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ユメグイ  作者: 佐倉もち
第一章
11/11

#11

読んで下さりありがとうございます!


かなり久しぶりの更新になりました……筆が遅いのが悩み。


三つ子の魂百までというように、幼い頃の習慣というのは簡単になくなってはくれないらしい。


「――悠?」

「……なに」

面倒なのを隠さずに呼ぶ声へと振り向けば、開がいつもの悪人めいた表情に心配の色をのせてこちらをのぞき込んでいた。

「大丈夫か?今オレ何回も呼んでたんだけど」

最近ちゃんと眠れてるか?なんて不安そうにされると、別に悪いことはしてないのになんだか申し訳ない気分になってしまう。

「大丈夫。考え事してただけだから」

「ふーん。ま、なんでもいーけどな!」

不安そうな顔色はどこへやら。あんまりボーッとしてると置いてかれるぞ~、なんて、すっかり調子を戻した開がニヤリと笑う。

「ぼーっとなんてしてない。今日に限ってそれはない」

「どーだか」

今日は僕たちが初めて、見学じゃなくて任務に参加する日だ。


どれだけ暗い感情を抱えてても、僕には開を避けきることはできないらしい。数日もしないでまた話すようになった僕らは、なんとなく蟠りが残ったままVDDとして任務に参加する日を迎えてしまった。


「二人とも、雑談も良いがきちんと着いてくるように」

こほんとひとつ咳払いをこぼして、少し前を歩いていた黒瀬さんが振り返る。

「あ、えっと」

「すみません!以後気を付けます」

僕が答える前に開は頭を下げてパタパタと歩を早めてしまった。

「ほら、悠も」

「……うん」

「ここらの道は複雑で迷いやすい。はぐれると面倒だからな」

僕らが頷いたのを確認して、黒瀬さんは再び歩を進める。

「黒瀬さん、今オレたちはどこに向かってるんですか?」

「山間部の休憩所を兼ねた関所だ。バグの規模は大きくないがプレイヤーの交通に欠かせない場所だからな。被害を最小限にしつつ手早い対応を、との依頼だ」

「あー……」

開がわかりやすく苦笑いを浮かべる。僕たちだってそんなこと、わざわざ言われなくてもわかってるのに。

「我々の活動は基本的にサポーターも認知していないからな。理解が得られなくとも割り切るしかない」

「……」

「――結晶の存在が流出することに比べたら安いものだ」

淡々と話す黒瀬さんは、珍しくどこか諦めているみたいで、なんとなく気に食わない。

「……さて、目的地までもうすぐだ。少し急ごう」



「VDDより派遣されました、黒瀬です」

休憩所の受付で先頭にいた黒瀬さんが身分証を提示し、僕たちもそれに従う。

「生体認証を確認します。……完了いたしました、奥へどうぞ」

受付の人がそう言って、そのまま奥の部屋に通される。応接間を模した室内で、ここの責任者だろう青年がソファーの中央に座っていた。

「本日はお越し下さりありがとうございます。それで、今回お願いした件についてですが」

「被害の規模とプレイヤーの避難状況だけ教えてくれ」

青年の話を遮って黒瀬さんが指示を出す。後ろに立っている僕でさえ彼女の圧に飲まれそうなのに、この人は大丈夫なのだろうか?なんて少し心配になった。

「はい、プレイヤーの避難は既に完了しており、現在はサポーター数名が防御に当たっております。被害については……」

おどおどとしていながらも淡々と話す青年に、黒瀬さんと開が相槌を打つ。

「……了解した。残っているサポーターにも避難指示を、後はこちらで制圧する」

一通り話を聞き、黒瀬さんが戦闘態勢に入ったのを確認して後に続く。

「どうか、よろしくお願いします」

「勿論だ、何のために来たと思っている」

深く頭を下げた青年に、黒瀬さんは堂々と言い切った。

「ありがとうございます!」

更に深く頭を下げる青年に背を向け休憩所を後にする。

さっきの黒瀬さん、ちょっとだけ格好良かったな、と思った。


「ここからはいつバグが現れてもおかしくないからな、注意して進むぞ」

周囲への警戒をしつつ黒瀬さんの後ろに着いていく。しばらくも歩かないうちに標的は目の前に現れた。VDDの一員として過ごした約一ヶ月、何回も見てきた景色が一瞬で僕らを包み込んでいく。

