命の期限3
クレアは周囲を警戒しながらもレイの様子を盗み見た。
体調が悪化しているらしく、血に濡れた顔は真っ青だ。
両手を体の前で拘束されていて、その手首には鉱石術を封印する魔具が装着されている。
一刻も早くレイを助けなければ。クレアは元凶たるルベンを鋭くにらんだ。
「いい加減しつこいわよ! こんなことをしている暇があるなら、魔獣を一体でも多く倒したらどうなの!」
「枢機卿の命令で、どうしてもこいつを捕らえなければいけないんだ。まあ、命令がなくても、俺はこいつを捕まえるつもりだったが」
「なんですって?」
胸騒ぎがして、柄をにぎる手袋がぎしりと軋んだ。
「あれから俺も鉱石人を調べた。すると千年前にも鉱石人は出現していたんだよ」
ルベンは口元を綻ばせて、レイを見下ろした。
「千年前にも一度世界は荒廃し、増えすぎた魔獣が生命を蹂躙していたという。いままさにこの世界で起きている現象と同じだと思わないか?」
「レイに何をさせるつもりなの」
クレアの声が低くなる。
ルベンは意味ありげに微笑んだ。
「彼は救世主だったんだ。女神フォルトゥナが遣わした天使。世界を救うためだけに存在する兵器だよ」
ルベンは苦しげに呼吸を繰り返すレイの背後に立って、レイの右腕に触れた。
するとレイは目を見開いて、激しく抵抗した。
「触らないでください!」
「こっちか」
「嫌だ! クレアには見せないで!」
ルベンは逃れようとするレイの首に腕を回して押さえながら、左腕の袖を引き千切った。
クレアはその光景に驚愕した。
「レイ、その腕」
レイの左腕には、皮膚を侵食するように青い魔鉱石がびっしりと生えていた。
魔鉱石の街灯に照らされた腕は、きらきらと輝いて残酷なほどに美しい。
「見ないで、クレア」
レイはクレアの視線から逃れるように深くうなだれた。
垂れ下がった前髪の奥から、ぽつぽつと雫がこぼれ落ちている。
「調べたとおりだ」
ルベンは魔鉱石化した腕を見て嘲笑う。
「この魔鉱石が完全に体を覆いつくした時、強力な鉱石術が強制的に発動して自爆する。そしてこいつは世界中の魔鉱石や魔獣、魔力を吸収し、強制的に女神へと還元する。こいつが他人の魔力を吸い取れる理由はこのためだ」
クレアは信じられない話に、緩く頭を振った。
「自爆って何なのよ……そんなこと、いきなり言われても……レイはどうなるの!」
声が震えた。
ずっと一緒にいられると思ったのに。そう信じて疑わなかったというのに。
レイは私を置いて行くの?
絶望のにじんだクレアの悲鳴に、レイはびくりと体を震わせるだけだった。
沈黙は答えだ。
ルベンは慰めるようにクレアを見つめて言った。
「遅かれ早かれ、これは死ぬ運命なんだよ、クレア」
「黙れ!」
クレアは事実を否定するように叫んだ。
けれど頭の片隅で「冷静になれ」と声がする。




