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DareDevil Diver 世界は再起動する  作者: カガリ〇
世界をはじめるための戦争(後編)
107/120

第107話 精神支配

 ロワンゼットは焦っていた。


「何故だっ。兵隊の数も質も、こっちの方がずっと上のはずなのに!どうしてまだ勝てないんだ!」


 亜人共のおかしな呪術のせいで銃火器を封じられ、ロワンゼットはひどく屈辱を味わった。

 だがそれでも50万対15万の戦いなのだ。普通に考えれば負けるはずは無かった。


 しかし連合軍の兵士たちは、苦境でもあきらめずに互いを励ましあった。その結果、彼らはロワンゼットの予想を超えた踏ん張りをみせたのだ。


 だが、ロワンゼットにはそんな理屈など理解できなかった。



 そして、彼は憤慨したまま、コードブレイン社側の情報源。つまり、ひそかにケイブロングヴェルツ内に忍び込ませていたスパイへと連絡をとったのだ。



 汎用型人機(マルチタスクユニット)から原始的な電波通信が繋げられる。


「おいネクトッ 貴様には内部での妨害工作を命じたはずだろうが! いったいこの様はどうなっているんだ!」


「申し訳ありません。ロワンゼット様」


 ネクトと呼ばれた女が音声のみで返事をした。

 高度な精神の直接会話でないため、通信はやや乱れていたが、精神系魔法による妨害の可能性を考えるとこれがベストなのだ。


「この儂が、まだ亜人なんぞに勝てないのは、ぜんぶ貴様が足を引っ張っているからなんだぞ!わかっているのかッ」


「ハッ 重々承知しております。 ……ですが、工作活動の任務については既に完了しております。砦内の催眠電波妨害装置を破壊し、言われたとおりドワーフ達でトランス実験も行いました。実験データも転送済みですが、被験者たち全員の脳を問題なくネットワークに組み込むことが出来るでしょう」


「生意気な奴め。それで?敵の戦力が低下するようなことは何かしたのか」


 女の澄ました態度が気に食わなかったロワンゼットは、嫌味を込めてさらにそう問いつめる。


「いえ… 現在は神の雫の確保のために、所有者と思われる人間を追跡中です」


「ドワーフの国に人間だと? いや待て、そういえばアレックス・ブレインズの奴が何か言っていたような」


 すると、ネクトがそれについて説明をした。


「彼らはダイバーという存在です。魔界のモンスターとの戦闘経験もあり、中でも不可視の獣という名の元傭兵は、蜥人族(リザードマン)の勇者を軽くあしらうほどの実力者でした。現在我々が劣勢である原因にも彼らが深く関わっていると思われます」


 ネクトは冷静に戦況を分析した結果、そのようにロワンゼットに提言した。


 だが、それを聞くとロワンゼットは激しく怒りだした。


「劣勢だとッ!? 貴様、この儂に口答えするなど愚か者めっ!」


 そして、彼女にこう告げた。


「クフフ、おいおーい。そんなこと言って、貴様の望みが叶わなくなってもよいのかぁ?」


 それを聞くとネクトは、慌てて自らの非礼を謝罪した。


「も、申し訳ありません!どうかお許しください! シ……、失礼しました。もう二度と失態は犯しません。より一層ロワンゼット様に尽くしますので、どうか、私も仮想空間(カテドラルスペース)へ!」


「ふん、まあいいだろう」


 ロワンゼットは満足気な笑みを浮かべる。


 とはいえ、このまま亜人共を調子づかせるわけにもいかなかった。それに万が一という事もある。

 そこでロワンゼットは、ある秘策を切り出すことにした。


「少々はやいが…… そろそろこのゲームも、終わらせるとするか!」


 ホログラムパネルを呼び出すと、コードを入力しあるプログラムを起動した。


 ロワンゼットが乗り込んでいる汎用型人機(マルチタスクユニット)にいくつもの電子ケーブルが接続される。それは脳から電気信号を直接出力するための装置だった。


 そして、彼のいる移動要塞からすべてのクローンに対し、絶対的な優先権のある特殊命令が送られたのだ。




 そのころ、中央の部隊で戦っていたマックは、戦場の変化にいち早く気づいていた。


「な、なんだあれはっ」


 兵士たちが急激に負けだしたのだ。それは、戦場にいたクローン兵の動きが突然変異した事が原因だった。



 クローンといえどそれぞれが独立した自意識を持つ生命体である事には変わりない。そのはずだった。


 目の前で味方を蹴散らしているクローン兵の軍隊は、まるで一つの部隊が統率された意思を持っているように桁違いの連携をみせた。上から糸で操られていたと言っても驚かないくらい。

 そして盤上の駒のように、ただ勝利のためだけの最善の手を尽くしていた。時には特攻も辞さなかった。


「ワッツ。いきなりどうなってるんだ?! このままじゃ戦線が崩壊する。それにしてもこの変化、いったい何をしたんだ?」


 マックはTC-30のスコープを覗いて、この窮地を脱するための手がかりを探した。


「……なんてことだ」


 スコープに映ったのは絶望だった。フリークが代償を払ってまで封印したはずのロボット兵器の数々が、再び動きだし始めていたのだ。

 大型の波動砲やタイラントは依然停止したままだったが、サーベルキャットを模した自立式の中型ドローンや数万台のバルカン戦車はすべて復活していた。



 クローン兵の動きが突如変化したのは、ロワンゼットが一人で戦場の駒を直接操っていたからだった。

 マシンにかけられた封印が解けたのも、特殊信号によって命令系統が上書きされた事が原因だった。


 それによって、それまで存在した命令はすべて消滅していた。


 一時間もしない内に、それまで優勢だった中央軍の戦いは幕を閉じた。

 よって、ボロン平原のさらに奥深くに、クローン軍の侵入を許してしまう結果になったのだ。

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