第106話 共闘
作戦班からの救援要請を受けた特別遊撃隊は、ディップが小隊を連れ、味方が劣勢である左翼の危険地帯へと向かっていた。
「……間に合ぇーっ!」
ヒポテクスに乗って血埃にまみれる戦場を駆け抜ける。
そうして目的地につくと、そこにはかすかに見えるクローン兵の塊。
味方がもし居るとしたら、あの軍勢の中か……。
「ディップさん、あれはもうダメだ! 今からじゃあもう助からないッ」
「だが、もしかしたら救えるかもしれねぇ!」
「どっちみち死んでるよ! それに下手したら俺らが死んじまう」
「くッ クソぉぉ!」
50万対15万で始まった戦争。不利的状況は続き、今も戦線をギリギリで保っている。
そんな中、ディップ達のいる特別遊撃隊はあちこちから救援を受け、その度に戦場を駆けまわっていた。
現在バルゴンは、ディップとは別の場所へ救援に向かっており、デルンは坑道砦門の異常事態を聞いて、急いで応援へと戻っていた。
よってディップの部隊も、それほど戦力が残っていなかったのだ。
「ちくしょー。また、間に合わなかったのか」
「仕方ないです。どこも同じなんだから」
「さぁ、他の所に行きましょう」
「ああ…… いや、ちょっと待て!」
去り際になって、ディップはある異変に気が付いた。
ここに来たときと比べて、クローン共の戦いの勢いが全く衰えていなかったのだ。
敵の塊は永遠に、その中心めがけて剣を振り続けているようだった。
「まだ戦っているんだ……。あの中心で、味方がまだ戦っている!」
いくらクローンといえど、虚無に向かって剣を振るはずは無い。
そしてディップは特別遊撃隊の仲間に指示を出した。
「いくぞお前ら。横撃だッ。味方を援護しろ!」
「「ぅおおおおッ!」」
ディップの隊はヒポテクスに騎乗したままの一斉突撃を行った。
運よくクローン兵は剣を振るう事ばかりに夢中になっており、衝突の直前までディップの隊に気が付かなかった。そのせいで、クローンの大隊は一瞬で余計に大きな被害を受けた。
それを深刻だと判断した部隊長B-2クローン兵は、即座に撤退を決断したのだった。
敵がその場から居なくなると、これまでずっとクローンの塊に囲まれていた味方が姿を現した。
彼は満身創痍であったが、足元には一万体の屍があった。その中に味方のモノはほとんど見られない。
「しっかりしやがれっ ネベル!」
特別遊撃隊を見つけると、ネベルはまるで糸が切れたように、その場でパタリと倒れてしまった。
ネベルは窮地にいた連合軍の味方を逃がすと、代わりに自分が一人で死地に残り、クローン兵と戦い続けていたのだ。
ディップは急いで駆け寄り、持っていたハイポーションを頭から掛け流した。
幸いネベルの身体に致命傷はなく、すぐに意識を取り戻した。
「オイこら。いくらなんでも張り切り過ぎだ」
「……ああ。助かったよ」
「どこ行くんだ。まだ話の途中だぜ」
「う゛っ」
「オイ!」
足に力が入らず崩れ落ちるネベル。ディップはあわてて肩を貸した。
ポーションで怪我は治っても、体力がまだ完全に戻っていなかったのだ。こんなに弱ったネベルを見たのは、ディップは初めてだった。
「お前…どうして」
すると彼の耳に、小さいが力強い呟きが聞こえた。
……まだだ、俺が全部守るんだ。
驚いたディップがネベルの顔を見ると、彼は悔しそうに歯を食いしばりながらも、澄んだ瞳で前を見つめていた。
「お前、変わったな……」
するとその時、再びクローン兵の大隊が彼らの前に現れた。さっきの部隊が、失った人員を補充して復讐にやってきたのだ。
「く、来るか」
ネベルはエクリプスを構えた。だが足取りはまだおぼつかない。するとディップが、ネベルと背中合わせになってこう言った。
「全部守るだって? アッハッハッ いくらなんでも、それは欲張りすぎだろ」
「あ? なんだと」
「ならさ、お前の背中くらいは俺にまかせろ!」
「!!!」
思ってもない一言に驚くネベル。だが、別に悪い気持ちではないと思った。
「フン、おくれんなよっ」
「おうよ!」