第28話 デルンの勇気
マックは戦闘において二つの銃を使い分ける。
一つは、エナジーライフル(γタイプ)
ディップ達の持つ(βタイプ)よりも命中精度や射程距離に性能を寄せたカスタムモデルだ。
ちなみに、このエナジーライフルの組み分けには明確な区分けは無いという事を記しておく。
そしてもうひとつは旧文明の遺跡で見つけたボルトアクション式のスナイパーライフルだ。
重量のある合金製でかなりの耐久性を兼ね備えており、バレルにある熱をすばやく放出するための溝のおかげで命中精度も高い。銃身にはTC-30と文字が掘られている。
ただし光学スコープなどは手に入れる事ができておらず、マックは後から見つけた低倍率のスコープを無理やり取り付け代用していた。
「エナジーライフルのような熱エネルギー攻撃ではドラゴンに効果はなかったけど、直接体内に鉛玉をぶち込む旧文明の武器ならバルガゼウスにとってもデンジャーだと思うんだよね」
「なるほどな、流石だぜ! でも一つ聞いていいか? お前は今、そのレリックを持ってないように見えるんだが……」
「オオ、ザッツライツ 実はさっきの戦闘で、持っていた物をすべて無くしてしまったんだよ」
するとマックは羽織っていた毛皮のコートの留め具を外すと、バサッと両手で裾を持ち上げて隠されていた真っ白な素肌をさらけ出した。御開帳。
「うわ、やめろ変態」
「「きゃぁっ」」
女性陣の叫び声といつもと違うシチュエーションのせいで、マックは一瞬頬を赤らめた。
それはそうと、コートの下には彼の言う通り海水パンツの他には何の装備も残っていなかった。
「ヘイ、つまりさ。オレのTC-30さえあればバルガゼウスの隙を作れると思うんだよ。うーん、この近くに落ちてたらいいんだけど」
「もしかして……アレですか?」
キャンディは自分で作った双眼鏡を手に斜め上方を指さした。その先には高い岩山の切り立った崖の中腹で、枯れ枝に引っかかっている狙撃銃らしき物の姿が見えた。
マックはキャンディから双眼鏡を受け取りそこにあるのが自分の銃だと確認した。
「オウ、なんてこった。あれはまさしくオレの銃!」
「なんであんな所にあるんですか。持ち主が変態だと、銃も勝手にどっか行っちゃうんですか?!」
それほど遠くではなかったが如何せん場所が悪すぎた。戦闘の最中にバルガゼウスの攻撃により吹き飛ばされ、崖の上の手の届かない所まで移動していたのだ。
「ねえ、ちょっとあそこまで行って、マックさんの銃取って来てよ」
「え~、やだよ~。私、あんな大きな物持てない。お箸より重い物持てないの」
望におつかいを頼まれると、ピクシーは一瞬で姿をくらました。
ロンドは絶望してその場でしゃがみ込んだ。
「ああ、もうダメだよぉ。終わりだよぉ」
「いや、まだだ!」
「え?」
それを聞いてロンドは顔を上げた。
ディップはまだ諦めていなかった。
そのとき彼はエナジーライフルや探査機などの機械の入ったカバンなどの装備を着脱し、自分の身体を少しでも身軽にしている所だった。
「まさか……あそこまで登るつもりかい?」
「まあな。お前の銃が手に入ったら、この状況もなんとかなるんだろ?」
「それはそうだけど…危険すぎる! あの高さだ。落ちたら絶対死ぬよ!」
「オイこら、俺はダイバーだぜ? 死ぬなんてリスクはいつものことじゃないか。それに俺は優秀だ。なんとかなる」
―俺はダイバーシティで最高のダイバーだ。不可視の奴ばかりにいい恰好させてたまるか―
そうしてマック程とはいかないまでも身軽な姿になると、ディップは一人でマックの狙撃銃を取りに行こうとした。
「ぼ、僕も行きます」
ディップの去り際、デルンはそう言った。だが兄と違ってどこか自信なさげだ。
「みんなが一度やられたのは、僕が不用意にエナジー弾を撃ってしまったせいです。どうか僕に償いの機会をください」
「……お前じゃあの崖は登れん。そんな事はいいから、ここで大人しく待ってろ」
「の、登れますよっ! あんな崖くらい…。兄さん、お願いします!」
デルンは頭を下げて兄に頼んだ。彼は仲間を危険に晒した事への強い罪悪感を抱いていた。
だが同時に、デルンの身体は酷くこわばっており、恐怖も感じているようだった。
ディップはデルンに歩み寄ると、彼の肩に手を置きこう語り掛けた。
「いいか、デルン。誰もお前のせいだなんて思っていない。責めやしないさ」
「でも…っ」
「それでも納得が出来ないのなら、こんな無茶じゃなくて自分に出来る事でミスを挽回するんだ。マックのライフルは俺に任せろ。お前はここで、みんなの事を守っていてくれ」
「兄さん……。はいっ、分かりました。兄さんもお気を付けて!」
ディップは親指を立てて弟の声援に応えた。
そして彼は駆けだしたのだった。
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