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対決3


「少し前に」


 ルベンはレイに視線を向けながら切り出した。


「教団に盗賊が侵入したという報告があった。教団側は何も盗まれていないとしらを切ったが、監禁されていた少年の存在を突きとめた」


 ルベンは騎士団長としての職務はこなしていたらしい。


「それは天使と呼ばれた銀髪に碧眼の美少年だと言う。いいかいクレア、これは見目がいいし人間のふりをしているが、俺たちとは違う化け物だ」


 いまさらすぎて、クレアは呆れてしまった。


「鉱石人でしょう。そんなこととっくに知ってるわよ。この子、狂っていたもの」

「恥ずかしいですよ、クレア」


 照れくさそうにするレイに腹が立ったのか、ルベンの眉間に深い皺が刻まれる。

 怒りに満ちたルベンの顔を、クレアは初めて見た。

 しかし、さすがに騎士団長を務めているだけあって、その表情に冷静さがもどった。


「クレア。もうこんな生活はやめたほうがいい。いずれ破綻する」

「あなたや教団が嗅ぎ回りさえしなければ平穏に暮らしていたわよ。それにいまさらどんな妨害があろうと、私はレイと一緒に生きる」


 ルベンはふっと不敵に笑って、うなずいた。


「そうか。だったら俺も選ぶ」


 ルベンの手が素早く伸びて、クレアの左手首に硬い何かが装着された。

 しまった、とクレアは冷や汗をかいた。

 鉱石術を封じる魔具だ。


「クレア!」


 レイがクレアの魔具を外そうとすると、ばりっと耳障りな音が響いて、目を焼くほどの光が走った。

光はレイの体を壁まで吹き飛ばし、叩きつけられた衝撃で意識を失ったのか、そのまま床に崩れ落ちた。

 レイの体を包むように、鉱石術で発生した電気がばちばちと音を立てて発光している。


「レイ!」


 クレアは必死にレイに手を伸ばしたが、ルベンに引き寄せられてそれも叶わなかった。


「離せ! よくも、よくもレイを!」


 レイを傷つけられて、クレアの視界は深紅に染まった。

 剣を引き抜こうしたが、その手を払われて、弾かれた剣が乾いた音を立てて床を滑った。


「くっ!」


 クレアは抵抗するように、間近に迫るルベンをにらんだ。

 いつもならクレアの怒りに反応して炎の鉱石術が発動したが、魔具のせいでそれも望めない。


「他の聖女の祈りで作られた魔具だ。いくらきみでも鉱石術は使えない。役に立って良かったよ」

「この外道!」

「クレア」


 鉱石術が使えなければ圧倒的にクレアの不利だ。

 魔具についた鎖で引き寄せられて、両腕ごと拘束するように抱きしめられる。

 激しくもがくクレアを宥めるように髪を撫でられ、鼻先にルベンの顔が迫った。ぞっと全身に鳥肌が立った。


「王都に帰ろう。これからは俺がきみを守ってみせる。きみを怖い目に遭わせたライザも近づけさせないよ。もう一度やり直そう。俺たちなら大丈夫、心配ないよ」

「ふざけるな! 私はもうあなたを望んでいない! 私が信じたのはレイだけよ!」


 感情が制御できなくて、じわりと目尻に涙が浮かんだ。

 ライザと愛を囁き合いながらクレアを貶すルベンに、どれほど心を傷つけられたことだろう。嘔吐を繰り返したあと、普通に呼吸をするだけの行為がどれほど難しかったのか、この男は何も知らないのだ。

 謝罪をすれば何もかも許されて、そしてもう一度クレアを支配できると思っているのだろう。

 ルベンは何を勘違いしたのか、クレアの涙を見てうっとりと目を細めた。


「クレア、泣かないで。遅くなって本当にすまなかったね。これからはつらい思いなんてさせない。俺が絶対に守ってみせる」


 ルベンは優しく囁いて、クレアの前髪に口づけた。

 むせかえるような香水とあいまって吐き気がした。


「嫌だ、触るな! 私が許すのはレイだけだ!」

「可哀想に……あんな化け物に毒されて」

「黙れ! お前がレイを語るな!」


 クレアは声が枯れるほど叫んだ。

 その時、視界の端で青白い光が走った。


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