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DareDevil Diver 世界は再起動する  作者: カガリ〇
幕間 黒の怨念と死の呪い
35/120

第35話 カースフィーラー

 かつてリサイクル工場では、集めた廃棄物を元に、建設資材から人間の活動に不可欠な栄養剤まで様々なアイテムを生み出す事が可能だった。

 担当区域の墓の塔(セメタリ―タワー)からは廃棄物が電磁輸送されてくる。

 それらをまとめてドロドロに溶かし、完成した溶解物をさらに分解したあとに元素単位で再利用するのだ。


 だがそんな夢のリサイクル施設も、今では魔合により破壊されていて跡形もない。

 稼働している工場は一つも残っておらず、もはや処理されずに残った廃棄物が溜まっているだけのゴミだめに過ぎなかった。



 ─もし工場の中に大型モンスターが生息しているとしたら、一番大きな第一廃棄物保管庫が怪しいかもしれない─


 そう思ったネベルは、施設内を繋ぐ原子移動装置テレポーターを使って、リサイクル工場の奥へと向かった。


 いくつかの原子移動装置テレポーターを乗り継いで広い工場の中を移動し終えると、すでに目的地には先着が待っていた。


「……こんなところで何してるんだ。余計な事はするなと言ったよな」


「てめえは、不可視の獣! なぁんだ、てめえも来たんか」


「フッ、お前みたいなトーシロにまかせておけるかよ」


 このリサイクル工場の中は、腐った廃棄物から湧き出る汚染ガスで満たされている。

 ネベルはそれを知っていた為、防護ゴムスーツを着用し備えは万全だった。


 それに対してロイは、ビーチでいた時と同じキモノ姿のままだ。

 逆にどうしてあれで活動できるのか甚だ疑問だ。


「お前、そんな恰好で苦しくないのか」


「なあに言ってんだ? ああ、ここの腐った空気の事か。オラは強いからな。このくらいは平気だ」


 ロイの身体はとても丈夫で、たとえ思いっきり呼吸しても少しせき込む程度らしい。


「ミュートリアンを倒したら次はてめえだ。今度こそ覚悟しとけ」


「……お前じゃ、何度やったって無理だよ」


「てめえの相手はまたあとでだ。まずはあのコロニーの女の子を助けてあげなくちゃいけんからな!」


「いや、話聞けよ」


 あいかわらずムカつく奴だ。

 そう思うとネベルはロイに背を向け、戦闘の準備にとりかかる。


「俺の邪魔はするなよ……」


 ネベルとロイは一定の距離を保ち、周囲を警戒しながら大型モンスターが自分たちに気が付くのを待った。



 しばらく経ち、突如足もとがモゴモゴと揺らぎだした。

 次の瞬間、ネベルたちの目の前に巨大なムカデの化け物が姿を現す。


「なんつーデカい虫だ」


「あれはカースフィーラーだ。やはり呪印の原因は大型モンスターで合ってたようだな」


 ──シャキ─


 ネベルはエクリプスを構え、戦闘態勢に入った。


 ゴミ山の中から現れた大ムカデは、ネベル達を見降ろしながら得物を物色するように真っ赤な大あごをカチカチと鳴らした。


 全長は10メートル以上で、胴の太さだけでも人間の倍はある。

 胴は黒。足は血のように赤く、それぞれが機械のように連携した動作をするのだ。


 ─図体の割にはかなりの素早さがありそうだ─


 しかも、こんな廃棄物だらけの足場の悪い場所では、いつもより機動力が制限されてしまう。

 咄嗟の回避力に期待ができない分、奴の動きにはより気をつける必要があるだろう。



 するとカースフィーラーは、カチカチと顎を二回鳴らした後、ネベルに向かって紫色の体液を飛ばしてきた。


 足元が平らならば、走って攻撃をくぐり抜ける事も容易にできただろう。

 廃棄物に足を取られるこの状況では、疾走による回避は愚策だ。


 しかしネベルには、まだ防御の手段が残されていた。


 懐から金属製のケースを取りだすと、前方の地面に向かってケースを放り投げる。

 それは手榴弾のような戦闘を補助するガジェットの一つだった。

 金属ケースは地面にぶつかると素早く展開し、盾のような形へと変形した。


(ジュジュッ)


