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第42話 空の旅のおしまい

 ―ビービー~~


 船体に異常を知らせる警報が響き渡る。

 この時、ティクヴァは時速10万キロに加速しており、やがて船の強度限界に達しようとしていた。


 コックピット全体がガタガタと揺れ出し、船内のあちこちから毒性のあるガスが漏れ出し始めた。

 それまで四人がかりで操作盤を調べていたネベル達も、半分の人員をガス漏れの始末に割かなければならなくなったほどだ。


 舟が出発してからずっと気持ちよく眠っていたピクシーも、ようやく外の騒ぎに気づいて革袋から這い出て来た。


「ん~? ねむねむ…ふわぁー。みんなぁどしたの~、少しうるさいよ? あー、ねえねえ!もしかしてもう着いたんだね!だからお祭りしてるのか! ネベル~私も混ぜてよ~」


「うるせぇ!お前も手伝え!」


「…ほへェ?」



 機関部まで緊急停止装置を探しに行っていたディップ達が戻って来た。

 残念ながらそれらしい物は見つからなかったのだ。


 そして、バーンズ兄弟も船の修復作業に加わる。


「キャンディちゃん! まだか、まだ見つからないのか!」


「もう少し、もう少しですっ」


「チッ もっと急いでくれ!!!」


 ついには、ディスプレイの中心部に、見た事のない文字による点滅警告が表示されだした。

 その言語は不明だが、そのカウントダウンが何を意味するかはもはや明白である。


「ああっ もう終わりだ!」


 それは死の宣告。

 次々と文字の形が切り替わっていく!



 だがその時、ついにキャンディはティクヴァの暴走を止める方法を見つけた。


「……あった! 高速ドライブモード!」


「それだ! 時間がない早くッ」


「はい! 高速ドライブ、OFF」


 キャンディはパネルを操作し、急いで暗号コードを打ち込んだ。

 すると操作盤に格納されていたドライブレバーが現れたので、すぐさまそれを引き戻す。


 ──バンッ


 次の瞬間、船の照明が一斉に落ちた。


「きゃっ なに、どうなったの?」


「……分からない」



 ダイバー達がそのまま静観していると、やがて船の中心部からゴンゴンという低い駆動音が聞こえ出した。

 その特徴的な駆動音を聞いて船が直ったのだと思い喜んだのもつかの間、瞬間ネベルを含め全員が、立っていられないほどの強い重力が彼らを襲ったのだ。


「ううッ、うあ゛あ゛!!!!」


 その時ティクヴァの外では、高速ドライブ時に両翼として展開していた尾翼の格納が行われていた。

 コックピット内に発生した微弱な人工重力は、この尾翼の可動で発生する巨大な重力から乗組員を守る為のものだった。



 やがて尾翼の格納が終わると、船の照明が自動的に復活した。


「…………みんな、無事か……?」


 ディップは、まだガンガンと頭痛のする頭を抑えながら、よろよろとその場で立ち上がった。


「ノー。ダメだ、二人とも気絶してしまってるよ」


 普段から鍛えていない望とキャンディは、一時的とはいえ船内に発生した重力加速度に耐えられなかった。

 見習いダイバーのロンドも、未熟な為まだ少し意識が朦朧としていいた。

 またピクシーは姿を消せるので何も問題なかった。


 デルンは、倒れた二人の様子を確認した。


「でもきっと大丈夫です。どこも怪我してませんし、少しすれば気が付きますよ」


「そうか。それはよかったな」


 ディップは二人を安静にして、船の床に寝かした。



 何はともあれ、ティクヴァは順調に減速を始めているようだ。

 ディスプレイから見える外の景色も、速さのせいで輪郭のぼやけたものではなく、だんたんとはっきりしたものに変化していく。


「オイ、ロンド。俺たちは今どのあたりを飛んでいるんだ?」


「えっとねぇ……ありゃぁ。ぼく達、うーんと北にいるみたいだ」


 それを聞いて、彼は地図を取りだす。


「はぁ?まさか、北大陸ってことか? 俺たち西に向かってたはずだろ? どうすれば真上に進む事になるんだ」



 旧文明の区分けで言えば、〈ダイバーシティ〉があるのは南アメリカ大陸と北アメリカ大陸の中間地点である。

 ほんとうなら、そこからずっと西(左)に進めば、望の故郷ジャパンに到達するはずだった。


「この船はさっきまでマッハ50以上で飛行していたんだ。きっと知らないうちに、地球を何周かしてしまったんだ」


 ネベルは冷静に現状を分析した。


「なんだと? 飛んでるうちに緯度がずれてしまうくらい地球を周回したとでもいうのか」


「ム、今の状況ならそれしか考えられないだろ」


 スケールが大きすぎるため信じがたい事ではあったが、ついさっきこの目でみたティクヴァの速さならあり得るかもしれないとディップは思った。


 その話を聞くとマックは、先ほどまでキャンディが座っていたティクヴァの操縦席に腰かけた。


「マック、何してるんだ」


「飛行船の軌道修正をするのさ。このまま飛んでも西大陸には着くけど、目的地よりはだいぶ離れてしまうだろう。だから元のルートに戻すんだ」


「おお、たしかにそうだな! そこに気づくとは流石俺に続いてナンバーツーなだけあるぜ」


「マックさん、僕も手伝いますよ」


「ワオ! 助かるよデルン!」


 高速ドライブ時に、文字通り死に物狂いで操作盤をいじりまくっていたおかげで、マックやキャンディ達はかなり船の操作を理解する事が出来ていた。

 なので今回は、簡単に船の進路を変更する事ができた。


 マックが操作盤をしかるべき手順で触れると、ディスプレイに進路が変更された事を示すマップが表示された。


「やった! マックさんナイスゥ!」


「まぁね、このぐらい熟練のレリック愛好家としては大したことないけどっ★」


 マックは胸を張りながら謙遜の言葉を口にした。



 だが次の瞬間、再び船内に警報が響き渡った。


「今度は一体なんだ!?」


「ノンノン!あり得ないっ 軌道修正は絶対に成功させたよ」


 マックは再び、操縦席のタッチパネルを操作する。

 そして警報の原因が分かると、彼はさっと青ざめた。


「た…大変だ。この船に何らかの熱源反応が向かってくる」


「熱源反応?」


「つまり、ミサイルだよ! …ダメだ避けられない。みんな、衝撃に備えるんだ!」


 最後のあがきでマックは舵を切り回避行動をとったが、そのミサイルには追尾機能が備わっていた。


 騒ぎを感じてキャンディ達が目を覚ますもギリギリ間に合わず、ミサイルはティクヴァの尾翼付近に着弾。

 ちなみにティクヴァは減速したといっても、まだ音速を余裕で越えていた。


 そして、彼らを乗せた飛行船は、北大陸のどこかの土地へ落っこちていった。

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