第41話 優雅な空の旅
「それは大変です。すぐに進路を変更しますです」
するとキャンディは、船の進路を変えようとコックピットにある操縦桿を握った。
「……オイ、どうしたんだ?」
「ダメですっ びくともしませんです!」
「何っ!?」
操縦桿には謎の抵抗力が働いており、とても人の力では動かせそうになかった。
「どうするんだよキャンディさん。このままじゃヤバいんじゃないのぉー?」
「いいえ大丈夫です。こういうときのために、大抵の舟には予備の制御装置が取り付けてあるものなのです」
そう言うとキャンディは、操縦桿の真下にあったボタン型の補助装置を展開させる。
そして、強制操作で無理やりに進路変更をしようとした。
だがキャンディがボタンを押そうとした時、ネベルが横から現れいきなり彼女の腕を掴んだのだ。
「ネベル君どうしたの? キャンディちゃんを放してよ!早くボタンを押さないといけないんだよ」
「いやダメだ。逆に、みんな死ぬかもしれないぜ」
「ええっ?? それってどういうこと」
すると、それを見たディップは、ネベルを睨みつけながら近づいて来た。
「おうおうッオイこらネベル! てっめえ、邪魔してんじゃねーよ。今いそがしいのが分からないのか」
そう言ってディップはネベルの胸倉を掴んで引き寄せる。
しかしネベルは、器用にディップの足を引っかけると、まるでジュードウのよう彼を転ばせた。
「いてぇーー!」
「……フン、それは奇遇だな。俺も忙しいんだっ。 おっさんは大人しくしといてくれるか?」
「な、なんだと……! いたた」
激しい戦闘が連日のように続いたせいで腰にダメージが蓄積していたディップ。
彼はすぐに立ち上がる事が出来なかった。
その隙にネベルは、再び操縦席のとなりに立つ。
「キャンディ。今すぐ外の景色が見たい」
「外部モニターの表示なら可能ですよ。でもそんな事より、ディップさんの言う通り、早く進路を変更した方がいいんじゃないですか」
「本当に、船が磁場地域に迷いこんだのならな」
「えっと、それはつまり……?」
「ああ。別の可能性がある。もし俺の推測通りだったらもっとマズイんだ。とにかく早く、外の景色を見せてくれ」
「は…はい。分かりましたです」
キャンディは、操作盤にあるモニターのスイッチを入れた。
すると、それまで謎の文字列で埋め尽くされていた正面の大型ディスプレイ映像がパッと切り替わり、外の景色が映し出された。
やはり、既にティクヴァは空高い場所を飛行中であった。
真っ青な空がディスプレイ一面に映し出されていた。
「こんな大きな船がホントに空を飛んでる」
「ハハ! 飛行船なんだから、空を飛ぶのは当たり前じゃないかガール」
ティクヴァはかなりの速さで飛行しているようだった。
ディスプレイに映る景色は、一瞬で船の後方に吹っ飛んで行く。
それを見たロンドは、自分の能力がエラーした原因について理解した。
「あっそうか。この飛行船があまりにも凄いスピードで移動しているから、ぼく達がどこに向かってるのか分からなかったんだね」
それを聞くと、ネベルは頷いた。
「ああ、俺の推測では現在この船はマッハ50以上で飛行している」
「え、それって大丈夫なんですか」
予想外のあまりの速さに、デルンは不安を感じてそう尋ねた。
「大丈夫なもんか。いくら旧文明のレリックでも、このままだと船体が耐えられずに空中分解してしまう。早く、船のスピードを落とすんだ」
「く、空中分解?? 大変じゃないですか! あわわ……」
デルンは危うく気絶しそうになったが、なんとかその場で腰が抜ける程度で済んだ。
「分かりました! でも…アタシだけじゃ止められないかもです。みんな、手伝ってくださいです!」
ダイバー達は頷いた。
そして、暴走した船を停止させる方法を、みんなで探し始めたのだ。
「……どこかにブレーキか何かあるはず。だって、これは乗り物なんだもん」
「ああんっ これじゃないっ!…これでもない。ハァ…こんな時じゃなければ、ゆっくり見てあげられるのにぃ~」
「ヘイ、ネベル! このボタンが怪しいんじゃないか?」
「あ? ……いや、これはダストシュートだ。今は関係ない」
知識のある望、キャンディ、マック、ネベルの四人が主に操作盤を調べていた。
だが四人とも停止の手がかりを中々見つけられずにいた。
そして、しばらく機械をいじっていると、船内から再び騒音が鳴り始めた。
「なんだ?治ったのか?」
「いや、逆だッ」
だが今度の音は規則正しい駆動音ではなく、何かがこすれるような嫌な感じのものだった。
──ビービ─~~
くわえて警報まで聞こえてきた。
コックピット内は、緊急時を知らせる赤色灯で照らされ、彼らの焦りと緊張は極限状態にあった。
ディップも、キャンディ達に加勢したかったが、残念ながら彼は機械の知識に乏しかった。
だが、少し休んで落ち着きを取り戻したデルンは、ふと妙案を思いつく。
「そうだ!もしかしたら船のどこかにこういう時の為の緊急停止装置があるかもしれません」
「さすがだデルン! よし、そいつを探しに行くぞ弟よ」
「はい、兄さん」
その時、ロンドもバーンズ兄弟について行こうとしたが、ディップは彼にこう言った。
「お前はここにいろ」
「どうしてだよ。ぼくも探しにいくよ! ここにいたって、ネベルさん達を手伝えないしさ」
「いや、お前は方角を感知する力で、常に船の状態をしっかり把握しているんだ。 非常に癪だが、ネベルの野郎の指示をここでまっとけ。奴はこの分野に詳しいようだからな」
「うん。わかったよディップさん」
「よし、まかせた。 俺たちは走るぞ」
残された時間は少ない。
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