「……」

――何回みても慣れたもんじゃないな、これは。

方向すらわからなくなってしまいそうだ。空間と呼ぶのもできないくらい、理解が追いつかない情景が視界に容赦ない暴力を浴びせてきていた。続いて、中央に位置する黒いバグらしき影がぷくーっと膨らみ、はじけて分裂した。

「予想していたがこれは酷いな……まずは数を減らそう。いち早く本体を破壊するぞ」

黒瀬さんは右耳に手をあてアイさんを呼び出し、僕らに声を掛ける。

「はい!行くぞ、サヤ」

開が応えて前髪を留めるピンに触れた。現れたサヤと呼ばれた桃色の髪をした少女は、こくりと頷いて二竿の小刀へと姿を変える。それから開は一度だけ目を閉じ、カッと開いた。

次の瞬間、目の前のバグ達は半分に裂かれあたりに散らばっていく。

「クソッ、外れかよ……」

悔しそうにする開の姿は、どこか遠く感じてしまう。

「悠!お前も協力してくれ!」

「……うん」

開に続くように僕も右手首についたブレスレットに触れる。

「……僕だって」

震える身体をごまかすために呟いた声は二人に届かないまま宙に消えた。



 *


――あれは確か、リディアさんに再会してすぐの頃。


「簡単に言ってしまえば、蓄積かしら?」

彼女の能力について本人に尋ねたつもりが、何故かもっとわからなくなってしまった。

「蓄積、ですか……?」

疑問を片手に繰り返す僕に、リディアさんはこくりと頷いた。

「そう、蓄積。力を貯めて放出するの。貯める力が多くなるほど強くなるわ」

「……」

簡単なような、難しいような。リディアさんみたいな能力だ。

「その、力を貯めるってのはどうやったらできるんですか?」

「そうねぇ……」

尋ねれば、リディアさんは頬に片手をあてて考える仕草をしてみせた。

「……わからないわ。どうするのかしらねぇ?」

「えぇ……」

「でもね、わかることもちゃんとあるのよ」

つかみ所のないリディアさんの様子にちょっとだけ困惑する。

「そうですか……」

「ふふ、信じてない顔」

「違っ、信じてないなんて、そんなこと」

向こう側の見えない笑顔は僕が慌てて否定しても、きっと見透かしているのだろう。

「いいのよ。それより、わかることってのを教えてあげる」

不信感をあっさりと受け入れて、リディアさんは僕の耳元に囁いた。

「力の放出はね、より強いイメージに引っ張られるの」


 *


腕を振るう、蠢きつつ迫ってくるバグを、捕まえようとした。

釘かなにかで、地面に固定してしまえば。確かに、そんなことを思った。


「……え?」

だからって、その先をはっきりイメージしたわけじゃないのに。それに、まだリディアさんを呼んでない。

視界に広がる分裂したバグ。認識できる全部が、大きな杭に打ち付けられていた。僕よりも、バグ達よりも大きいそれが、丁寧に全てのバグに突き刺さっている。

「はる、か……?」

口元の動きだけで、開が呼びかけたのが見えた。黒瀬さんだって、きっと驚いている。

「違う!僕じゃ」

「ナイス悠!そのまま破壊しろ!」

僕より先に状況を理解したのだろう、指示を出す開の声は上がった口角が目に見えるほど機嫌がよさそうだ。

「はかいする……」

言われて最初に浮かんだのは、黒瀬さんが水のリングでバグを圧縮する光景。あんな感じでこの杭を動かすなら、内から外に動く方がなんとなく想像しやすい。そう、例えるなら――

