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DareDevil Diver 世界は再起動する  作者: カガリ〇
世界をはじめるための戦争(後編)
110/120

第110話 懺悔

 フリークの気配を追っていたネベルは、ロワンゼットが潜伏している移動要塞にたどり着いていた。


 西側山脈と白馬の丘の間にある岩々に囲まれた盆地に、特殊金属で出来た見覚えのない八角形があった。

 光学迷彩で周辺の景色と同化しているようだったが、近づくとそれが旧文明の兵器であるということがはっきり分かった。


 頂上にはハッチのような物があったため、ネベルはそこから移動要塞に侵入した。


 要塞の中は薄暗いが、計器の灯りで少しだけ物を見ることが出来た。

 梯子を下りるとすぐに広めの空間に出て、そこで巨大な生物の蠢きを感じた。



「ずっと会いたかったよ…!  アースっ」



 ──ネベルは絶句した。


 フリークが、まるで何年も離れていた恋人と再会した時のような顔で、愛おしそうに抱きしめていた相手が、二つの顔を持ちぶよぶよとした紫色の肉体の醜いキメラだったからだ。



 また近くでは、それを見て不恰好な見た目のロボットが大爆笑していた。


「クフフッ、クハハハハッッ! こんな面白いことがあるかぁ?! ノコノコやって来た勘違いエルフが真実を知り、絶望に歪む顔を見たいと思っていたが…… まさか目が見えないとはなぁ! クフフッ 奴め、あんな醜い疑似生命体を、本物の自分の女だと思っていやがるぞぉ。クフフッかっハハハ!馬鹿だなぁ」


 それを聞くと、ネベルの中に激しい怒りが込み上げた。

 自然とエクリプスにも手が伸びる。


 だがこんな奴より、今は目の前のフリークの方がよっぽど放っておけなかった。


 怒りをどうにかおさめると、大笑いするロボットの横を通り過ぎ、フリークのそばに駆け寄った。



「……あれ? ネベルじゃないですか。 ほら、見てください。彼女がアースですよ。私たちは1422年ぶりに、ようやく再会できたんです!」


「…………ッ フリーク!!! しっかりしろッ!! 目を覚ますんだ!!!!!!」


「ぇえ? いやだなぁ、たしかに私は目が見えませんが、目の前にいる彼女の魔力は絶対に間違えませんよ」


 紫色のキメラは、フリークに優しくなでられるとビクビクッと反射反応で体を動かしていた。



 ―違うっ、ちがうんだ。そいつもきっと、ロワンゼットの作ったクローンなんだよっ!―


 あまりに残酷で悲しい光景だった。

 ネベルは思わず目をそらさずにはいられなかったが、意を決すると再び彼に話しかけた。


「フリーク、現実から目をそらしてはダメだ。 お前は自分の罪と向き合うとそう決めたんだろ!」


 その言葉を聞いた途端、愛撫していたフリークの手が止まった。

 閉じたままの彼の瞳から、一筋の涙が零れ落ちる。


「……フリーク」


「気づいていましたよ? アースも艶やかな肌を持っていましたが、ここまでぬるぬるはしていませんからね、プクク。 ……ですが気づきたくなかったのです。もう私の知る彼女には絶対に会えないのだという事に」


「……もういいんだ。もう…」


「おそらく、最後にアースと話をしたあの時、私は彼女の気持ちに気づいていながら自分を優先して分からないフリをしました。それ以外にも色々な愚かさの積み重ねがあって、今の私があるんでしょうね。フ、まったく自分が嫌になりますよ」


 そう言うとフリークは立ち上がり、キメラでなくネベルの方を向いた。


「私自身のけじめをつける時が来たようです。ネベル、少しつきあってもらえますか?」


 それを聞くと、ネベルは静かに頷いた。



「なんだつまらん。もう終わりなのか?」


 ロワンゼットは、自分が操る汎用型人機(マルチタスクユニット)ごしに、ネベルたちにそう言ってきた。


「クフフ、もう少し馬鹿が踊る滑稽なザマを見ていたかったのだがなぁ」


「安心しろ。すぐに死ぬほど楽しい宴を始めてやる。だがその前に一つ聞かせろロワンゼット」


「なんだ小僧。儂に気やすく話しかけるなクソが」


 だがネベルはそれを無視して、ロワンゼットにこう尋ねた。


「どうしてお前たちは、こんな戦争を始めたんだ。お前たちの目的が仮想空間(カテドラルスペース)だという事は知っている。だが、それなら勝手にやればいいじゃないか。ミュートリアン達を巻き込む必要はどこにあるんだ?」


「そんな事も知らないのか。いいだろう、この儂が特別におしえてやる」


 そしてロワンゼットは少しだけ語った。

 すべての始まりである仮想空間(カテドラルスペース)について。



仮想空間(カテドラルスペース)とは我々人類が最後に行きつく理想郷なのだ。生像(icon)によって集められたデータを元に世界は常にアップデートされ、高性能管理演算機(マザー)によって完璧な管理が行われる。つまり完璧な世界だ。だが、現在生像(icon)は非活性状態にあり、まるで役に立たない。それもこれも全部、魔合のせいで人類が大半の人口を失ったからなのだ!」


