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対決5


「きみにそんな顔をさせるなんて……その容姿でクレアをたぶらかしたんだな? 冷静になるんだクレア。そんな化け物に騙されるな!」

「無知な私を騙していたあなたの助言は重いわね」


 レイがクレアの手首を拘束していた魔具を破壊すると、せき止められていた炎がクレアの足元から噴出して、上体を起こそうもがいているルベンを吹き飛ばした。


「うわぁぁっ」


 ルベンは床を転がりながら、体を炙る炎を水の鉱石術で消した。

 加減などしている暇もなかったのか、全身がずぶ濡れになっている。

 ルベンはクレアの背後で燃え上がる炎を見て、怯えたように言った。


「クレア、やめてくれ……」

「レイを侮辱するな。次は容赦しない」


 ごおっと音を立ててうねる炎に、ルベンはぐっと押し黙るしかなかった。魔力を奪われ、さらに水の鉱石術を発動させたことで完全に身動きがとれないようだ。


「紳士ならば彼女の新たな人生を祝福するべきですよ」

「黙れ! それで勝ったつもりか!」


 ルベンの目は血走り、レイに噛みつくように怒鳴った。


「レイ、放っておきなさい」

「そうですね」


 クレアが扉を開くと、家の前には村人たちが集まって来ていた。

 彼らは緊迫した様子でクレアたちにつめ寄った。


「ふたりとも大丈夫!? 言い争う声が聞こえたわよ!」

「私たちがあの人を案内しちゃったせいよね? 本当にごめんなさい! 私たちも戦うわよ!」


 女たちは鍬を手に鼻息を荒くして言った。男たちは剣や槍を持っている。

 本当に良い人たちに出会えたと思う。できることなら、ここに住み続けていたかった。

 さて、どう別れを告げようか、と頭を悩ませていると、レイがクレアの肩を軽く叩いて「僕に任せて」と悪戯っぽく笑った。


「みなさんに真実をお話しします。僕とローズがこの村にたどり着いたその理由を」


 レイは、グロリアの演説の時と同じように凛と声を張って、家の中でうつ伏せで倒れているルベンが見えるように体をずらした。


「彼の名はルベン。かつてはこのローズの婚約者でしたが、ローズ以外の女性と関係を持ち、ローズを手酷く裏切ったという過去があるのです。しかもこの女性というのはローズの親友。ローズは婚約者と親友のふたりに裏切られたのです」


 レイが沈痛な表情で語ると、村人たちは憤った様子でざわりと騒がしくなった。

 エテルナは姦通罪や伴侶への裏切りの罰がもっとも重いのだ。


「そして彼はいまでも複数の女性と関係を持ちながら、彼女たちとの縁を切ったと嘘をついて、もう一度ローズをものにしようとするケダモノなのです」

「さ、最低!」


 女たちは鍬を持ち上げて、怒りに震えている。

 ルベンは部屋の中で必死に頭を振る。


「さらなる真実を暴露しましょう」


 レイは一度ことばを切って、その美貌に憂いをにじませた。


「僕は、この人の息子なのです」

「えぇぇぇぇ!?」

「はぁぁぁぁ!?」


 村人とルベンの絶叫が空に響き渡った。

 クレアも何を言い出すのかと目を丸くした。

 クレアを運んでくれた馬だけが、のんびりと草を食んでいる。


「僕は愛妾の子であるため、この国の法律では跡継ぎにはなれません。捨てられた僕は父に裏切られた傷心のクレアと出会い、あちこちで生まれたであろう僕の兄弟たちを探す旅をしていたのです」

「な……」


 村人たちは絶句した。


「あちこちに生まれた?」

「兄弟たち!?」


 武器を手にした村人たちの怒りが集中し、ルベンは顔を青ざめた。


「ち、違う! そいつのでたらめだ!」

「ほら、あんな風にあの人は僕を息子とは認めてくれませんでした。でも僕にはローズがいます。だから僕たちはもう一度旅に出ます。彼に捨てられた兄弟たちのために! みなさん、いままで親切にしてくれて本当にありがとう!」


 レイは感謝を伝えて、切なく微笑んだ。同情を誘う見事な演説だった。村人たちはクレアとレイの多少ねつ造された過去を信じて涙ぐんでいた。


「クレア、僕につかまって」


 レイに囁かれて、クレアはとっさにレイに抱きついた。

 するとレイの背中に再び美しい羽が生えた。

 羽が力強く上下に動くと、クレアの体が浮いた。


「うわ!」


 レイの首に腕を回してしがみつくと、レイの手がクレアの背中と膝裏に差しこまれて、いわゆるお姫様抱っこの状態で宙に浮いた。


「さようなら」


 レイが別れを告げると、レイはクレアを抱えた状態で勢いよく空に舞い上がった。

 誰かの「天使」という恍惚としたつぶやきは、風の音にさえぎられた。


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