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死にゆく村2

 扉が開いて、レイが恥ずかしそうにしながらもどって来た。

 クロークのせいで全体はよく見えないが、青を基調とした旅人風の服装だった。


「どうでしょうか」

「うん、似合うじゃない」

「ほ、本当ですか! 嬉しいです」

「可愛い~! 本当はワンピースを着せたかったけど!」

「着せ替え人形じゃないのよ。行くわよ」

「はい!」


 クレアはレイを連れて、さっそく依頼書にあった村へと出発した。

 途中までは近くまで向かうという馬車に乗せてもらい、あとはなだらかな丘を歩く。

 運動不足のレイにはかなりつらそうだったが、クレアに置いて行かれまいと必死について来る根性には舌を巻いた。


「このあたりは山ばかりね。聖女と騎士団がこんなところまで来るなんて珍しいわ」

「はぁ、はぁ……そ、そうですね。馬車を使っているとは言え、聖女がここまで旅をするなんて」


 レイが追いついたのを確認して再び歩き出そうとしたクレアは、風に運ばれてきた臭いに眉をひそめた。


「血の臭いがする」

「クレア、あそこ。誰かが戦っています」


 レイが丘の下を指差した。

 ここから距離があるが、遠目に中型魔獣と対峙する人影が見えた。


「あの動き、どう見たってハンターじゃないわ」

「僕に任せて」


 レイが右手を魔獣に向けて伸ばすと、魔獣の足元から剣のような巨大な氷柱が出現し、魔獣の体を貫いた。

 人影が驚いたように周囲を見回している。


「鉱石術が得意っていうのは、口だけじゃなかったようね」


 クレアからの賛辞に、レイはぱっと目を輝かせた。


「は、はい! でも僕の力では動きを止めることしかできません」

「とどめは任せなさい。ついてきて」

「はい!」


 レイの気配を背後に感じながら、クレアは剣を抜いて丘を駆け下りた。

 魔獣と対峙していた人影がクレアに気づいて目を見張る。

 クレアと歳も変わらないような少女だ。

 クレアは斜面を蹴って跳躍すると、ほとんど泥のような見た目の魔獣の頭上に剣を突き立てて、目を閉じて祈りを捧げた。

 すると魔獣の輪郭が淡く輝いて、煙のように消滅した。

 クレアが氷を蹴って地面に降り立つと、少女が駆け寄ってきた。


「あの、助けてくださってありがとうございます!」


 茶髪の長い髪をふたつに結った少女は、傷だらけの顔に笑顔を浮かべて頭を下げた。

 ワンピースは穴だらけで、所々赤黒い染みがついている。その手にはどう見ても扱い慣れていない長槍がにぎられている。


「私はローズよ。後ろで息を切らしている子はノア。依頼を受けて来たわ。あなたひとりでよく魔獣と戦ったわね」

「チェロ・アリサです。アリサと呼んでください。もうひとりいたんですけど、足を怪我してしまって」


 アリサの背後にある木の根元には男性が座っている。

 血だらけの右足をベルトで止血して、そのまま気を失っているらしい。


「聖女と騎士団は来なかったの」


 クレアが尋ねると、アリサは嫌悪感をあらわにして、


「あの人たちは悪魔だ」

「何があったの」

「彼らは村が魔獣に襲われているとわかっていたのに、見捨てたんですよ!」

「見捨てた? なぜです?」


 レイが首を傾げる。

 アリサはためらう素振りを見せて、うつむいて言った。


「この村には謎の病気が流行っていて、それを知った聖女様は急いで逃げたんです。あの金髪のライザとか名乗った聖女です」


 ライザの名前に、クレアの顔が強張った。


「私が引き止めようとしたら、持っていた杖で私を突き飛ばして、病原菌扱いをしたんです!」


 ライザならやりそうだとクレアは納得した。


「私にうつったらどうしてくれるの? お前なんかの安い命と聖女の私の価値は平等じゃないのよって。それでも聖女の祈りがあれば病気が治るかもしれないから、って頼んでもあいつは見向きもしなかったわ」

「そのクズ女の肩をもつつもりは一切ないけれど、聖女の祈りは基本的に病気を治療するためのものではないわ。人間の体内にある魔力に働きかけて治癒力を高めるだけだもの」

「そ、そうなんですか?」


 アリサは困惑した様子だった。

 憎いが、頼りにしていた聖女の力が無駄かもしれないと聞かされて、途方に暮れているようだった。


「どんな症状ですか?」


 レイが手を差し伸べるように尋ねた。

 暴走状態にあったクレアを鎮めた時と同じように、見返りを求めないまま相手に深入りしようとしている。

 思わず肩をつかんだクレアに、レイは我に返った。


「あ、だめですよね」


 レイの悲しそうな顔に、クレアはぐっと唇を噛みしめる。レイのこの顔に弱いのだ。


「仕方ないわね」


 クレアの了承ともとれる台詞に、レイは喜色を浮かべた。

 魔獣討伐ならばいいが、病気のことなど専門外である。もしこちらにも危険が及びそうなら逃げることも考えなければならない。


「病気のことはわからないけれど、そこの怪我人を運ぶのは手伝うわよ」

「ありがとうございます!」


 アリサにとっては気休めになったようで、その顔に安堵の色を浮かべた。



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