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綺羅綺羅と  作者: 叶 葉
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綺羅綺羅と

大昔にBL小説を書いていたHPから引っ張ってきました。

多少加筆修正しましたが、ほぼ当時のまま載せます。

悪霊退散ーーーーー!!!






今年も冬は訪れる。

出会ったことに後悔なんてしていない。


あの時、手を放してしまったことに後悔するだけ。

今でも思い出すぐらいなら………。

死んでも手放すんじゃなかったと……。


後悔してるだけ。







「芙美!お待たせ。結構待っちゃった?」

「全然。俺も今来たところだから」

走ってきたのか息の荒い俺の彼女、美智留の髪を梳いてやる。

「ぼーっとしてたみたいだけど、どうかした?」

こんな彼女の思いやりが嬉しい反面、申し訳ない気持ちになるのはきっと冬の所為だと思う。

「何でもないよ。それより、今日はどこに行こうか。イヴだからどこも混んでるって思うけど。」

考え込む時の、美智留が眉間に皺を寄せ顎を掻く癖が好きだ。

「ドライブしよう!山とか行ってみたい」

「イヴの日に?」

そうよ、と自慢気にほほえむ。可愛いと思う。

でも、俺がこんな冬の寒い日に懐かしむのは、きっとこんな幸せなやり取りじゃなく、いつまでも消えない彼との思い出なんだ。

今も………。












受験シーズン真っ只中。

高3の俺、樋口 芙美は就職組なので関係ない。幸い夏の時点で親戚の持つ会社に就職が決まっていたので12月の今、することもなく俺は図書館で暇を潰していた。

閉館時間間近になり外へ出た。

吹き付ける風に目を瞑り身を捩る。

うっすらと眸を開いた先に綺羅綺羅と雪が舞いだす。その、舞う雪の中に一際輝く少年が立っていた。

綺羅綺羅。

美しい。

少年が俺に気付き、こちらを向く。

ふわりと笑顔が雪に舞う。綺羅綺羅。

一瞬で恋をしたと思う。

「あのっ……!」



彼、久遠 深との出会いにより男になんかまったく興味のなかった俺が一気に彼に染まった。

瞬く間に綺羅綺羅と輝く光にのまれる感覚はなんとも新鮮だった。

「男を堂々とナンパするなんてすげぇ度胸」

っていって再び笑むと名乗ってくれた深に俺は慌ててこういった。

「ナンパじゃなくって、純粋に久遠くんに引かれたんだ。友達になって」

「俺はナンパの方が嬉しかった。芙美のこと気に入っちゃったから」

お互いに一目惚れだったと知って凄く嬉しくって。深に抱きついたのを覚えている。

深は、最近この町に親の都合で引っ越してきたんだそうだ。俺と同じ高校の2年だというのを知った時は驚いた。

そんな深とは翌日から学校の中でもずっと一緒に居るようになった。

離れていると頭がおかしくなりそうだ。

一緒に居ることが必然なんだというように。

好きすぎて頭がおかしくなるんじゃないかって何度も思ったし、妄想だってことはわかっていたけれど俺が見ていない間に他の奴にとられたらって思うと、物凄い嫉妬で頭が狂いそうだった。

そんな俺を嫌な顔せずに、しょうがない奴って笑う深の顔が、大好きだった。

だから、この幸せに終わりがあるなんて思いもしなかった。

いや、考えないようにしていただけなんだ。

その時は意外と呆気なく起こって、簡単に終わった。切なさなんて感じる間もないくらいに。

その後に、

ああ、こんなに愛していたんだと思い知った冬。


出会って幸せな一週間。

深の変化は既に出始めていた。




とても、寒い日だったと思う。


「コーヒーで良かった?俺これからバイトなんだ」

学校帰りに公園に寄って二人で一服した。

「バイト?なんでそんなのするんだよ」

二人の時間が減るだけじゃないか。

「クリスマス何が欲しい?二人で初めてのクリスマスなんだから豪華に行こうよ。だからそれまで頑張るんだよ」

単純に、その時の深の言葉が嬉しくって深の腕に気が付かなかった。

どうして高校生がそんな高そうな時計なんか着けられるんだろうなんて微塵も思わなかった。

その時気付いていたとしても変わらなかったかもしれないけれど。

「じゃあ俺も深の為にバイトするよ。二人ですればいいじゃん」

「いいよ。俺が芙美の為にしてあげたいから」

笑う深に偽りはなかっただろうか?

