第104話 邂逅
ダイバー達はそれぞれの戦場へと赴いた。
戦車や砲台を封じられたクローン軍は、今度はレーザーブレードやメタルスタッフという銃棍一体型の武器を用いた突撃を仕掛けてきたのだ。それに対して、連合軍の兵士たちも剣や斧を用いて応戦した。
レーザーブレードの光と戦士たちが敵を殺した時に流れた血で、戦場はどこもかしこも真っ赤に染まりあがった。戦いはより激しさを増したのだ。
出撃前、ピクシーも一緒に行きたいと言っていたが、ネベルは我儘をいう彼女を無理やり革袋の中に詰め込むと、そのまま望に預けた。
そして現在ネベルは、ドワーフの作った魔素式機械二輪車に乗って、最前線に向かって爆走している最中である。
マシンは黄銅色の合金製で、完全に見た目はバイクである。ゴツイ見た目通り耐久性はかなりあり、スピードを上げ邪魔なクローン兵をつき飛ばしながらどんどん進んでいった。
「それ。かなりいいですね。 ちょっと私にも乗せてくれませんか?」
ネベルの少し後ろからは、飛行魔法を使ってフリークが追従してきていた。
「……嫌だ。俺もコイツが気に入ったんだ。それに、お前にはサウザンドウイングがいるからいいじゃないか」
「まあそうですが。私も男の子ですから、そういう乗り物にも憧れてしまうのですよ。 ん゛?」
会話の途中で、何かの気配に気づいたフリークは、その場で急停止した。
「えっ どうしたんだフリーク」
ネベルも、魔素式機械二輪車を横滑りしつつ、車体を回転させながらブレーキを踏んだ。
フリークは空中に停止したまま、遠くの空を見て呆然と立ちすくんでいた。
そのとき感じた気配の正体こそ、彼が迷いの森から出てきた理由であり、ずっと探していた物でもあった。
つまり、アースの魔力だ。
「これはッ 間違いない!」
「フリーク! どこに行く気なんだっ」
「…………そこにいるのですか!? アース!!!」
そう言うと、フリークは猛スピードでどこかへ飛んで行ってしまった。
この戦争においての連合軍側の最終防衛線。ケイブロングヴェルツ坑道砦門の中には、要となる作戦班本部が置かれていた。
そこで技術者や大臣たちが、戦場の兵士から送られてくる情報を元に、勝つための作戦を練っていたのだ。
「おいボルドン。ニーズヘッグの部隊が完全に挟み撃ちにされているようだが、すぐにでも救援を出すべきじゃないのか?」
ガルゴン王は、数人の技術者がモニタリングしているレーダーの画面を見ながらそう尋ねた。
「いいえ、王よ。彼の部隊は連合軍の中でも上位に位置するほどの精鋭ですし、この程度の数相手なら崩れることはないでしょう」
「ウム」
「それよりも、左翼にあるこの部隊が危険だと思われます。前方に複数の敵部隊が待ち構えており、壊滅の恐れがありますので。ここが崩壊すると、一気に攻め込まれる恐れも……」
「よし、分かった。伝令よ、左翼の部隊に援軍を送るのだ!」
「ハッ」
そして、王の命令を受け、伝令係は特別遊撃隊に救援要請をしたのだった。
ドワーフの大臣ボルドンを中心とした一連の軍事作戦の流れを、近くにいた望とロンドも目撃していた。二人は坑道砦門の守備という名目でこの場にいたのだ。
「なんか、すごかったね。あのボルドンさんて、ロックキャッスルで会った時はただ意地悪そうな人って印象だったけど、本当はスゴイ人だったんだ」
「そうだね。それに比べて、おれたち……。ちょっと退屈しすぎじゃない??」
直接的な戦闘が始まってから二人がした事といえば、砦門の中のくつろぎスペースにて、ピクシーと一緒にお茶を飲み飲みしていた事ぐらいだった。
仲間のミュートリアンが洗脳でもされない限り、彼らの出番が来る事は無いのだ。
