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DareDevil Diver 世界は再起動する  作者: カガリ〇
生き狂いのバルガゼウス
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第20話 馬鹿の集まり

「この映像を望が見ているという事は、私はもう、この世にはいないのだろう。


 私も共に探索者たちの街にたどり着いたなら、自分の手で、この映像は消去される予定なのだからね。


 原子移動装置(テレポーター)飛行車両(エアロバイク)もない。


 それどころか、ただ海を渡るだけの帆船すらまともに無いこの時代では、旅の間に多くの仲間が命を落としたことだろう。


 もしかしたら、望は一人ぼっちになってしまったかもしれない。


 けれど……、それでも、望にはやってもらわなくてはならない事があるんだ。


 この箱の中には、あの超災害で滅びる前の人類が生み出した最大の発明がある。


 その名も、()()()


 まさに神の奇跡といっても過言ではない代物だ。


 これさえあれば、人類は魔合災害で失った全てのものを取り戻す事ができる!


 傷ついた都市、失った科学の歴史、そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ……昔、お母さんたちのお墓詣りにいったのを覚えてるかい?


 あの場所の地下に、秘密の部屋がある。そこに神の雫をもっていってくれ。


 そうすればすべて叶う。  何もかも…… 元通りになるんだ。



 望…。どうか、頼んだよ……?  ~ブツ」



 そこでメッセージは途切れた。

 キューブから出ていた緑色の光もしぼんでいき、老人のホログラム映像もやがて消えて無くなった。




 ──長い沈黙が続いた。

 その場にいた者は皆、老人の語ったメッセージに驚きを隠せなかった。



 だがしばらくして、ディップはようやく言葉を絞り出した。


「えっと……。俺もまだよく理解できてねーんだが……、あのジーサンが言っていた事は本当なのか?! 人類が生み出した最大の発明?死んだ人間も蘇らせるって? もしかして俺達は、とんでもないものを見つけてしまったんじゃないか!??」


 「…………ッ」



 ディップのその疑問に答えられる者など誰もいなかった。


 繰り返すが、誰もたった今起こった出来事を、正確に把握できていなかったのだ。



 するとマックが、望にこう尋ねた。


「君のおじいさんは一体何者なんだい? レリックにホログラム映像を遺しているなんて、ただモノじゃあない。望、もし何か知っている事があるならオレたちに教えてくれないかい」


 だがそのとき望は、久しぶりに亡き祖父と再会できたことで胸が一杯になっていた。

 瞳からは涙から溢れている。

 しかし前へ進むためにソレを手で拭いとると、彼女はマックの質問に答えはじめた。

 記憶の中の祖父を、少しずつ思い出しながら……。


「おじいちゃん……。そういえば、昔に聞いた事があります。たしか、どこかの会社の研究責任者だったとか。いろいろな物を発明したって話を聞きました」


「リアリィ? そいつはスゴイな。 なるほど、それならあのホログラム映像の技術力にも頷けるよ」


「えっと、それでたしか会社の名前は…… なんとかレイン、だったかな?」



「コ、コードブレイン社だ!」


 すると突然、望の話を聞いたデルンが大きな声でそう叫んだ。


「いきなりどうしたんだ、デルン。コード…なんだって?? 一体それはなんだ」


「兄さん知らないんですか? 数十年前まで世界を支配していたスーパーマンモス企業ですよ。財力も科学力もあるから国とかよりもずっと権力があってですね。現在、遺跡から見つかるレリックも、大多数はコードブレイン社が関わっているんですよ」


「そ、そうなのかぁ? でも、俺は知らなかったぞ」


「それは……。きっと兄さんが馬鹿なだけです」


「オイこら」


 ディップはデルンの事を睨みつけながらそう言った。


「まあ文明が滅んだっていっても、まだ数十年前ですからね。コードブレイン社のような大きい名前は現在でもなんとなく伝わっている物なんですよ」


「ふうん。そんなこと知ってるのはお前だけじゃないのか? 物知りデルンさんよ」


 しかし、その話を聞いていたネベルは、ふとどこからか電子端末を取りだした。


「…………ちょっと待て」


 彼が電子端末に電源を入れると、液晶画面にはまるで惑星の周回軌道のような楕円がいくつか重なったようなロゴデザインが表示された。


「俺が小さい頃に死んでしまった父さんは、昔はロボットの整備をしていたそうなんだ。それに、コードブレイン社という名前も、まったく聞き覚えが無いわけじゃない」


 ネベルはその場にいた全員に液晶の画面を見せた。

 それを見たマックは、何かに気づいてこう言った。


「このマークどこかで見たような…… ワオ!サイバーエイジの遺跡の壁とかに、まれに記されているのを見た事がある! そうか、ああいう遺跡も元はコードブレイン社の物なのかもしれないな」


