第五十三話
わたくしは日の光を感じると、ベッドで目を覚ましました。
「ん~?ここは?……ウリル?」
目を向けると、隣にはウリルが気持ちよさそうに寝息を立てていました。
「あれは…夢、ではないですね。」
まるで泡沫ようにしか覚えておりませんが、確かに覚えていることは1つ。
『雄一を頼む。』
その言葉の真意はわかりかねますが、何者かにそう告げられたのだけは覚えております。
「任せてください。雄一様のためにできることがわたくしにあるのでしたら、しっかりと果たさせていただきます!」
わたくしが小さな声でそう呟いていると、ウリルがモゾモゾとしてわたくしに抱きついてきました。
「ウリル!早く起きないと学校に遅刻してしまいますよ!」
「う、ん?アリシア?おはよう。ふぁあ。」
そう言ってわたくしは準備をしました。
この世界に着いてから1か月。
わたくしたちは今、ある一軒家に2人で生活しています。
どうやら、雄一様はこの世界の学校?なる教育機関に通われていて、わたくしたちはその学校に手続きをして、今日転校生として雄一様にやっとお会いすることができます。
このことも泡沫のような場所で聞き及んだことです。
こちらはおぼろげにしか覚えられておりませんでしたが、ウリルと話し合ってすり合わせることでなんとか思い出せました。
この家自体は用意されておりましたが、生活基盤を整えるための資金についてはウリルが一役買ってくださいました。
何でも株?という物の運用をしたらしく、お金に困ることはそうそうないそうです。
よくわかりませんでしたが、流石ウリルだと思いました。
それからわたくしとウリルは朝食を済ませ、学校へ向かいます。
(やっとお会いできるのですね!雄一様、楽しみです!)
そう胸を躍らせるわたくしやウリルの気持ちとは関係なく、無慈悲な現実が待っていることも知らずに……
「え~。今日から転校生が来ることになった。他のクラスよりこのクラスは人数が少ないこともあって2人ともこのクラスに入ることになる。皆、仲良くするように。」
「わたくしの名前はアリシア・ルー・メルダと申します。皆さん、よろしくお願いします。」
「あたしはウリル・アル・メッカ。よろしくね。」
金髪美女と黒髪美女の2人が転校してきたため、クラス内が騒めきだした。
「それじゃあ、窓際の後ろの2席空いてるからそこに座ってなー。」
先生の言葉通りの席に行くと、隣の席に雄一様が眠そうな様子で座っていました。
向こうで会った時とは雰囲気が違っていましたが、間違いありません!
黒髪や黒目は数多くいましたが、目鼻立ちもお変わりありません。
隣に来てもまるで気に留める様子もなくウトウトしていましたが、わたくしは嬉しさのあまり声をかけさせていただきました。
「雄一様。お久しぶりでございます。こうして再会できるのを心待ちにしておりました!本当に、本当に嬉しく思っております。これからもよろしくお願いいたします!」
満面の笑みでそう言いました。
ウリルが先を越されたことに少々悔しそうにしていましたが、知ったことではありません。ずっとお慕いしていたのですから。
その雄一様の反応はというと、
「あ、え、と…うん?はじめまして。よろしく。」
それだけ言うと、そのまま授業の開始をウトウトしながら待つのでした。
(は、はじめまして?雄一様はわたくしのことを覚えてらっしゃらないのですか?どうして……こんなにもお慕いしておりますのに。)
わたくしは雄一様のその言葉だけで忘れられていると理解いたしました。その瞬間、わたくしの頭の中は真っ白になってしまいました。
――――――――――
「はあ………すまない、雄一よ。儂を恨んでくれても良い。じゃが、自分を見失わんでくれ。もう…止めることはできないんじゃ。」
暗闇の中、何者かがそう懺悔するように呟いていた。
雄一にはあの世界にわたる際に、『武具の寵愛』と『極体』を与えた。
『武具の寵愛』は全ての武具から愛され、それらの武具の扱い方も熟練した状態となるもの。『極体』は一時的にではあるが自身の身体を極限まで鍛え上げられた肉体へと変えることができ、あらゆる攻撃を防ぐことができる肉体強度になるというものだ。
あの世界を救わせるためとは言え、強力なものを渡してしまった。
元の世界に返す時には封印しておいたが、その力によってあやつはまた一歩儂らに近づいてしまった。
元の世界へ戻る際には、何かを思い出しているような節さえもあった。
この先への不安が拭えないのだが、見守ることしかできぬ。
その後も、何事かを1人でブツブツと言い続けていると、その空間に別の存在が顕現した。
「貴方、心配しすぎよ。あの子なら大丈夫ですよ。」
「そうは言うがな。そもそもあの時、儂がお主の正体に気付いておればだな。」
「それはお互いさまというものですわ。ワタシにも責はあるのですから、お1人で抱えなくともよいのですよ。」
「いや、これは儂の問題じゃ!お主の手出しは認めんからな!!」
そう優しく包み込むように語りかけてくる存在の言葉を拒絶するように言い返す。
まるで、その者の企みを見抜いているようなほどの強い拒絶だった。
「…そうですか。それは残念ですね。」
その声は言葉とは裏腹に全く残念そうではなかった。
そしてその者の気配が消えた。
1人、その空間に残ったゼウスは、また独り言のように話し出した。
「これから…あやつは、どうなるのだろうな。願わくば、破滅への道を歩まぬことを祈るばかりじゃが。どうすることもできぬ無力な儂を許しておくれ。」
その言葉は誰に届くでもなく、ただその暗闇の中に消えていくのだった。
これで第一章は終わりになります。
第二章も完成し次第投稿しますので、それまでお待ちください。