 iconとは、仮想空間(カテドラルスペース)にアクセスした全ての人間の脳の貯蓄データを統括した特大データベースだった。

 仮想空間(カテドラルスペース)という媒体で繋がった200億個の脳みそは、信じられない演算速度を実現した。

 その結果、シンギュラリティが起こり、たった数百年で文明は飛躍的に進歩したのだ。


「クローンじゃ代用が利かない。元が同じ一人の人間だからな。さあ、これで分かったか?あの野人共には()()犠牲になってもらうのだ」


「そんな事はさせるか。俺はすべての理不尽を許さない」


「ほう、やる気か? なら、儂の英知を見るがいいっ!」


 そう言うとロワンゼットは、近くの計器のスイッチを押した。

 するとネベルたちの背後からいきなり巨大なロボットアームが飛び出てきて、二人を掴んで移動要塞の外に投げ捨てた。



 放り出された後、フリークは飛行魔法を使い空中にとどまり、ネベルは地面に受け身をとって着地した。


「くっ、いったい何のつもりだ?」


「ネベル! あれをご覧に!」


 そう言われて移動要塞の方を向くと、あの部屋の中にいたキメラが、ちょうどネベルたちと同じ方法で外に射出されている所だった。


「クフフ、さあ戦え! 融合キメラよ」


 日の下で見るキメラの姿はさらに気味の悪い物だった。

 肥大化した醜い巨体は完全に化け物のそれであったが、所々にかつて人間だった頃の形跡が見受けられるのだ。

 胴体から生えている四つの手足の他に、前面部には人間の顔のような物が二本生えてきており、その下にはそれぞれ小さな手足が付属していた。


 ロワンゼットは移動要塞の中から、自分の実験動物がネベル達と戦う所を見物するつもりのようだった。鉄のシャッターが上がり透明な板ごしにロワンゼットの姿が見えた。


「フリーク、戦えるか?」


「ええ、もちろんです! ふふ、気を遣ってくれているんですね。ありがとうございます」


「そんなんじゃない…… でもそれなら良かった。あの巨体はかなりパワーがありそうだから少し援護が欲しかったんだ」


「ええ、まかせてください。しっかりサポートしますよ」


 そうすると二人は陣形を組んだ。エクリプスを持つネベルが前に立ち、フリークが後方でいつでも魔法が放てるように待機した。



 だが、キメラは予想外の攻撃を仕掛けてきた。

 前面についた二つの人頭の口が動くと、微精霊が炎となって形作られていったのだ。


((エクセレスソルフレイム…!))


「な、なんだとっ」


 強烈な破壊力を秘めた真っ赤な炎弾が、ネベルに向かって一直線に飛んでいく。


「私の後ろにっ」


 大きな攻撃魔力を察知しフリークは素早く前に出る。そのまま右手を突き出し魔法で防御した。


「リフレクトマジックッ!!!」


((ディスペル…!))


「な゛ッ?!」


 フリークの唱えた魔法反射呪文は、キメラの詠唱相殺呪文によって打ち消されてしまったのだ。

 発動しかけたリフレクトマジックの魔法シールドが、破られるのを見たネベルは、フリークを担いでさっとその場から飛びのいた。


「あり得ない……相殺呪文なんて誰も扱えないのに。いや、彼女は実は扱えたのに、私の前では隠していたのか?  …ッ ネベル危ない!!!」


 キメラはディスペルを唱えた後、すぐに空高く飛び上がっていたのだ。

 そして二人を同時に押しつぶそうと、巨体を利用したヒップドロップをかましてきた。


「チッ…」


「ネベル?!!」


 このままでは2人ともがペチャンコに潰されてしまうと悟ったネベルは、咄嗟にフリークを突き飛ばすと、エクリプスを真上に掲げて防御の姿勢をとった。


 ―ガンッ ズズズズズズ!


 物凄い質量の物体がネベルの上にのしかかってきた。エクリプスの反重力システムを全開にしてどうにか跳ね返そうとしたが、それでも押しつぶされるまでの時間を数秒伸ばす程度が限界だった。


「クフフ!いいぞいいいぞぉ、もっとやれー」


 遠くの方で、極めて耳障りな歓声も聞こえてくる。


「く……も、もうダメだっ!」



 だがその時、フリークは新しい魔法を詠唱していた。


「……嵐よ、爆ぜろ ネベルっ、上手くよけてくださいね? エクスプロードエアル!!!」


 爆風が込められた風の玉が射出されると、キメラに当たって破裂し、一時的なハリケーンが引き起こされた。


 その時一瞬だけ、ネベルを押しつぶそうとする力が弱まったため、彼はどうにか脱出することが出来た。


「ふぅ……、助かったぜフリーク」


「いえ。こちらこそ」


 その様子を見ていたロワンゼットは、悔しそうに地団太を踏んだ。


 そしてキメラに対し、まるで八つ当たりのようにこう言ったのだ。


「何やってんだ。この馬鹿ッ はぁ、貴様ら姉妹が二人がいいと言うから、せっかく儂が一つにしてやったんじゃないか。儂のためにしっかり働くのだ!」


 それを聞いたネベルはとても驚いた。


「オイ! 今のはどういう意味だ!」


 しかしロワンゼットは、その問いに答えるつもりは無いようだ。


 だが、わざわざ答えを教えてもらわなくとも、ネベルはその恐ろしい真実に気づき始めていた。

 白絹の森で班目マダムが連れ去った二人のクローンの記憶が彼の脳裏に蘇る。そして目の前の双頭のキメラを見て、それは確信に変わった。


「……そうだったのか………… ごめん。守れなくて」


 すると、ネベルはカートリッジを取り出した。


「今、楽にしてやるよ」

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