 ダイバーたちは、望の祖父が、旧文明で絶大な権力を持っていたコードブレイン社の重要人物だったという確信を得た。


「ね、ねえ。だとしたらさぁ……、さっきのお爺さんが言ってた事も全部本当ってことなのかなぁ」


「なに? オイこら、どういう意味だロンド」


「だ、だってさぁ。こんなの絶対やべぇじゃん! こんな小さなレリックが、あの魔合で滅んだ旧文明もぜんぶ復活させて、死んだ人間すらも蘇らせられるっていうんだよ? そんなのおれ、ちょっと怖いよ……」


 あらゆる願いを叶える世紀の発明。神の名を冠した万能機。

 文明や生命を蘇らせる神の恵みをもたらすが、同時に使い方しだいでは人類の明暗を分けるまさにパンドラの箱にもなるだろう。

 気ままなその日暮らしをしてきたダイバーたちにとって、このレリックが意味するものはあまりに重すぎた。そう思えたのだ。


 しかしディップは、地面に転がったままだったキューブレリックに手を伸ばすと、それをおもむろに掴む。


「神の雫か……。死んだ人間も生き返らせるって?」


 そしてディップは誰にも気づかれないよう、そっとデルンへ視線を移した。


 ──魔合で両親が死んだ時、デルンはまだ幼く甘えたい盛りの歳だった。

 なのでデルンには父母と過ごした時間が不足していた。

 成人するまで、夜中に突然泣き出すことは珍しくなかったくらいに。


 ふとディップは、望にこう尋ねた。


「望ちゃんはコイツをどうする気だ? 君のジーサンの言いつけに従って、秘密の部屋とやらに持っていくのか? それとも……誰か生き返らせたい人が居たりするのか?」


「それは……」


 そのとき、望の頭の中には懐かしい祖父の顔が思い浮かんでいた。

 それと正気を失い自分に電撃を流した後、ミュートリアンに殺された両親の事を。

 望はずっとあの時の両親の気持ちを知りたいとも思っていたのだ。


 しかしその本心は語らず、ディップには敢えて次のように答えた。


「…………おじいちゃんが生き返ってくれたら嬉しいけど、それとは別で神の雫はあの場所まで運ぶつもりです。おじいちゃんの最期の頼みなので。最後まで成し遂げたいんです」


「そうか」


「それに、このままでは神の雫の使い方も分からないですし。きっとおじいちゃんの教えてくれた場所まで行けば、何か分かると思うんです」


「まあ、そりゃそうか。フ、でも一体どうする気だ? 秘密の部屋ってのは、望ちゃんの故郷の西大陸にあるんだろう。 ここまで来るのに何年かかったか知らねーけど、また同じ道を同じ年月かけて引き換えすのか?」


「……はい。それしかありませんから」


 ダイバーシティは東大陸にあるため、西大陸は地球の反対側だ。しかもその道程には、恐ろしいモンスターや魔合で変貌した過酷な自然の脅威が待ち受けていた。


「今度は仲間もみんなおっ死んでて居ないんだろう。いくら望ちゃんが頑張ってもさ、今のままじゃ到底無理だと思うぜ」


「そ、それは………… でもっ……!」



「兄さん! そんな意地悪な事いわなくてもいいでしょう!!!」


 望が旅の間で仲間を失いひどく傷ついた事を知っていたデルンは、ディップの心ない発言に怒りを顕わにし、彼の胸倉をつかんだ。

 しかしディップはそんな事を気にする素振りを見せず、弟の腕をさっと払いのける。


 そして、誰も想像していなかった事を言うのだ。


「望ちゃん。俺達を西大陸に連れて行く気はないか? きっと役に立つと思うぜ」


 望はそれを聞いてとても驚いた。それと同時に、あまりに親切すぎる彼を少しだけ怪しんだ。


「い…いや、助けてくれるのは嬉しいですけど、流石にそこまでしていただくわけにはいきませんよ。 ただの善意で命がけの旅についてきてもらうわけには……」


「オイオイ、話がはえーよ。もちろん条件はあるさ」


「条件?」


「ああ、もし秘密の部屋にたどり着いたら、俺達にも神の雫を少し使わせて欲しいんだ」


「えっ?! でも、もし秘密の部屋にたどり着けても、神の雫の使い方が最後まで分からないかもしれないですよ?」


「……ああ。出来たらで構わない」



 ─兄さん……もしかして…………いやまさかね……─


 デルンは一瞬あたまの中におかしな考えがよぎったが、それを振り払った。


「へイ! それならオレも連れて行ってくれないか」


 マックは望にそう言った。


「おっと勘違いしないでくれるかい。オレは死人を生き返らせたいとかいうグルーミーな理由じゃない。その神の雫というレリックがあれば、昔に滅んだ文明のもっと凄いレリックがたくさん見られるようになるんだろう。それは素晴らしいじゃないか!」


