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第44話 犬人族の薬師

 ディップ達の目の前には狼男……ではなく犬女がいた。

 彼らが犬人族(ウェアドッグ)を見るのは初めての事だった。


「兄さん こいつ、ミュートリアンだっ」


「オ、オイこらお前ッ もし弟に手を出してみろ。ぶっ殺してやるぞ」


 ついさっきまで寝ぼけ眼だったロンドも、薬師の小屋に戻って来た犬女に気が付くと慌ててディップの背後に逃げ隠れた。


「なんなんだよぉ。こいつ、いつのまに居たんだ」


「お前ら気をつけろ。こういう人みたいなミュートリアンは、毒を持ってるらしいからな。迂闊に近寄るんじゃないぜ」


「(ごくり)……毒だって?」


 デルンとロンドの二人は身の危険を感じ、部屋の隅までそそくさと後退した。

 そして、恐ろしげに犬女の方を振り向く。


 だがそんな彼らの様子を見た薬師の犬女はクスリと笑った。


「何がおかしいんだ!」


「ふふ、私たちの体にそんな毒なんてありませんよ。もちろん私は薬師なので毒物を精製することはできますが、あなた達に危害を加えるつもりはありませんから」


 犬女は、人間であるディップ達の事などみじんも気にかけていないようだった。

 実にリラックスした所作で、いつもそうしているように森から持ち帰った薬草などを家のあちこちに収納していた。


 一方ディップ達はなお警戒を続け、彼女が薬草をしまうため家中を動き回る度に、四方八方へ逃げ回る。


「ハッ 危害を加えるつもりがないだとぉ?攫っておいて何言ってやがる。 ミュートリアンは、みんな敵だ!」


 ティクヴァに銃を置いてきたため、目の前のミュートリアンと戦えるようなまともな武器は何一つ持っていなかった。

 だがせめてもの敵意の表明として、ディップは小さなナイフを取りだし、それを犬女に突きつけた。


 だがしかし、犬人族(ウェアドッグ)の女はこう言った。


「……あなた達が危険な猫人族(ケットシー)の部族に連れ去られそうになっていたから連れてきたんですよ。 おどろかせて申し訳ありませんでした。他にも仲間がいたようですが、私の力ではあなた達三人しか連れ出せなかったのです」


「うん? そ、そうだったのか」


 事情を知って、一瞬ディップは突き付けたナイフを下ろそうとしたが、デルンがそれを止めた。


「騙されないでください! そんなの嘘に決まってます」


「…ハッ、危なかったぜ。 デルン助かった。くそー、よくも騙そうとしたな」


 さらに、ロンドもこう付け加える。


「それにさー。もし本当に、人型ミュートリアンの身体に毒がないとしてもだよ? あんたが薬師なら身体のどこかに毒を隠し持ってるかもしれないじゃないか。そんな危ない奴、信用できるわけないじゃん」


「そ…そうかッ いや、よく気づいたぞロンド。 コイツはミュートリアンだ。俺たち人間を殺せるような危険な毒薬の一つや二つを、隠し持っていてもおかしくないぜ!」


「その通りです。このミュートリアンに敵意がある事は明らかなのですから!」


 三人は犬女をギロリと睨みつけた。

 武器は無い。腕力も劣っている。だが三人で協力し死に物狂いでかかれば、人型ミュートリアンならばきっと倒せるだろう。


 それを察した犬女は、「はぁー」と深いため息をついた。


「……しかたありませんね」


「ッやる気か?」



 だが次の瞬間、彼女はいきなり着ていた服を次々に脱ぎ始めたのだ。

 そしてついには、何も衣服を纏っていない状態にまでなった。


 多少毛深くはあったが、犬人族(ウェアドッグ)の女の裸体は人間の物とほとんど変わらない。

 それに、よく鍛えられた腹筋とぷくりと膨れた乳房が美しかった。


「オイこら。な、なんのつもりだ」


「ん~ ほら見て」


「はぁーい!!!」


「……私は毒も何も持っていないでしょう。これで敵意が無い事が分かってもらえたかしら」


「う、うーん。まあな。デルン、どう思う」


 ディップは意見を求めようとして後ろ振り返った。だがその時、女の裸に免疫の無いデルンとロンドは興奮して頭に血が昇り倒れてしまっていた。


「あわわわ。これは、目に毒です」


「うううぅ」


 ディップは大きくため息をついた。

 すると彼女はディップに握手を求めて来た。


「……私はミカエラ。よろしくね」


「お前、けっこう大胆なやつなんだな」


「そうかしら」


「…………はあ。ミュートリアンといえど、女にここまでさせて信じないわけにはいかないか」


 ディップはそう言うと、差し出された手を握り返した。


「あんたみたいなタイプ、けっこう嫌いじゃないぜ」

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