 カースフィーラーの口から放出された体液は、展開シールドに付着すると、煙を出しながら金属製の盾を溶かし始めた。


「やっぱり毒液か」


 大ムカデは、呪印と毒の二つの武器を使って狩りをするのだ。


 そして高い溶解性の持つ呪毒に触れた展開シールドは、あっという間に使い物にならなくなってしまった。


 ─接近戦は危険だな─


 そう判断したネベルは、エクリプスを銃撃形態へと変化させた。

 剣撃形態より速度や威力に劣るが、狭いリサイクル工場の中ではこっちの方がむしろ確実に倒せる。


「くらえ!」


 ネベルは銃弾を二発放った。

 しかしカースフィーラーの胴が真っ黒なせいで、この闇の中では視認しづらく、わずかに狙いが逸れたようだ。


「……チッ」


 カースフィーラーは素早くかき乱すように、ゴミ溜めの上を動き回る。



 するとカースフィーラーは、今度は盾を持っていないロイへと標的を変更したようだ。


 大顎がカチカチと鳴り、口から毒液が放出される。

 だがロイは、さっき盾が毒液で溶かされるのを直接見たにも拘わらず、あいかわらずの無防備だった。


「忠告してやる。お前は全力で避けたほうがいいぜ」


「いらない心配だ。オラの大鎖鎌はあんな程度の毒じゃあ溶けたりしない」


「……馬鹿が、そうじゃない!」


 毒液はロイに向かって真っすぐ飛んで行った。

 ロイは大鎖鎌で毒液を受け止め、毒攻撃を防御した。


「フン、オラの鎌は特別なんだ。今度はこっちの番だ! ……グッ あ、あれ?」


 そしてロイはその場で地面に倒れふした。

 武器についた毒液から出るガスを吸い込み、一時的に身体が極度に衰弱したのだ。


 カースフィーラーはその様子を見ると、再びロイに向かって毒液を放とうと顎をカチカチと鳴らしだした。


「しまった……身体が動かない……。こりゃあ、やっちまったか」


 もう毒液を躱すこともできない。

 ロイの頭の中では、自分が毒液でドロドロに溶かされる最後のイメージが浮かんでいた。



 彼は死を覚悟していた。

 しかし、次にカースフィーラーから放出された毒液は、ネベルがロイの前に投げた展開シールドによって防がれたのだ。


 ロイは驚いて、ネベルの方をふり向いた。


「迂闊だな。そんな事だから俺にもあんな無様に負けるんだよ」


「な、なんだと!くっ……オラは」


 するとネベルは、銃撃形態のまま再度攻撃を開始した。


 だが相変わらずカースフィーラーは地面の上をヌルヌルと動き回り、エクリプスの弾丸もすべて避けている。


 しかも少しずつだが、銃を持つネベルとの距離を縮められているようだ。

 このままでは戦況は一向に不利になるばかりだ。


「クソ…… 当たりさえすれば倒せるんだ。けどあの厄介な動きのせいで狙いが定まらないっ」


 するとその時、カースフィーラーの死角から大鎖鎌が投げ込まれた。

 鎖は太い胴体にがっちりと絡みつき、カースフィーラーの動きを確実に止めた。


「い゛、今だ! オラが抑えてる内に、やれ!」


 ロイがカースフィーラーを拘束している今なら、確実に脳天を狙える。

 好機とみたネベルは、銃撃形態のままカートリッジを装填した。

 カートリッジ内のエナジー混合爆薬が、射撃の威力を増幅させるのだ。


 ──ドビュシッ!


 エナジー特有の淡い緑色の光を纏った弾丸がエクリプスの剣先から射出されると、真っすぐ飛んでカースフィーラーの脳天を貫いた。


 そしてロイが大鎖鎌の拘束を解くと、カースフィーラーは力なく倒れたのだった。


「ふぅ、これであのコロニーはもう無事か?」


「だろうな。じゃあ、俺たちもやろうか」


「は? なんだって」



 ネベルはエクリプスを剣撃形態に戻した。

 そして剣先をロイに向けると、彼は再び戦闘態勢を取っていた。


「お前、俺と殺りたいんだろ。ならさっさと決着をつけてしまおうぜ。ここなら戦いを邪魔される事もない」


「…………てめえ、さっきはなんでオラを……」


「あ? なんか言ったか。よく聞こえないんだ。それより、さっさとかかって来い」


「…………」


 ロイはカースフィーラーに巻き付けていた大鎖鎌を手元に戻す。

 そしていつもの投擲の構えをとった。


 だがすぐに武器を降ろしてしまう。


「…………やめた!」


「…………は? なんで」


 そしてロイは、ネベルに背を向けるとリサイクル工場から出ていこうとした。


「どこに行くつもりだ」


「悪りぃが、戦いの気分じゃなくなったんだ。また今度やろう」


「今度だって?」


 そういうとロイは、拳を頭上に突き上げネベルに宣戦布告をした。


「もっと強くなってから、また挑みに来るぜ。じゃあな不可視の獣」


 そうして暗殺者ロイは、ネベルの元を去っていった。

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