告白1
レイはクレアに対して素直に好意を伝えてくれる。
レイの感情が未熟で不完全なこともあって、最初は本気にしていなかったのだが、近頃はその表情や言動にも不自然さは感じない。
話をするならいましかない。クレアは見慣れた石造りの家の扉を開いた。
「おかえりなさい」
クレアに気づいていたのか、レイがわざわざ出迎えてくれた。
太陽のようなまぶしい笑顔に、胸がほわりと温かくなる。
「た、ただいま」
最近では自然に返せるようになった挨拶が、きょうばかりは不自然になってしまった。
レイもそれに気づいたらしく、不思議そうに首を傾げる。
「うん? 何かありましたか?」
「ううん、いい匂いがするなって思って」
とっさに甘い匂いを指摘すると、レイの笑顔がさらに輝きを増した。
クレアは思わず胸を押さえる。
レイへの想いを自覚してから、この笑顔にさらに弱くなってしまった。
「ふふ、クレアの大好物のクッキーを焼いたのですよ。今回は新作の苺ジャムつきクッキーもあります!」
あなたに食べてほしくて頑張りました! と純粋すぎる好意に胸の奥がきゅんと鳴った。
すっかり胃袋までつかまれている。
「あ、あのね、レイ。ちょっと話があるんだけど」
「はい? あぁ、それならさっそくお茶にしましょう」
「手伝うわ」
「ありがとうございます。でもきょうは僕にやらせてもらえませんか?」
レイは木の皿におしゃれな紙を敷いて、その上に焼きたてのクッキーを載せた。そして赤いバラの描かれたティーカップを用意して、赤茶色の美味しそうな液体を注いでいく。
「きょうは仕事が休みなので、ずっとクレアと一緒にいられます」
そう言って、レイは終始ご機嫌な様子だ。クレアは胸がいっぱいになってしまって、なんて返せばいいのかわからなくなってしまう。
レイは特に気にした様子もなく、ただ嬉しそうにクレアの向かいの椅子に座った。
「どうぞ、召し上がってください」
「至れり尽くせりね。いただくわ」
クレアは、レイの新作である中央に赤いジャムがついたクッキーを食べた。
ジャムのほどよい酸味と甘さがとけあって、頬が蕩けそうだ。
「美味しい!」
「ふふ、よかった。きょうは自信作でしたからね」
レイは満足そうにうなずいて、クレアと同じクッキーを食べた。
クレアは、王都で監禁されていた頃とは比べものにならないほど安らかで、充実した日々をすごしている。
決して裕福な暮らしではないが、それでも毎日を暮らしていくのに不足はない。
誰かに祈りを強制されるわけでもなく、自分たちの城でのんびりとクッキーと紅茶を嗜む。
そして目の前には天使が微笑んでいる。
「レイ、その、話というのはね」
「はい。なんでしょう」
もしかしたら、いまから切り出す内容は、このささやかな幸せを壊してしまうかもしれない。
赤茶色の液体に映る顔は、緊張に強張っていた。
好意をもたれているのは知っている。
問題はその種類だ。本当に恋愛感情だろうか。
勇気を出すのよクレア。
クレアは己を鼓舞して、顔を上げた。
「そろそろ好きな子とか、できたんじゃないかしら」
レイはきょとりと目を丸くした。
 