くつろぎスペースには丁寧に寝ゴザとすぐお茶が飲めるよう電気ポットが置かれており、ピクシーは床に寝転がりながら、美味しそうに焼き菓子を頬張っていた。
「まあまあ二人とも、そう焦っていては何もうまくいかないとおもうんだよ。ひとまず心を安らげてみてはどうかね?明鏡止水、般若心経、猪突猛進!このちょっと糞のあるお茶でも飲んでさ!一緒にゆっくりしよーよー。ぷは~」
「ほら見てよ望さぁん。おれたち、こんなのと同列だと思われてるんだぜ? ホントに、これでいいのぉ?!」
「ふぁー?」
バルゴンやガルゴン王など、ダイバー以外の他の兵士が戦争中にティータイムしている自分たちをどう思っているかは知らないが。ここのくつろぎスペースとティーポットと、カップをすべて用意したのはネベルである。
「えっと。で、でも。私たちの役割って、万が一の時の隠し玉みたいな物だしさ。待機って分には間違ってないんじゃない」
「ええ、まさかまだ気づいていないんですかぁ? おれもそんな事言われましたけど、結局は厄介払いされただけなんですよ!」
「あはは…… やっぱりそうなんだ」
「あーあ。少しはネベルさんにも認められたと思ったのになぁ。はぁ」
そういって、ロンドは焼き菓子とお茶を口に入れた。
望もつられてパクつく。彼女もしっかりと戦うつもりでいたので、正直この状況には拍子抜けしていた。
だがその直後、突然けたたましい警報が砦中に鳴り響いた。
ついで、遠くの方から、何かが爆発するような不穏な破壊音も聞こえてきた。
急な騒音で、ピクシーも思わず飲んでいたお茶を吹きこぼす。
「ブホっ、もぉなんなのよー!」
ロンドは向こうの作戦班の方でも、この異常事態のせいで慌ただしくなっているようだと気づいた。
「望さん!行ってみようよ!」
「うん、そうだね。何があったのか聞かなきゃ」
「あっ 待ってよ~」
望たちが作戦班本部に行くと、王や技術者たちは皆むずかしい顔をしていた。
「ねえキャンディちゃんってば、いったい何があったの?」
「ああ、望さん! どうやら侵入者が現れたようなんです」
「ええっ それは本当?!」
キャンディは、ケイブロングヴェルツの技術者たちに交じり、レーダーや機械を用いた情報伝達の手伝いをしていた。
その彼女がいうには、レーダーを見ていた他の技術者たちも、誰もその賊の侵入に気づけなかったらしい。
「さっきの爆発はソイツのせいなのか! じゃあ、早く見つけて倒さなくちゃ!」
「ウム。そうしたいのはやまやまなんだがな」
するとガルゴン王はこう言った。
「フリークのおかげで戦闘を継続出来てはいるが、やはり敵の数が多くて劣勢を強いられている。分かるだろ。この切羽詰まった状況の中、誰も持ち場を離れるわけにはいかないのだ」
「だったら、代わりにおれたちが様子を見てくるよ!」
「なに? 貴様らが?」
その時ロンドは、ようやく自分も活躍できるかもしれないと思って、嬉しそうにそう進言した。
しかしガルゴン王は、明らかに弱そうなこの二人組に、こんな仕事を任せてもよいのかと悩んでいた。
「そういえば貴様らは、バルゴンとネベルからここの守りを任されていたのだったな。正直、様子をみてきてくれるのはありがたいが、本当に貴様らだけで大丈夫か?」
するとピクシーがこう答えた。
「もっちろん! コイツらの保護者のわたしが居るからね。任せなさいって」
「おお、妖精殿もそういってくれるなら安心…か? ウム。なら貴様ら、よろしく頼むぞ」
「はい、分かりました王様!」
「はぁーい! 行ってくるね!」
望とロンドは元気よく返事をした。そして異常があったという城門開閉室近くの機械室へと向かったのだ。