パンドラの箱
この作品を読もうとしていただき、ありがとうございます。「パンドラの箱」のお話を知っていれば、より、内容が分かりやすくなるのではないかと思います。
サイレンが聞こえる。「それ」を、サイレンだと認識できている自分に驚きつつ、指一本すらも動かせないまま、意識は徐々に、深く、ただ深く、落ちていく...。
俺に居場所なんてなかった。俺の日々は、学校と、家庭内での孤独に溶けていった。弟が生まれてからというもの、出来の悪い兄など、まるでそこにいないかのように、家族の俺への熱が退いていった。青春なんてものはなく、ただひたすらに、呆然と、時が過ぎ去るのを待つ毎日だった。
だが、いつからだろう。俺の隣には、いつも彼女がいる。いつもいつも、鬱陶しいぐらいの笑顔を浮かべて、俺のそばに寄ってくる。何度、「邪魔だ」と突き放そうとも、「えへへ」と笑うばかりで、まるで俺の言葉など聞こえなかったかの如く、変わらない笑顔で近づいてくる。だがなぜだろう。俺の言葉も、俺自身も、無視されているのは変わらないはずなのに、なぜか、また次も同じように、俺の言葉など無視してほしいと、思ってしまうのは。
そんな自分の心の変化を自覚し始めたある日、俺は、学校を休んだ。ただただ、無性に気分が悪かった。吐き気がして、軽くめまいがする。少し重めの風邪かと思った。何をしようにも、やる気が起きなかった。けれど、家にいても、なぜだか余計に悪化してしまう気がした。だから、俺は家を出た。俺を引き留める人は、いなかった。最初は気分がよかった。いつもとは違う孤独が、俺を包んでいるような気がした。しかし、次第に不安になっていった。俺に喋りかける奴など、いなかった。俺に関わろうとする者など、いなかった。俺に笑いかける人など、いなかった...。
サイレンが聞こえる。悲鳴が聞こえる。涙声が聞こえる。
笑顔が消えた音が、聞こえた気がした。
彼は噓つきだった。まるで孤独を望んでいるかのようなふりをして、誰かの愛を、待っていた。孤独を語るための箱に閉じこもって、自分ではなく、誰かがその箱を破るのを、待っていた。そして、ついには、待つことさえもやめてしまった。今では、動くどころか、考えることさえ、出来なくなった。それなのに、彼はまだ、生きて、人の愛を求めている。そんな彼に、私に何ができるというのだろう。今はただ、彼の手を握ることしかできない。ただ、手を握ることしか。
いったい、どれくらいたっただろうか。随分と長い夢を見ていた気がする。真っ暗な闇の中、自分だけが存在する夢。けれど、いつからだろう。握りしめた手の中に、希望が見え始めたのは。
読んでいただき、ありがとうございました。これが初の小説となりますので、少々内容が伝わりづらいような点があったとは思いますが、これから、もっと精進していく所存ですので、また私の作品を手に取っていただけたら、幸いです。