「――ばくはつ」

僕の言葉に従って杭が一斉に爆ぜた。イメージ通りが過ぎる光景に少し視界がふらつく。集中を取り戻そうと頭を雑に振れば、粉微塵となった杭は既に消失していた。

「……二人とも、無事か!?」

遠くない距離から黒瀬さんの声が聞こえる。大丈夫ですと開が応答するのを聞きながらも、僕の脳内は未だに混乱が去らないでいた。

「悠?」

「あー、うん……平気」

まぶたをゴシゴシと擦れば、少しずつ視界がクリアになる。見わたす限り広がっていたバグの分身はすっかり消え、本体だけが居心地悪そうに佇んでいた。

「残るは本体だけか。二人とも休め、後は私が処理する」

言うが早いか、黒瀬さんは呼び出した水球でバグを包み込んで圧縮する。僕たちの攻撃が効いたのだろう、すっかり勢いを失ったそいつはあっという間に彼女の手中に収まった。

「すげぇ……」

隣で呟く開の真意はつかめないまま、黒い影が消えていくのをぼんやりと見ていた。


「……無事に回収できたな」

少しだけ安堵を浮かべた黒瀬さんだけど、その額には汗が伝っていた。

「お疲れ様でした。すみません、役に立てなくて」

「仕方ない……今回のは白栖川と相性が悪そうだったしな」

黒瀬さんは片手間に回収したバグを容器に移しつつ、誰かと通話を始める。

「こちら黒瀬。対象の除去を完了致しました。処理の引き渡しを依頼します」

『――こちら海老染。了解した、準備でき次第修復を開始しよう』

事務的な会話だったけど、なんとなく一瞬だけ黒瀬さんが微笑んだように見えた。

「おつかれ、悠!さっきのすげぇな~」

どうやったんだよ?興味津々に問いかける開に、上手く言葉が出てこない。渦巻く気持ちが暗くなっていくばかりで、開の言葉をまっすぐ受け止められない。

「……なんだっていいじゃん」

「あー、そうだよな、疲れたよな。早く帰って休もうぜ!」

なにも言わない代わりに頷いて、けれども一歩も踏み出せないまま、進む開の背中を眺めていた。

「……」

少し視線を上げた先にあった細い首筋に、このまま立ち止まって欲しいだなんて血迷ったことを一瞬だけ思った。

「悠~?」

振り返った開の表情が固まる。一秒にも満たなかっただろう瞬間が、まるで永遠に錯覚してしまいそうで。先程バグに打ち付けたのよりずっと小さな杭が、開の喉元に向かって勢いよく放たれていた。それは杭というより、弾丸みたいだった。

ヒュッと息を飲み込む音が聞こえた気がした。


「――避けろ!」

最初に動いたのは黒瀬さんだった。大声で命令して開の腕を掴む。引っ張られるまま地面に倒された開も、突如現れた鎖にぐるぐる巻きにされた僕も、なにが起きているのかわからなかった。

『どうした!?』

繋がったままの通信から焦った声がする。それに黒瀬さんが応答することはなかった。

軌道を変えた弾丸は、開をかばった黒瀬さんの頭部に命中した。

「黒瀬さん!」

開の悲痛な叫びが聞こえる。動揺している姿なんて初めて見たかもしれなかった。

『冬華?冬華、聞こえるか!?応答してくれ!』

「……代わりに応答します、白栖川です。何者かに襲撃を受け、黒瀬冬華が頭部を負傷しました。現在意識不明です……すみません」

『……わかった、すぐに応援を向かわせる』

「ありがとうございます」

緊迫した光景が、まるで映画みたいだな。なんて、漸く動き出した世界の中でぼんやりとそんなことを考えていた。



 *



一人きりにされた室内で、なんとなく天井を見上げる。無機質な部屋は天井までもが味気なくて、暇を潰せるものはないなと前をむき直した。

「入っても大丈夫かな?」

コンコンと扉を叩く音が響く。はいと応えれば、長身の男性が扉を開けて中へ入った。

「待たせちゃってごめんね、暇だったでしょ」

「いえ……大丈夫です」

首を振れば男性は安心したような表所をする。彼、露草さんとはVirtualDiveでよく会っていたけど現実世界で会うのは初めてだった。

「改めまして、露草律です。って言わなくてもわかるよね」

「まぁ……はい。今野悠です、今日はよろしくお願いします」

ぺこりと挨拶を済ませると、露草さんは卓上に資料を置いた。

「それじゃあ早速始めるね。今回何があったのかを、君の言葉で説明してくれるかな?」


最後まで読んでくださりありがとうございました!

もし「面白い!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、いいねやブックマークなどをしてくださると嬉しいです。大変励みになります!

また次話も読んでくださると幸いです。

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