第十八話
俺は中空からアリシア達を見続けていた。
(俺って…何のためにここにいるんだろうな。向こうで生きる意味が分からずこっちに来たのに、役目が終われば向こうに帰らされるらしいし、挙句の果てには助けると決めた人に殺されてやがるしよ。)
そうやってこれまでのことを自虐気味に振り返っていると、沸々と怒りが込み上げてきた。ただ、この怒りが誰に向けられたものなのかわからず、それも俺の心を逆撫でしているようだった。
(もういっそこの場の全ての者を殺すか。この収まりのつかない怒りの矛先としてだけでもこいつらに役立ってもらうとするか。(っ!?俺は何を考えてたんだ!?確かに怒りはあるけど、それをここに向けるのは違うだろ!!どうしちまったんだ!?)それじゃあ殺す前にもう一度その顔を拝んでやるとするか。)
俺の心が何かに支配されたのかと思うくらいに、自分で思ってもいないようなことが勝手に頭の中に浮かんできた。
そしてその思考に操られるように、俺の思念体のようなものの視点がアリシア達に近づいていった。すると…
(え?わたくしは今何をしているのでしょう?なぜわたくしは雄一様を刺して!?いや!いや!!いやぁぁぁ!!! 雄一様を殺したくなかったのに!!なんで!?どうしてわたくしの身体なのに動かせないの!?誰か助けて!!雄一様を助けてよぉぉ!!!)
アリシアの身体の内側から、アリシアの声で悲痛に叫ぶ声が聞こえてきた。
俺は瞠目した。
なにせ俺を刺しておいてこんなことを言っているからだ。
(アリシアは俺を裏切って殺したんじゃないのか?何が殺したくなかっただよ!そんなの信じられるかよ!!……でも…アリシアの言葉に嘘がなかったんだよな。じゃあ、あれはなんなんだ?)
アリシアは俺の身体を見ながら笑い続けているのだ。その状態のアリシアからそんな言葉が聞こえてくるなんて、どう考えてもおかしい。ただこれまでのことから、なかなかそのままに信じることができないでいた。
(どっちがアリシアの本心なんだ?でも、この感覚は向こうの世界でも感じることができていたものだ。まあ、ここまで強く感じたりはしなかったし、だいたいが嘘を吐いているときに感じてたんだよな。)
俺がそう考えていると、またアリシアの中から声が聞こえてきた。
(例え、わたくしの意志による行動でなくともこのようなことがあっていいはずがありません!わたくしの都合で呼んだお方を、わたくしの手でなんて。)
(っ!やっぱりアリシアが望んで俺に手をかけたわけじゃないんだ!!なら、助けないと!!(本当にそうなのか?また裏切られて終わるのがオチだろ?もうそんなのこりごりじゃないか。こいつも他の奴らと一緒に殺してしまえば全てが収まるだろうが。な?そうしようぜ。)……うるさい!…さっきからお前うるさいんだよ!!なんなんだよ。何様のつもりだ!俺はもう助けるって決めたんだ!それでまた裏切られても、気にしないよ。信じて裏切られるより、見捨てる方が俺には辛いから!)
そう思っても今の俺には何もしてやれることがないことに変わりない。
どうしたものかと思っていると、状況に変化が起きた。
「ねえ、あんたの目的は何なのよ!?その英雄が目的ならもう終わったんだからアリシアを解放してあげてよ!!!」
「返すわけがないだろぉ?お前は馬鹿かぁ?このままこの星もあの星も私の支配下にするのだからなぁ。………くくっ、くふっ。くはははっ。きゃはははははっ!」
突然、向こうの王女が叫び出した。
そしてアリシアがこれまでと全く違った口調で話し始めて、狂ったような笑い声をあげた。
とても戦争を仕掛けてきたやつと仕掛けられたやつのセリフとは思えないため、俺は混乱した。
(どういうことだ!?こいつは敵じゃないのか!?なんでアリシアのことを心配してんだ?今の状態を傍から見たらアリシアが悪者みたいだな。)
ウルミダ星王女がアリシアを心配して助けようとしている状況に理解が追い付かずに現実逃避気味に考え事をしているとウルミダ星王女が小剣を構えた。
「くっ!出ていきなさいよ!それはあんたの身体じゃないのよ!!アリシアを解放しなさい!!」
「いいのかぁ?この身体はこいつのものだぁ。お前が傷つけても傷を負うのはこいつだけだぁ。私には傷1つできないぞぉ。私はそれでもかまわないけどなぁ。また次の身体を探すだけだしなぁ。」
「くっ!どうしたらいいのよ!?アリシア…ごめんなさい……」
しかし、アリシアの発言によりウルミダ星王女が小剣を下ろしていた。
そして悔し気にアリシアに謝罪している。
そのやり取りを見て俺も何となくではあるが、今の状況を把握できた。
(これってアリシアに何者かが取り憑いているってことなのか?だから剣を向けながらもアリシアの心配をしていた?…わからないなぁ。直接確認したいけど、俺はもう死んでるしどうすることもできないのかな?)
状況を理解したところで現状を変えられるわけでもないことを思い出して無力感に打ちひしがれて、現状打破のためにできることを考えていると、
「くくっ、そうだろぉ。お前にできることなどぉ、ないのだからなぁ。くはははっ。………さて、そろそろお前も用済みだなぁ。死んでもらおうかぁ」
そう言ってアリシアに取り憑いた何者かが、ナイフを俺の身体から抜いてウルミダ星王女に向けて歩み寄っていった。
その時また、アリシアの声が聞こえてきた。
(いやあぁぁ!!ウリルを殺さないでえぇぇ!!!なんで!?なんで身体を動かせないの!?やめてえぇぇぇ!!!)
アリシアの意識自体は常にあるようで、体を動かせないことへの焦りとウルミダ星王女を殺すことへの恐怖を感じているようだった。
(っ!?アリシア!!…くそっ!!!こんな時でさえ俺は無力なままなのかよ!!それじゃあ、俺の命には本当に何の価値もないようなもんじゃねえか!!いいわけねえだろ!!そんなの絶対に許さねえぞ!!クソガアァァァァァ!!!)
どうしようもないことに対して俺の心は、怒りが沸き上がってきた。
そしてその怒りは、1つの意志を持っているかのように暴れ出して俺自身にも抑えられなくなってしまった。
(ぐぅぅ!ぐわあぁぁぁぁぁァアアアアア!!?があぁぁぁぁァアアアアアア!!!!………っ!?)
俺が今の状況や自分の無力さに対する怒りを暴走させていると、不意に包み込まれるような安心感のような感覚に満たされ驚きとともにその暴走も収まっていた。
不思議に思って辺りを見渡すと、俺が持っていた武器であるギール・アルガーが溶けだして俺の身体全体を覆うように広がっていき、そのまま体に浸透するように消えていった。
それと同時に浮いていた俺の思念体も光る何かに包まれたのだった。




