第二十六話
俺の目の前には漆黒の巨人が玉座に掛けていた。
その巨人の目が紫色に光ると、立ち上がり口を開き、話し出した。その口の中も紫色に光っていた。
『生まれたか。デミル、それがお前の名前だ。』
『デミル…私の名前は、デミル。』
『そうだ。デミルよ、オヌシにはワレのために闇の力を集めてもらう。手始めに星を支配してくるのだ。』
『畏まりました、主様。必ずや、その期待にお応え致します。』
その会話の後に視界が切り替わった。
そこには見たこともない街並みが広がっていた。
時刻は昼頃だろうか。日が照っており、人々が行きかっていた。
みんな笑顔で話し合っており、平和そのもののような風景だ。
「ここはどこなんだ?俺は何を見せられてるんだ?」
(まあ、やつの記憶ってとこだろうなっ。)
「え!?…お前もいたのか。」
(あぁ、そうだよっ。相棒が不用意にやつの頭にぶっさすから、俺も一緒にまきこまれたってわけだよっ!)
「あ、そうなのか?なんか…ごめんな。」
(まったく…で、とりあえず相棒はこいつの記憶を把握するまではここから出られないからな。……安心しな。ここは記憶領域だ。現実よりも数千倍の速度で回ってるから、時間がかかっても数分くらいだろうよっ。)
「そうなのか。教えてくれてありがとうな。」
(へっ。)
ギール・アルガーはそう返事すると、それ以降反応しなくなった。
俺はギール・アルガーの言うようにこの記憶を見ることにした。
他にやることがなかったとも言うが。
『きゃあああ!!』
『おい!どうした!?』
『私の夫が!!?いやああぁぁぁ!!!』
『誰か!!衛兵を呼べ!!!』
再び目を向けると、女性の悲鳴が聞こえた。
どうしたのかと思いそちらに目を向けてみると、ナイフを持った男性がそれを振り回して、女性の隣にいた男性の首を斬り落としていた。
いきなりの殺人に驚いてナイフを持った男性を見てみると、うっすらとデミルの影が見えた。恐らく、デミルがその男性に取り憑いてやったのだろう。
そのままその男は暴れ続けて、衛兵が来るまで止まることはなかった。
衛兵に取り抑えられて大人しくなったが、今度は衛兵の1人に取り憑いて暴れ出したのだ。
『おいっ!どうした!?…ぐはぁっ!?』
『こいつも取り押さえろ!!……は?急に大人しく?……がぁ!?』
『これはいったいどうなってるんだ!?』
『わからない!暴れるやつは衛兵も構わず取り押さえていけ!!この際そいつらの生死は問わん!!全滅よりはマシだ!!』
それからも同じようなことが続き、しばらくするとそこにはデミルが最後に取り憑いた衛兵以外は死んでおり、広範囲に血だまりが出来上がっていた。
『くっくっく。このままこの星の生存者を全て殺せば、支配は完了いたしますねぇ。』
デミルは取り憑いた身体で不気味に笑いながら、どこかへ向けて歩き出した。
そしてまた、視界が切り替わった。
今度は玉座の間だ。だが、最初に見たような巨人の玉座の間ではなく、通常のサイズだった。
『やっと、支配完了いたしましたかぁ。支配に2年ですかぁ。初めてにしては出来た方かもしれませんねぇ。それでは、主様の下へ戻りますかぁ。』
デミルがそう言うと、また視界が切り替わり、最初に見た空間へと変わった。
『戻ったか。デミルよ、首尾はどうだ?』
『はっ!主様からご命令頂きました星の支配、完了いたしました。』
『ほう。ずいぶんと時間が掛かったようだが、何があったのだ?』
『はっ!星の生存者を全て滅ぼすことで、支配いたしましたので、時間が掛かってしまいました。申し訳ありません。』
『そうか。ならば次は、生存者を半数以上残した状態での支配を目指してみよ。』
『かしこまりました!……やはり、全滅させるのはよろしくなかったでしょうか?』
『そういう訳ではない。ただ、次も同じやり方だと面白くないであろう?1つの余興と思えばよい。』
『そうですね。さすが主様です!それでは次の星はそのようにできるよう取り組んでいこうと思います。』
『うむ。そうするが良い。次はイルミダ星の支配をしてくるのだ。』
『かしこまりました。主様。』
その会話が終わるとともに、この場所から遠ざかっていく感覚に襲われた。
「これは……あの巨人が黒幕でいいのか?」
(だなっ。恐らく他の仲間はいないだろうぜっ。いたらそいつの情報も上がるからなっ。)
「そうなのか。まあ仲間がいたら、とどめを刺す前に妨害してきてるか。……なあ、イルミダ星って……イズンの故郷の星、だよな?」
(そうだなっ。あそこにもやつが絡んでたみたいだなっ。)
「ああ…なんとなくだけど、イズンの行動にも納得いったな。」
(そろそろ、現実に引き戻されるぞっ。)
その言葉とともに、俺の意識はここから切り離された。
そして、現実に意識が浮上する前に俺は思い返していた。
(デミルの考えてることと言ってることが逆だったけど……)
そう…デミルは、人を殺す時や支配を終えたとき、あの巨人と話している時でさえ思考と言動が一致していなかった。
人を殺した時、『俺はなんてことをしているんだ!?誰も傷つけたくないのに!誰も殺したくないのに!!…ああ!?やめてくれ!これ以上俺に殺させないでくれぇ!!』
支配が完了した時、『この2年で俺は何人殺してきた?もう数えきれないくらいに殺してしまったよ。星の支配?そんなのどうでもいい。どうすればこの罪は償える?…もう死にたいよ。終わりにしてくれよ…』
支配後に巨人と話している時、『ふざけんなよ!?俺は誰も殺したくもないのに、なんでこんな事させるんだよ!!…もう、辛いんだよぉ。終わりにしてくれよぉ。頼むから………は?次!?嫌に決まってるだろうが!!やめろよ!!もうお前を殺してしまえば、終わらせられるか?死ねよぉぉ!!…くっ!…なんでこの身体は俺の言うことを聞かないんだよ!?クッソォォ!!!』
全てではないが、デミルはこんなことを考えていた。
正直、デミルがなぜこんなことを考えていたのかが謎過ぎる。
(あれはなんだったんだ?…もう聞くこともできないんだけど、すげぇ気になるな。)
そうして、俺の意識は現実へと戻っていった。




