既に準備されていたバンド結成
億劫になってくる
(ちゅどーん)
「あ”っ!?くそ!何が起こった今!?」
「ちょっと瑞葉!黙ってハメ技決めないでくれないか!?」
「…私のサポーターカプセルの恨み」
「いや『私の』とかねーんだよ!はっ!おい啓示!何一人逃げ回ってんだ!」
「あっヤバいばれた」
「永助瑞葉!あいつねらえあいつねらえ」
「らじゃー」「了解した」
「なんでこういう時だけ仲いいのかな!?」
唐揚げをたらふく食べた後、僕たち六人は、僕の部屋でだらだらと談笑していた。
僕と菜月を除いた四人は多人数格闘ゲームで白熱しているようだ。
「ふふ、相変わらずの騒がしさね」
「ああ、随分と懐かしく感じるな。三年って長かったんだなあって今改めて思う」
「そうね。ねえ、孝一」
「ん、何だ菜月?」
菜月は一拍置いて言った。
「…変わったわね。あなた本当に。あの時と比べて」
「ん、まあ、変わろうともしたしな。言うとしたら中学の仲間と馬鹿やってたらいつの間にか変わってたって感じだ」
「大会三連覇を知ったときはすぐには信じられなかったわ。試合直後に引退宣言したことも含めてね」
「そのことコーチとオーナーにしか伝えてなかったからな。観客も実況も解説も全員驚いていたの今でも面白くて笑っちまうよ」
「そう。あなたはとても変わった。でもね」
菜月はもう一拍置いて言った。
「でも、ただ変わっただけじゃない。ただ強くなっただけじゃない。元々のあなたの優しさは、ちゃんと残ってる。私が好きだったあなたの、そして今も私が好きなあなたの」
菜月はそう言った後、いきなり自分の口で僕の口を塞いできた。
付き合ってからまだ両手で数え切れるほどだけしかしたことがなかったもの。
久々のキスで脳が痺れるような感覚に陥りかけたがなんとか持ちこたえた。
一方菜月は存分に僕の口中で暴れた後、自身の唇を舐めて言った。
「再集結して初めてのキス、頂いたわ」
その台詞が大人びた菜月にマッチしすぎてしまい、あまりのセクシーさに見惚れてしまう。
「全く。相変わらず強引だなお前は」
「だってあなた、たまにしか愛を囁いてくれないんだもの。これくらいは許して頂戴」
何とか僕が捻り出した言葉に菜月は妖艶に笑って返す。
「…いつまで続きますかねー」
「君たちの熱々ぶりも相変わらずだと思うよ」
「せめて見えないところでやってくれないか」
「…おっぱいのついたイケメン、結婚式はいつですか」
四人の言葉で僕は我に返った。
いつの間にか見られていたようだ。
ヤバい凄まじく恥ずかしい。
「ああ、そういえば。健勇、あなた孝一にあれ伝えなくていいの?」
あれ?あれって何だ?
「おう、そうだな。なあ、孝一。六人でバンドやらないか?」
…はい?
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「孝一はついこの前引退宣言したから当分暇だろ?加えて俺も菜月も黒帯取得して少し道場卒場ってほどじゃないが休みを取れたんだよ」
「おお!二人とも黒帯取れたのか!おめでとう」
「おうサンキュ。それで全員春休みぽっかり空いてるんだ。そしたら啓示がアマチュアバンドのオーディションに参加しないかってな」
「せっかく再集結したからには思い出作りしたくないかい?受験も終わったことだし」
確かにな。
春休み中具体的に何しようか考えてなかったしな。
「楽器は山吹川家が用意するから心配はないよ」
「孝一以外はもう決まってる。俺がドラムで菜月がギター、啓示がベースで永助がサックス、瑞葉はキーボードだ」
もうそんなに話が進んでたのかよ。
「あれ?肝心のボーカルは誰がやるんだ?」
「「いや、お前(君)に決まってるだろ。孝一」」
「マジかよ」
五人のポジション聞いたときに軽く予想してたけどマジかよ。
僕が歌うのか。
「一番大事なボーカルが僕でいいのか」
軽く心配になって聞いてみた。
「少なくとも俺たちは全然問題ないと思ってるぞ」
「普通に上手いしね」
「…透き通るような歌声。加えて声域も広い」
「菜月も上手だが孝一には勝てんな」
「その通りね。低いハスキーボイスから女性声まで出せるなんて完敗よ」
不満はなさそうだ。
「でもそれ小学生だったときの話だろ?今はどうなのかわからないぞ?」
「オーディションに出るだけだからさ。上手くいかなかったらやめればいいよ」
「とりあえず一回やってみようぜ?今までも新しいことに挑戦してきただろ?」
新しいことに挑戦してきた、か。
「それもそうだな。やってみるか!」
「おう、その意気だ!じゃあ次の土曜日朝9時阪急梅田駅改札前集合な」
「スタジオと楽器用意して待ってるよ」
「いくら何でも早すぎないか?」
用意周到すぎるだろと思いながら、六人で遅くまでゲームをしながら過ごしその日を終えた。