「マックさん」


「だからこそだ。オレにもぜひ協力させてくれないかい」


 マックは、先ほどまで頭に着けていた植物の成長を促す紫外線照射装置を指さしながらそう言った。

 彼はダイバー達の間でも、大のレリック好きとして知られていたのだ。


「お、おれも! みんなと行きたい!!!」


 次に志願したのは見習いのロンドだった。


「おれは最初から孤児だったから生き返らせたい人もいないし、マックほどレリックに興味があるわけでもないけど。西大陸まで行くんなら、それはきっと大冒険になるんだろ!だからもし一緒にいけたらダイバーとして成長できると思うんだ!」


 そしてロンドはちらりとネベルの方を見た。

 ロンドはこの間の上等酒がある遺跡探索の時以来、ネベルの強さとダイバーの技量にこっそり惚れ込んでいたのだ。


 そんなロンドの視線の行く先に気づくと、ディップはまたも顔をしかめる。


「ダメだダメだ! お前は、まだ見習いなんだぞ! 危険な旅につれていけるわけがないだろう」


「ええぇえぇ! そんなぁ、お願いだよディップさぁん」


「だぁーっ ダメダメ」


 しかしそれを聞くと、マックはこう言った。


「ディップ。たしかにロンドは見習いだ。しかし、コイツの持つ()()()()()()()()()()()()()()は長旅で役に立つと思うんだが……」


「うーん……。あの能力か。まあ、たしかにそうだな。よし、特別に連れてってやろう」


「わぁああい! 本当!」


「ああ。ただし()のいう事をちゃんと聞くんだぞ!」


「ありがとう! ディップ、マック!」



 ここまでポカーンと話を聞いていた望は、いつの間にか自分の旅について来ることになっているダイバー達に向かってこう尋ねた。


「ほ、本当に来る気なんですか? 西大陸まで数千キロもあるんです。旅の間で死ぬかもしれないんですよ?」


 すると、ディップは鼻でフフンと笑いながらこう答えた。


「望ちゃん。ダイバーってのは、本当に欲しい物のためなら死ぬことなんて恐れないんだ」


 それを聞いてデルンも頷く。


「そうでしたね。兄さんを止めようなんて思っていた僕の方が馬鹿だったみたいです。というわけだから、僕たちはみんな望ちゃんと一緒について行くよ」


 そのとき望はとある勘違いに気が付いた。

 ダイバーたちは自分が思うよりもずっと馬鹿の集まりだった。

 それも、とびきり気持ちの良く最高の馬鹿たちだ!


 望は今までの小さな悩みがバカバカしくなり、くすくすと笑い始めた。


「フフフ、おかしな人たち!」



 こうしてダイバー達は望の神の雫を運ぶ旅に同行することを決めたのだが、この中でまだ一人、例外がいた。


「オイこら、不可視。お前はどうするんだ」


「……あ?」


 ネベルは椅子に座り、寝ている間にイタズラでツインテールにされていた頭の髪の毛を櫛で直していた。

 すぐ側のテーブルには山のように、さっきまで髪の毛に結んであったリボンが積み重なっていた。


「お前は、一緒についてくんのかって聞いてんだよッ」


「……フン。俺には関係ないね わざわざそんな遠くまで行く義理はない」


「はあ、そう言うと思ったぜ……」


 ネベルは父がコードブレイン社の関係者だと分かったし、望の持つレリックや旅に全く興味が無いわけでは無かった。

 しかし彼女の祖父の言っていた文明の再興などに関しては、胡散臭く思えまるで興味が沸かなかったのだ。


 だがその時、それを聞いたとにかく面白いもの大好き妖精ピクシーが、ネベルの周りを飛び回りながらこう言ったのだ。


「ええっ!!! 行こ行こうよ! こんなイベント超面白そうじゃん!!! まるで世界を救いに魔王城に行く勇者みたいじゃない? ねえええ! ネベル行こうよぉ~! 世界救いに行こ? 楽しそうだよぉ! いこいこいこいこいこいこいこいいこいこい…………」


「うるせえなぁ」


「お、行く気になったかね?」


「だーかーらーぁ……行かないって言ってるだろ!」


「あいたー!」


 我慢できずにネベルはピクシーにゲンコツを食らわす。

 透明化をしていなかったため、拳がクリーンヒットしたピクシーの頭上ではしばらく三匹のひよこがワルツを踊っていた。


「はあ、全く……困った奴だ」


「あの」


 望がネベルに近付く。


「あの、私はネベル君も来てくれると嬉しいです。あなたは凄いダイバーだって知ってるから」


「フン……俺は他の奴らとは違うぜ。慈善事業は行わない」


「ほ、報酬はお支払いします! 今はないけど……あなたが望むだけを、いつか必ず」


「ム、そうか。……それなら」


 ネベルは立ち上がると、側の壁に立てかけてあった大型刀剣エクリプスを掴み背中のホルダーに差し込んだ。


「あの……?」


「報酬は……今の内から何をもらうか、考えといていいか」


「あ、うん!」


 その時、目を回していたピクシーが立ちあがったネベルに気が付いた。


「あっ まってよネベル!」


「……いくぞ」


 ネベルとピクシーは酒場を後にした。

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