第15話 エデンの実
遺跡から機械の部品などのレリックを回収したネベルは、そこから一番近くにあるコロニー〈アルマロス〉に立ち寄った。
ネベルは手に入れたレリックを半分は自分用に、もう半分を武器の改造やメンテナンスのために使っう。
そして余った残りを、コロニーでエナジーなどの資金に換えていた。
「ねえねえ、ネベル君。今日の成果はほとんどわたしのおかげだと思うんだっ へへ」
「……、そうだな」
ネベルはボソリと呟く。
その反応が不満だったピクシーは、ネベルの前で何度も飛び上がりながら抗議した。
「ちがーうッ そ こ はー、ありがとうじゃないかね?」
「…………ピクシーサン。アリガトゴザイマス」
実際、今日の探索では、ピクシーのおかげで窮地を乗り越える事ができたと言っても過言でない。正直あんなに役立つとは思っていなかった。
しかしだからこそ、こんなチンチクリンな妖精に自分が助けられたなどとネベルは認めたくなかったのだ。
その上コイツはすっかり調子にのっており、有頂天になっているのが尚更むかつくゥ。
「うんうん。まあいいわ! それでさネベル君。わたしに対して何か特別なお礼があってもいいと思うんだけど?」
「チッ……分かったよ。何がのぞみなんだ」
ネベルは観念すると、ピクシーにそう尋ねた。
「うんとねー。とりあえず美味しいものが食べたいなぁ! この間のエルフのとこで飲んだのもまあまあだったけど、あれより少しマイルドでもっと甘いやつ! ねえねえ、このコロニーになんか名物とかないのぉー?」
それを聞くとネベルはニヤリとした。その時、ピクシーをぎゃふんと言わせる妙案が浮かんだのだ。
「……名物? ああ。だったらとっておきのがあるぜ。……ククッ」
「わーいっ! へへへ、楽しみだな!」
ピクシーは手を叩いて喜んでいた。その時だけは……。
数分後、ピクシーは実際に見たコロニー〈アルマロス〉の名物料理を見てひどく落胆した。
食堂で注文して運ばれてきたのは、料理というには些か難しい何かだった。
つまり金属製のプレートに乗っかったカプセル状の錠剤、それと極彩色のペースト状の謎物体だ。
「…………ねえ、なにこれ」
「あ? 何って……、お前が欲しかった名物料理だろ」
「こんなのじゃないよ! そもそもこれって、本当に食べ物なの?」
「ああ、俺も子供の頃は毎日たべてたぜ」
そう言いながら、ネベルは次々と栄養カプセルを口に放り込んでいた。
「スゴイ勢いで食べるね。もしかして美味しい?」
「いや、美味しくはない」
ネベルはそう言い切った。
「でも、もう皿からじゃん!」
確かに栄養カプセルは美味しく無かった。しかしネベルはスプーンで掻っ込むように次々とカプセルとペーストを食らっていたので、既にプレートの上から名物料理はすべて消えて無くなっていた。
「フン……栄養剤が美味いわけないだろ。これは単純にさっさと食事を済ませる癖がついてるだけさ」
「ふーん、やっぱり変なの!」
「お前も早く食えよ。コツは臭いとか苦いとかを一切考えないようにして一気に頬張る事だぜ」
「ううん。わたし要らなーい」
ピクシーはとても嫌そうに首を横に振った。結局そのあともピクシーは一口も食べることは無かった。
大衆食堂から出たあとも、ピクシーはしばらく食事の文句を言い続けた。
「もうっなんなの!このコロニー最悪よ!あんなの妖精に出す食事じゃないもん……。フッフッフッ、もしわたしが魔王だったら、真っ先にここを滅ぼすかなぁー」
「フン……ガキだな」
「ガキですぅ。まだ一歳だもん!」
コロニー〈アルマロス〉は大きな鍾乳洞の中に作られていた。
そのせいか、コロニーのメインストリートは少し薄暗くぼんやりした雰囲気だ。
ネベルはコロニーと同じ半球の建物が並ぶメインストリートを通り、行商人などが泊まることのある宿に向かっていた。
ちなみにピクシーの声や姿は現在ネベルにしか認識できなかった。なので周りの人間からは、二人の会話はネベルが独り言を話しているようにしか見えていない。
「ところでさー、なんであんなのが名物なわけ? あんなゴミを食べなくちゃいけないくらい、ここの人って食べるものに困ってるの?」
「いや、むしろ逆かな」
「逆~~?」
そしてネベルはコロニー〈アルマロス〉について知っていることをピクシーに話した。
ネベルは以前、他のコロニーにて、〈アルマロス〉で発掘されたあるレリックの噂を耳にしていた。
そのレリックとは、僅かな材料から人間の活動に必要なすべての食事を際限なく生み出す装置だった。
およそ200年前
文明発達の代償により荒廃した世界では、度重なる自然災害や異常気象で、まともな植物が育たなくなってしまった。
そこで旧文明の人類は、活動エネルギーを効率的に得るために、この装置を作り出したのだ。
「もともと魔合のせいで食料難だった〈アルマロス〉の住人にとっても、そのレリックはとても都合がよかったんだ。食料難が解決されたどころか、一生悩むことがなくなったからな」
「へえーよかったじゃん! んん、もしかして……」
「ああ。そのレリックでつくったのが、さっきの栄養剤ってわけさ」
「げえ゛え! で、でもさ。まったく他の食べ物が無いわけじゃないんでしょ。お肉とか、果物とか」
「簡単に食い物が手に入るんだぜ。わざわざ危険なコロニーの外に出てまで採りに行かないだろうな」
「そぉーかー……でも少し歩けば川も森もあるのに」
旧文明の遺産のおかげで、多くの人々は魔合という災害による飢餓から命を拾ったことだろう。
しかし今目の前にいるコロニーの人々はみなやせ細りどこか無気力さを感じられた。道の隅にいきなり座り込んでいる人も少なくない。
「……俺も、カプセルより肉とかの方が好きかな」
「お、分かってるね!」
「まあカプセルも嫌いじゃないけどな」
「ええー」
父のシェルターの中でカプセルやインスタントを食べて育ったネベルは、それらの味にも慣れていたのだ。まあ、一番好きなのは豆や葉を潰して作った苦いお茶だったが。
その後しばらく進んでいると、突然ピクシーがコロニーのとある人間を指さしてこう言った。
「うわっ ネベル君、見てよあそこ! あいつ、飛び切りあやしいんですけどー!」
ピクシーが示した方を見ると、ひどい猫背の黒い雨がっぱを着た行商人とおぼしき人間のまわりに、大勢の住人が集まっていた。人々の目はみな虚ろで、まるでゾンビのように行商人に向かって手を伸ばしている。
「さあさあ、ご覧あれ! このレリックがあればだれもが幸福を手に入れる事が出来ますよ!」
「おお! 欲しい!」
「俺に売ってくれえ!」
人々は行商人が持つ金属でできた円筒形のレリックに狂ったようにくぎ付けだった。
「はいはい、数はありますよ! 出すもんだした奴からお売りしますよー」
ネベルは住人たちのレリックに対する異常な執着と、見覚えのあるその形から嫌な予感を察知していた。
「ねえねえ、あれってなんか見た事ある気がするんだけど?」
「ああ、〈カマエル〉と同じ偽物のレリックだ。とりあえず止めるぞ」
ネベルはエクリプスの柄に手をかけると、人の群れに近づいて行った。
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