第三十六話
雄一様がイズンの額に剣先を当てると、その姿勢のまま動かなくなりました。
10分ほど経過しても動き出す様子がないので、不安になりウリルに話しかけました。
「ねぇ、ウリル。雄一様は大丈夫なのかしら?ずっと反応がないようですけど。」
「正直わからないわね。さっきの会話からするとあの兵士の記憶を見てるんでしょうけど、悪魔の記憶を見たときよりも時間が掛かってるようだからね。」
ウリルはわからないと言いますが、不安や焦りは見られませんでした。
雰囲気からして、ウリルも雄一様のことを憎からず思っているようですが、それらの感情が見られないのはそれだけ雄一様のことを信頼しているからでしょうか?
わたくしもウリルのように信じて待つことにしましょう。
そう考えつつわたくしは動かなくなった雄一様を見つめ続けるのでした。
――――――――――
イズンの記憶を少しずつ読み取っていくと、俺はそのままイズンの記憶の海に潜りこんでいっていた。
(これって、大丈夫なのか?)
(ああ、今回は無理なく行くことができたみたいだなっ。これなら大丈夫だっ。そのまま相棒の知りたいことをイメージしろっ。そうしたら、それに関する記憶を見ることができるからなっ。)
悪魔の記憶を読み取った時とは違う現象が起きたため不安になってギール・アルガーに聞いてみると、今回の状態が正常らしかった。
そのまま俺は指示に従ってイメージしていく。
すると、いつの間にか閉じていた瞼の上から陽の光を感じたため目を開くと、そこにはまた別の街並みが広がっていた。
「ここは?」
(どうやら、アイツの記憶の中に潜り込めたようだぜっ。)
そう聞いて安心した俺は、イズンがどこにいるかを探した。
辺りを見回していると、子供が公園で遊んでいる姿とそれを遠くから見守る大人たちを見つけた。
「ん?…イズンはどこだ?」
(ん~。あの砂場で砂の城みたいなのを作ってるやつだなっ。)
俺が砂場に目を向けると、そこでは男の子を女の子が一緒になって砂の城を作っていた。
「え、そうなのか?…あー、確かに面影あるような感じだな。すぐ見つけるとかすごいな。」
(へへっ、そうだろそうだろっ!…まっ、アイツらの心を読み取っただけだけどなっ。相棒だってやろうと思えばできることだぜっ。)
「そうなのか?今度やってみるかな。」
俺がギール・アルガーを褒めると、なんか調子に乗ったようなことを言い出したが、俺にも同じことができるらしい。
心を読み取るとかなんかすごそうだからやってみたいけど、なんか怖くもあるからやるとしても人は選ぼうと思った。
だって仲のいいと思ってた人が実は……とかだったら、知りたくもないもんな。
(相棒っ。あっちの奴らの話、聞いてみようぜっ。なんか気になる情報持ってるかもしれねぇぞっ。)
俺がそんなことを考えているとそう提案されたため、子供たちから距離を取って話している人たちの話を聞きに行った。
『はぁ…何も知らずに無邪気なものね。』
俺が近づくと、3人いる大人たちの中で唯一の女性がため息とともにそう呟いた。
その人は上等そうな生地のローブを羽織っており、変装しているつもりのようだが貴族や豪商のようにお金をたくさん持っている家の人だろうということは容易に想像できた。
『女王陛下、それは仕方ありませんぞ。事実あの子たちは何も知らされていないのですからな。それでこれから先、どうするおつもりで?』
その女性の右側にいるスラリとした男性が、問いかけていた。どうやら、その女性はこの星の女王のようだ。
女王は少し考えるそぶりをすると答えた。
『イリアとイズン、互いに関する記憶を消して、イリアは王族として、イズンは平民の子として育てることにしましょう。その方が反乱も起きないでしょう。』
『そうですな。やはり、そうせざるを得ませんな。』
次に女王は逆側にいる背が高く、ガタイもいい男性に話しかけた。
『イズンの育ての親はガイツ騎士団長、貴方に任せます。』
『はっ。承知いたしました。この命に代えましても。』
そう言うと、ガイツと呼ばれた男性は女王に対して、スっ、と頭を下げた。
『イズンのこと、頼みますね。イルミダ星のためとは言え、兄上の子息を王位から外さなくてはなりませんからね。例え兄上が大罪で処刑されたとはいえ、その子息まで罪があるわけではありません。ですが、それが余人に知れると、また要らぬ諍いが起きかねないですから。』
女王がそう言って城のある方へと歩きだすと、2人ともその後に続いて去っていった。
俺は、去っていった3人を見送ると、その場で立ち尽くしていた。
頭の整理が追い付かず、少しの間フリーズしていたのだ。
しばらくして、頭の整理ができた頃、俺は「……マジか。」とだけ反応したのだった。
女王たちが、去ってしばらく経った頃。
(つまんねぇ反応だなっ。)
ギール・アルガーがそんなことを言ってきた。
「なんだよ、急にさ。」
(いや、相棒よぉっ。その反応はつまんなすぎるだろっ!何が「マジか。」だよっ。もっと違う反応があるだろっ?)
「いや、まあそうだけどさ。なんかいろいろありすぎて逆に反応できなくなったんだよ。だって、イズンが王族関係者でイリア王女とは従兄妹同士、それに加えて実父は大罪人で処刑されたとかさ。……あいつ過酷な運命を背負い込み過ぎだろ!?」
俺はギール・アルガーと会話しているうちに、さっきまでの様々な思いがぶり返してきてそのまま叫んでしまった。
俺が叫んだ後、我に返るとギール・アルガーがニヤついているような雰囲気を感じた。
「なんだよ?」
(くくっ。…別に何でもねぇさっ。ただ、オレが望んだ反応してくれたからよっ。ごちそうさんっ。)
そう言われて、なぜか急に恥ずかしくなった俺はそのまま口を閉ざした。
「……っ!?」
少しして、急に景色に靄がかかってきた。
俺が急な変化に警戒していると、声をかけられた。
(大丈夫だぜっ。これは、次の記憶へと向かう際に起こる現象だからなっ。特に危険なことはねぇよっ。)
ギール・アルガーがそう言うので構えだけは解いておいたが、もしもの時のために警戒だけはしておいた。




