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因果応報の聖女2

「グロリアのみなさま、こんにちは。僕はフォルトゥナ教団の者です。このグロリアに十年ぶりに聖女が訪れるということで、みなさまにはひとつ聖女様へのお迎えの儀式を頼みたいのです」


 若い女性たちがはしゃいだ声を上げて、それから男性たちも中性的なレイをじっと見つめている。

 クレアは痛みを訴える頭を押さえた。


「とは言え、この地域はフォルトゥナ教会もそれほど多くはありませんから、聖女にも馴染みがないという方がほとんどかと思います」


 出店の店主たちも手を休めて、興味津々にレイの演説に耳を傾けている。


「エンピレオの結婚式をご存知ですよね。聖女にとって結婚式とは見える形の愛として、とても重要な儀式とされています。いまではどの地域の結婚式も多少の違いはあっても同じ様式だと思います。まずは友人たちや参加者からの妨害を受けて、その試練をふたりで乗り越えて礼拝堂に向かい、そこで女神フォルトゥナに愛を誓う」


 クレアは早々にあきらめてレイの演説を聞いた。

 凛としてよくとおる声だ。こんな状況でなければ心地良いとさえ思う。


「ところで、この地域の『試練』は特に過激と有名ですよね。この日ばかりは貴族も平民も無礼講。愛の試練とは建前で、その妨害は美しい新郎や新婦を妬んでの行いとも見えなくもないとか。彼らの顔はこの世のものではなかった、とは彼の有名な画家アレクの残したことばです」


 どっと笑いが起きる。

 「おかげで離婚率は低いですよ」と誰かが言った。

 「私とどうかしら。可愛い坊や」と妖艶な声がレイを誘う。


「ふふ、熱烈ですね。ぞっとしました」


 ほどよい毒を効かせた返事に、再び広場が沸いた。

 レイの意外な特技に、クレアは驚かされてばかりだ。


「先ほども申しましたが、聖女にとって結婚とは祈りの力を強める大切な儀式です。あしたこちらに訪れるライザ様にはその試練を与えていただきたいのです」


 レイの真剣なまなざしに、人々は惹きこまれていく。いつしか広場は静まり返っていた。


「彼女は祈りの力を得るためにここに訪れます。遠慮はいりません。どうか、みなさまの力を貸してください。善悪もなく、愛を降らせなさい……女神フォルトゥナの加護があらんことを」


 レイが両手を組んで祈りを捧げると、割れんばかりの拍手が鳴り響いた。

 レイは歓声に応えながら素早くフードを被り直して、建物の陰に避難していたクレアのもとへもどって来た。


「ただいま、クレア。勝手なことをしてごめんなさい」

「あんまり反省してないようね? 何を企んでいるのかしら」


 そういうクレアも怒っているわけではない。それを察してか、レイはにこにこと満足そうだ。


「演説のとおりですよ。ここの結婚式の試練は少し過激ですから、ぜひ聖女ライザにも体験していただこうという善意です。あなたもご覧になられては? 聖女の力も高まりますよ」

「あなた、天使の皮を被った小悪魔ね」

 

 レイは目を細めた。


「ご存じありませんでしたか。悪魔だってもとは天使なのですよ」

「憤怒の魔女にはお似合いかもね」


 クレアは腰に両手を当てて、わざと呆れたふりをした。


「仕方ないわね。野宿も飽きてきたし、宿をとりましょうか」

「やったぁ」

「では、我々が手配いたしましょう」


 クレアが柄に手を添えながら振り返ると、暗い路地には不似合いの、質の良い服に身を包んだ壮年の男が立っていた。

 いかにも貴族らしい品の良い顔立ちをしている。


「まあ、そう警戒なさらずに。あなたたちが村で病人と負傷者の治療を行った聖女様と天使様ですね? 教団や騎士団に連絡するつもりはありません」

「何の用かしら」

「おふたりを我が屋敷に招待したいのです。いかがでしょうか。教団や騎士団と鉢合わせ、なんてことも防げると思いますが」


 男はあくまで教団と騎士団とは無関係であることを強調した。

 相手の意図も不明で、完全に信用することはできないが、話を聞くだけならば、とクレアは柄から手を離した。


「うぅ……すみません、僕のせいです」


 目立ちすぎる行動をしたと自覚しているレイは、申し訳なさそうに謝罪した。


「村から情報を得たのでしょう。私だって同罪よ」


 村人に口止めはしていたが、情報が漏れたのならば仕方がない。

 クレアとレイは男の屋敷に招待されることになった。


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