第三十八話
「……ここは?…私は牢屋の中にいたはず。」
いつの間にか私の前には、どこか覚えのある景色が広がっていました。
私はなぜここにいるのかわからなかったため、ここに来る前の出来事について思い出そうと努めます。
(確か……雄一様が牢屋へ話を聞きに来たはず。その時、私の過去を知りたいとか言っていたような?)
そう、そうです!そして、持っていた剣を私の額に当ててきて……!?
「え!?……このお方は確か……!?」
私が思考に耽っていると、決して忘れるはずのない人物の面影のある幼子が目の前で砂遊びをしていたのです。
そして自身の身体に目を落としてみると、これもまた幼子の物でした。
これは、私の身体なのでしょうか?
恐らくそうなのでしょうが、私の意志に反した動きをしていることから、過去の私の記憶といったところでしょうか?
「それなら…このお方は!……イリア、様?」
間違いありません。私がイリア様のお顔を忘れるはずがありません!
「…あぁ、イリア様!」
私は再びイリア様を見ることのできた喜びと、イリア様を守れなかった悔恨など、様々な感情が湧き出てきて涙を流していました。
「………!?」
私が感傷に浸ってイリア様を見つめていると、途端に景色が変わりました。
そして次に私の前に映った景色は、あの悪夢の瞬間でした。
「!?これは……あの、時の!?」
気づけば私は、義父であるガイツおじさんに手を引かれて地下通路を通り、イルミダ城へと連れていかれました。
『ここまで来れば!……っ!?』
キィィン!
長い廊下の突き当たりまで辿り着いた時、死角になっていた場所から奇襲を受けました。幸いガイツおじさんが反応できてその攻撃を受ける事はありませんでしたが、攻撃してきた相手の顔を見てガイツおじさんは驚愕していました。
『お前は!?…何をしているのだ!!血迷ったか!!どうなんだ!!答えろ!!!』
『………』
ガイツおじさんがいくら声をかけても返事がありませんでした。
しかし少しすると、何かをブツブツと小さな声で喋り出しました。
『……コロスコロスコロスコロス、ニクイニクイニクイニクイ、コロスコロスコロスコロス、ニクイニクイニクイニクイ――』
『おい!どうしたんだ?いったい何があった!?』
その後はどれだけ声をかけても怨嗟のような言葉しか出さず、ガイツおじさんもここで時間をかけるのは得策でないと思ったのか相手を斬りつけました。
しかし、殺さぬように手足の腱を斬るに留めていました。甘い考えではありますが、それだけの実力を持っているが故だと知っているため、私は尊敬していました。
『どうなってるんだ!?なぜ騎士団の連中まで暴れている!?……いや、まずはイズン様を安全な場所へ避難させねば!!……!?またか!!邪魔だ!!どけえぇ!!!』
その後も襲ってくる騎士団の人たちを押しのけ、斬り倒し、時に斬り殺しもしつつ、ガイツおじさんは私の手を引いて進んでいきます。
そして城の最奥、玉座の間の奥にある隠し部屋まで辿り着きました。
ガイツおじさんはそこで私を緊急用の転移陣へと入れると言いました。
『イズン様、ここから先は一人でお逃げください。』
『え?…嫌だ!ガイツおじさんも一緒に来てよ!!』
子供の私の言葉にガイツおじさんは力なく首を横に振りました。
『それはできません。』
『なんで!?』
『その転移陣は緊急用の物で王家の血族の者以外は使用できないからです。』
『それなら僕だって使えないはずだよ!!』
『いえ、あなたは王家の血を引いております。ですので、イズン様お1人でお逃げください。』
『そんな!?そんなのって、ないよ!!』
私がいくら我儘を言おうとも、結果が変わることはなく私は一人で乗せられ、転移陣が起動しました。泣きじゃくる私に、ガイツおじさんは微笑みかけて言いました。
『イズン様。必ずイリア様も連れてまいります。ですので、向こうでお待ちください。……どうか、お元気で。………!?カハッ、グフッ!?』
最期の別れのように告げている途中で、ガイツおじさんの胸から剣の切先が突き出てきました。
『え?』
何がなんだかわからず、理解が追い付いていない状況の中、ガイツおじさんが倒れました。そして、その先には――
「あれは……イリア、様?」
私はあまりの光景にそう呟きました。
そこには剣を持って歪な笑みを浮かべたイリア様がいらっしゃったからです。
『なんで!?』
子供の私も同様に驚いていました。そして、
「『なんでガイツおじさんを殺したんだよ!!?イリア様ぁぁあ!!』」
私と子供の私が異口同音で叫んでいました。
そこで、私は発動された転移陣によりアルミダ星へと転移させられたのでした。