もう思い出せない。










「芙美?大丈夫?」

冷や汗が伝い、ハンドルを握った掌に汗をかく。

はっと我に返り、青褪めた表情を取り繕うように美智留に尋ねた。

「大丈夫だよ。こっちの方面でいいんだろ?宮ヶ瀬越すまでは時間かかると思う。イルミネーションで有名だから毎年混むんだよ」

「どうでもいいけど安全運転よろしくね」

「はいはい、安全運転心掛けて参ります」

美智留が笑う。それはとても優しいほほえみで、凄く愛しいと思う。










「明日、イヴだね。俺免許とれたから車出すからドライブしようよ」

『なんだか芙美の運転って不安だなぁ』

笑う深の声が受話器越しに聞こえた。

「信用ないなぁ。明日、いつもの公園の前で待っててよ。深、愛してる。おやすみなさい」

『俺も。また明日』

本当に幸せだった。



翌日、晴れた時は本当に嬉しかった。

少し早めに公園に着くと、既にそこには深が居て。青ざめた表情が少し気に掛かった。

「深、待った?」

助手席の窓を開けて深を呼ぶ。

「……いや、全然。今日どこに連れてってくれるの?」

助手席に乗り込みながら深が聞いてくる。深の顔にはいつもの赤みはなく、真っ白だった。

「ん、宮ヶ瀬ダムの辺り、イルミネーションが綺麗なんだ。行ってみようよ」

「芙美と一緒なら、どこでもいいよ」

そう、深は言ったっきり話さなくなってしまい車内を沈黙が占めた。

単純に寒さのせいで震えているのかと思い、深の手を握りしめる。

「深。愛してる」

「俺も……」

ちらっと横を見ると深が泣いていた。

丁度、国道246号線を降りたところだった。少し行ったところにコンビニがあったので車を停める。店内に入りホットのお茶を2本買って車に戻る。


急に出ていった俺を心配そうに見ていた深に笑い掛ける。

「なんか今日嫌なことでもあったの?」

「なんで」

「だって深泣いてた」

「なんでもないって。俺、ドライアイだから」

やっぱり笑う顔は痛々しいんだけど。

埒が開かないので車を走らせる。

暫らく車を走らせるとカーブの多い山道に入る。

「やっぱり泣いてんじゃん」

無言の深を隣に乗せて、こんなはずじゃなかったのにと溜息を吐くと酷い渋滞にはまる。


「芙美」


不意に名を呼ばれ、前方から視線を外さずに、無言で深の次の言葉を待った。


「俺を誰にも見つからない山の中に捨てて…………」

「えっ…?どうしたの!深、本気で今日はどうかしてるよ?!」

すぐ様、深の方へ顔を向ける。

眸にたくさんの涙を溜めた深。

連なる車の列がじわりと動いた。

後方車のクラクションに、深の意味不明な言動に促されるようにアクセルをじわりと踏んだ。

車は徐々に山奥へと入っていく。

左手にはダムが見え、その奥には暗い山が連なっている。

「俺」

なんだかその先は聞きたくない。

「待って、深!!もういいよ。俺、その先は」



聞きたくない。









「俺、人を殺した」












けたたましいクラクションの音で我に返る。

「芙美!!渋滞アンタが作ってどうすんの!?早く出発させなきゃ。こんな狭い道路じゃ迷惑だよ」

美智留に謝り急いで車を発進させる。完全に意識が飛んでいた。

ここ一帯には思い出がありすぎる。

なんでここに来たのか……いや、これた神経を疑いたくなるくらい。

目的地までは高速を使う経路だってあった。わざわざこの下道を通る必要なんか無かったのに。

「ねっなんだか芙美疲れてるみたい。ここからツリー見えるし、山中湖まで行くんなら先は長いしちょっと休憩しよう」

半ば無理矢理車を停止させられる。

停まった場所に再び吐き気が襲う。

なんでまたここなんだ。

そこは、

俺が人生で一番の後悔を味わった場所。

何故ここに?

まるで導かれるように、見えない者の意思を感じてしまう。


深の幻影が、舞う雪の中。ゆらり。

ゆらりと手招きをする。

綺羅綺羅。

矢張り輝く笑顔を。

真っ白な顔に貼りつけて。

俺の所為じゃない。

弱かった深の所為。

解っているけど後悔するのは何故なんだろう。

何故―――。










「このまま……帰って。愛していたと……」

覚えておいて欲しい。

トロトロと渋滞にはまりながら走る俺のワインレッドの車のドアを深が開け放つ瞬間にシートベルトを外していた。

「深―――!!」

刹那、深は真っ赤な濃いワインレッドから半身を乗り出していた。普段なら真っ暗で先も見えないはずの暗闇はクリスマス気分に浮かれたヘッドライトやらテールライトやらの光、色とりどりの遠くのネオンで幾分明るかった。そんな中にトロリと飲み込まれるように深は消えた。

行先はダムの仄暗い水の中。

俺は直ぐ様車を停めてガードレールにみを乗り出し水面を懸命に見た。

さっき深はどこで転げ落ちた?

