられてしまいますよっ」
「その通り! 森の中で小鳥に化けたワタシたちを見つけられるかな? いっくよー 変、身ッ!」
マキナがそう言うと、途端にスモークの勢いが益々強くなる。
スモークには逃走の補助だけでなく、彼女たちの変身シーンを隠す役割もあったのだ。
──そして約10分後。スモークが晴れ、ようやく二人が姿を現した。
だが、マキナは翼と体毛の一部のみが変化しただけの中途半端な変身であった。
フーパに関しては、全く姿を変えることが出来ずに地面の上で鳥のように羽ばたくマネをするのみであった。
「あぁぁ。また失敗しちゃったぁー…」
「お姉ちゃん、アタシ飛べてるかな? ほらっ」
ディップ達はそんなマキナとフーパを呆れた様子でみていた。
「うーん、アホすぎる。いやまさか!油断を誘う作戦なのかもしれません」
「いやぁ……流石に、それはないんじゃないかなぁ」
「とにかく、今がチャンスだ。デルン、ロンド、アイツらをつかまえろーー!」
「「はい!」」
それを聞いて、身の危険を悟った姉妹は慌てだした。
すると、ぶ格好だがかろうじて空を飛べるように変身したマキナは、その場でどうにかして空宙に飛び立つと、地面でバタ足する妹の近くにやってきた。
「掴まって! ここからにげるよ」
「ありがとう!お姉ちゃん」
フーパはマキナの足に掴まった。
そしてマキナはゆっくりと上昇を始めた。
「マズイ。このままじゃ逃げられちまう」
だがその時、突然ディップ達の背後から植物の蔓が放出されたのだ。
そして次の瞬間、蔓は姉妹に巻き付き、あっという間に捕縛をした。
つかまえられた弾みで、彼女たちの変身も解除される。
「今のは……」
それはディップ達の見慣れた魔法、ブラックバインであった。
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