落ちた場所は分かっているのに当てがなく感じるのはきっとさっき深の冷めた視線を感じた所為だ。

あんな眸、一度だって俺に向けたことなんてなかっただろう?

深。

何とかいえよ。

「シ―――…ン!!!」

あんなに車内からでは明るいと思った暗闇が、いざ中へ入ると酷く暗く感じた。周りが明るい分、余計に自分を鋭利に際立たせる。

その時、俺は漸く自分が独りきりだったという事実に辿り着いた。

何も。

解ってあげられていなかったじゃないかと―――。

後続車が呼んだであろう、警察や救急車、消防隊。

クリスマスムードは一気に喧騒に飲まれて行った。

俺は、放心しながらも、警察の聴取に従い、深が無事に帰って来てくれる事を祈った。

しかし、夜という事も災いし、夜通しの捜索も虚しく朝を迎えた。

辺りが白み始めた頃、余りの顔色の悪さに、休むように救急隊に告げられた。


俺はふらり、ふらりと車内に戻った。

泣くことも、進むことも、戻ることも出来ずに俺はエンジンをかけることもしないままに只惚けて朝を冷えきった車内で迎えた。

凍てつく寒さに、

何となく。

あぁ、深は死んだなとその事実だけを受けとめた。

―――ふと。

視線を落とすと助手席に綺麗にラッピングされた小さな箱が転がっていた。

綺羅綺羅。

シルクの光沢のかかったクリーム色のリボンが虚しく箱を纏めあげ誇らしげに輝く様は、深そのものだ。と思った。

焼け糞気味に箱をとり、するりと深みたいなリボンを解く。

小箱の中身は、溢れんばかりに詰まった錠剤に埋まったシルバーリングが一つ。

箱の中身で容易く理解する。

なんだ、タマか……。こんなくだらないものに簡単に愛する人を奪われた。全て納得した。

その頃、割りと簡単にクラブやなんかで手に入ったタマを見せびらかしてきた同級生がいた。

同席していた何人かの友人も当たり前にどこのプッシャーが良いだの話していた。

大人びたい年齢の子供が簡単にハマるイタイ遊びだ。

何とは無しに聞き流していた時はその程度の感覚だった。

身に付けてた高級すぎる時計も。

多分真実なんだろう、人を殺したと言った後のおかしな行動も。

俺はやった事がないから分からないんだけど、多分あれは落ちてた時だったんだ。

キマッた時に殺して、落ちた時に死んだ。

深は多分、高額な値段に引き付けられて法外なバイトをしてたんだ。

ちょっとヤバくて儲かる遊び。

多分そんなかんじ。


多分ばっかりで涙が出た。一番それが痛かったし、

―――辛かった。










「芙美!芙美くん!!どうしたの?」

涙が頬を伝う。

ネオン。

ヘッドライト。

テールライト。

綺羅綺羅。

雪がちらつく。

深が舞い散る。

綺羅綺羅。

「……美智留?何も言わないで聞いて」

過去を清算なんて出来るのだろうか。

今だに分からないし、これからも試そうとは思わないと思う。

ぽつり、ぽつりと美智留に話しながら俺は切り出された記憶を再び反芻した。

―――今年。

隣で泣くのは彼じゃない。

おまけに涙の理由も違う。とても、俺は素晴らしい人に巡り合えたと思う。

他人の為に涙を使える人。彼は………。

何に涙を使っていたんだろうか。

分からないし、分かりたくもない。

「芙美くん。今年はお墓参り私を連れていって」

墓参りなんて。

行ったこともなかったけど俺は無言で頷くしかなかった。

只、

「消えないで」

と、美智留に縋り付き泣きながら。


目的地は大分先なのに俺と美智留はエンジンを切った車内で数年前と同じ状況で、今度はちゃんと泣いて過ごした。

悔しいな。

まだ彼が消えないよ。美智留はそんな俺でもいいといった。

愛しているからと。

漸く明け始めた空に向かって白い息を吐いた。

そして思った。

埋もれる恋はこれっきりにしようと。

綺羅綺羅輝く俺だけの人はこの世に一人で十分なのだと。

モノクロに差し始めた朝の極彩色の光は、綺羅綺羅と助手席の美智留を照らしだした。

あの時出会った少年のように光り輝きながら美智留は腫れた眸で俺を見つめてほほえんだ。

愛しているよと返してやると漸く静かに眸を瞑る。


また、雪がちらちら舞いはじめた。



ちらちら。



綺羅綺羅。



地面を白く染めて。



ちらちら。



綺羅綺羅。















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